旅とメイハネと音楽と

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#106

ノルウェーの首都、オスロ取材記〈2〉

文と写真・サラーム海上

■最新の移動式サウナボート『コック・オスロ』

 

 2019年10月29日火曜午前9時、オスロの四つ星ホテル、クラリオン・コレクション・ホテル・フォルケティーテレトの朝食ブッフェでスモークサーモンやブラウンチーズなど地元の朝食をたっぷりいただき、お腹いっぱいになった僕(前回#105参照)は消化のため散歩に出ることにした。だが、日本を出る直前まで忙しく、オスロについて調べる余裕はなかったので、どこに行って何をするか、何のアイディアもなかった。
 とりあえず海を見ようと、中央駅の南側に広がるビョルヴィカ地区を目指した。オスロは南北に細長い湾、オスロ・フィヨルドの最北奥に位置する町。フィヨルドに面したビョルヴィカ地区は20世紀には工業地帯の港湾として栄えたが、水質汚染などが問題となり、工業地帯は郊外に移され、今では環境に配慮した再開発が行われている。
 駅から5分ほど南に歩くと、正面に静かな水面の藍色の海が見えてきた。その左手には白い屋根と透明なガラスの組合わせがまるで氷山のような形の巨大な建築物、オスロ・オペラハウスがドーンと構えていた。オペラハウスは通路と屋根、そして一部の壁面が平面でつながっていて、一階の入り口を目指して歩いていたが、いつのまにか屋根の上を歩いているような、まるでだまし絵の中にいる気分になる。最近ではクリストファー・ノーランの映画『テネット』で主人公2人が荒唐無稽な作戦を練る際のロケ地としてこの通路兼屋根が用いられていた。

 

午前中のオスロ中央駅前。オスロは緯度が高いので太陽は日本よりも遥かに低い位置にあり、晴天にもかかわらず、気温は7℃と低かった

 


2008年にビョルヴィカ地区にオープンしたオスロ・オペラハウス。前夜に知らぬ間に降っていた雪で床がツルツル滑る!

 

 オペラハウスの屋根からビョルヴィカ地区を見下ろすと、正面の埠頭に煙突の付いた小さな屋形船が二艘浮かんでいるのが見えた。なんだろう? 歩いて近づくと、埠頭沿いに『Kok Oslo(コック・オスロ)』という立て看板が出ていた。これはサウナ好きの友人から聞いていた最新の移動式サウナボートじゃないか! タンペレの6日間ですっかり北欧サウナの虜となってしまった僕には、これは天からの恵みかも? 
 コック・オスロは2階建ての屋形船。甲板の上に北欧らしいミニマルデザインの木製の四角い小屋が建っていて、四方の壁にガラス窓が設けられている。そして船尾の甲板に屋上に登る階段があり、屋上は埠頭と同じ高さになっていて、渡し通路をかければ埠頭からそのまま歩いて乗船出来る。船は施錠され、人の気配はなかったが、ウェブサイトのURLが記されていたので、その場でインターネットでアクセスした。

 すると団体客向けの貸し切りでフィヨルドを回るクルーズサウナや10人限定の一般営業など、その日ごとに営業形態が異なっていたが、運が良いことに翌朝水曜の午前7時から一般営業を行っていた。おお、急いで予約せねば! 埠頭脇のベンチに腰掛け、財布からクレジットカードを取り出してオンライン予約した。金額は200ノルウェークローネ、約2500円。

 

オペラハウスの屋根からビョルヴィカ地区を見下ろすと正面の埠頭に謎の屋形船が二艘!

 


近づくと最新の移動式サウナボート『Kok Oslo』だった!

 

 その日は渋谷と浅草に支店があるカフェ、『フグレン』のオスロ本店で美味いコーヒーをいただき、午後はムンク美術館に行き、「叫び」を鑑賞した。そして夕方から今回のメインの取材先である「オスロワールド」の開会式に出席し、泊まっている宿と同じ建物内にある歴史的な劇場「フォルケティーテレト(人民劇場)」で、素晴らしいオープニングコンサート「ユートピアン・ララバイズ」を観た。オスロワールドについては次回に記そう。

 

人気カフェ、フグレンのオスロ本店。NHKの裏通りにある渋谷支店は何度も訪れていたのだ

 


午後は地下鉄に乗って市内東部のムンク美術館へ行き、「叫び」を初鑑賞。この奇妙な色彩! ちなみに「叫び」には5つのバージョンがあるそう

 


夜からはフォルケティーテレト(人民劇場)にて「Oslo World」がスタート

 


世界7カ国8人の女性歌手 とノンバイナリー歌手が参加したオープニングコンサート「ユートピアン・ララバイズ」

 

 そして翌朝、午前6時に目を覚ました。夏時間から冬時間へと移行したばかりの10月末のオスロ、まだ外は真っ暗だ。海水パンツとバスタオルとミネラルウォーター、そしてスマホと一眼レフカメラだけ持って、誰も歩いていない町に飛び出した。気温はマイナス4℃。オスロはタンペレよりも南に位置するが、タンペレよりも冷え込みが厳しい。
 6時50分、ビョルヴィカ地区の埠頭に着くと、夜は少しずつ白んできて、青白い空にオペラハウスから漏れる黄色い灯りが浮かび上がっていた。コック・オスロからもオレンジ色の灯りが漏れていて、中で女性スタッフが開店準備を始めていた。この日は僕が一番最初のお客らしい。開店時間の7時になると、女性が階段を登ってきて、屋上から埠頭へと折りたたみ式の渡り廊下を伸ばしてくれた。
「おはようございます。予約した海上です」
「おはようございます。ようこそコック・オスロへ。初めてですか? 海水パンツとバスタオルは持ってきましたか? 室内は手前が更衣室で奥がサウナです。全員揃ってから火の温度を上げるので、それまでサウナでリラックスしていて下さい」

 

朝6時50分のビョルヴィカ地区。右がオペラハウス、左は公立図書館

 


コック・オスロも開店準備中

 

屋形船の屋上から埠頭にかけられた渡し廊下

 

 階段を降りると、船尾側の甲板になっていて、中央に船外機が設置されていた。季節が良ければ白夜の夜にフィヨルドをゆっくりとクルージングしながらサウナを楽しむことも出来るのだろう。船首側の甲板に入り口があり、靴を脱ぎ、更衣室に入る。6畳ほどの更衣室は男女共同だ。そこで海水パンツに着替えていると、次々とお客さんが入ってきた。

 

一階手前の男女共同の更衣室。ベンチの下が貴重品入れになっている

 

 更衣室の奥の扉を開くと、そこがサウナ室。真新しい木材の香りと炭火の香り、うっすらとティートゥリーのアロマオイルの香りが混じっている。サウナ室は正面(船尾側)と左奥に向かって二段のひな壇式になっていて、詰めれば15人ほど腰掛けられそうだ。右手は大きなガラス窓になっていて、その手前にはサウナストーブが設置され、煙突が天井を貫いている。
 温度計を見ると、室内はまだ75℃でぬるいくらいだ。それでも、ガラス越しに次第に明けていく空を眺め、サウナの最上段に腰掛けているのは悪くない。5分ほどで本日の予約者全員が揃った。20~40代の男性が3人、20代の女性2人、初老の男女カップルが二組、そして僕、総勢10人。うち6人が地元客だが、仕事でオスロに赴任しているというアメリカ人とドイツ人の男性、カナダ人の女性、そして僕が混じっていたため、室内の会話は自然と英語になった。
 自己紹介を兼ねた会話をしていると、係の女性が入ってきて、サウナストーブに薪を数本くべた。すると室温がグンと急上昇した。次に彼女が熱せられたサウナストーンにひしゃく3杯の水をロウリュすると、「ジョワー〜!ジャァ〜!」と蒸気が上がった。それから彼女が手に持っていたタオルをブンブンと振り回し、室内の空気を更に循環させると、熱気がドバーっと僕の全身に襲いかかってきた! 

 熱い! 鼻の粘膜は火傷しそうだし、もう目を開いてもいられない! これは一気に95℃を超えたのでは?! 目をつぶって口と鼻をタオルで覆って、さらに5分ほど全身が真っ赤になるまで耐えてから、サウナ室から飛び出した。

 

サウナ室のベンチは二段式。ベンチの下に間接照明があるのが雰囲気良いね

 


そしてこちらがサウナストーブ。外はだんだんと空が白んできました!

 

 甲板に出ると、目の前で初老のカップルが海にザボンと飛び込んでいた。水温は摂氏4℃で、三日前に訪れたタンペレの『ラウハニエミ・サウナ』(連載#104)の水温は2℃だったので、それよりは温かいが、オスロは外気温がマイナス4℃とかなり低い。甲板に立っているだけでも身体は冷えてくる。

 それにここはフィヨルド地形で、埠頭沿いでも海はかなり深いはず。心臓麻痺を起こして、そのまま溺れたらどうしよう? だが、ここで飛び込まなかったら来た意味がない! 意を決して足からザボンと飛び込んだ。
 海はもちろん足が届かない深さだった。数メートル沈んでからそのまま浮かび上がってくると、十秒前まで火傷しそうなほど熱せられていた身体が急激に冷やされ、滞っていた血流がドバーっと開くようで、海に浮かびながら笑いが止まらなくなった。これはランナーズハイに近いかも。
 次に水から上がると、今度は冷えすぎで全身がジンジンと痛くなる。それを耐えて乗り越えると、最後にはなんともいえないジワジワとした快感が訪れる。要は「トトノウ」ってやつだ。これはやみつきになる~!

 

10分ほど我慢して、甲板に出ると地元の夫婦が先にフィヨルドにダイブしてました!

 


そんな訳でオレもダイブ!(ただし、足から)

 

冷たい海から上がると、全身が痛い!痛い!

 

 再びサウナ室に戻り、10分のサウナ、ロウリュ、フィヨルドへのダイブ、甲板でチルアウトを合計4セット繰り返すと、全身がポカポカになり、脳がビカァっと覚醒した。今日のところはこれで十分だ。十分すぎるほどトトノった。

 

ダイブを数回繰り返して、やっと溺れる心配なくプカプカ浮かべるようになりまスた!

 

フィヨルドの幻想的な風景

 

 それにしても一国の首都、大都市に面した海が泳げるほど透明というのは素晴らしい。東京湾とは全然違う! 同席したお客から聞いたところでは、工業地帯だった頃は海水が汚染されていたが、早くから水質保全活動を行ってきたことで、21世紀初頭には泳げるほどに水質が改善された。そして、海に面したサウナはほんの数年前に始まった新たなトレンドとのこと。

 なるほど、オスロでは、タンペレのようにサウナが伝統という訳ではないのか。そうだとしても、大都市にいながらにして、フィヨルドにダイブ出来るサウナを楽しめるなんて、世界広しといえどオスロだけじゃないだろうか?

 

■スウェーデン料理「ヤンソンの誘惑」を作ろう

 

 さて、今回はノルウェーの隣の国、スウェーデンを代表する料理「ヤンソンの誘惑」を作ろう。僕はスウェーデンを訪れたことはないが、この料理は30年も前から東京のスウェーデン料理店で親しみ、自宅でも作り続けてきた。パン粉やチーズ、牛乳、刻みパセリを加えても美味しいし、メークイーンの代わりに色鮮やかなインカのめざめやシャドークイーンを使っても美味い。超簡単で北欧気分が味わえるので、ぜひ!

●ヤンソンの誘惑
【材料:作りやすい量】
メークイーン:大4個(800g)
玉ねぎ:1/2個(100g)
バター:大さじ2
アンチョビー:フィレ10枚
生クリーム:200g
黒胡椒・小さじ1
【作り方】
1.オーブンを200度に予熱しておく。メークイーンは皮をむき、1cmほどの細切りにし、水にさらしておく。玉ねぎは皮とヘタを取り、薄切り。アンチョビーはざく切りにしておく。
2.フライパンにバター大さじ1と1/2を熱し、玉ねぎを加え、キツネ色になるまで炒めてから、水をしっかり切ったジャガイモを加え、表面に油が回るまで炒める。
3.耐熱皿に残りのバターを指で塗り、炒めた玉ねぎとジャガイモの半分を敷きつめ、アンチョビーの半量を散らす。更に残りの玉ねぎとジャガイモをのせ、残りのアンチョビーを散らし、最後に生クリームを回しかけ、黒胡椒を振りかける。
4.耐熱皿をオーブンに入れ、40分焼く。生クリームが煮詰まり、表面に焼色が付いたら出来上がり。

 

ヤンソンの誘惑、完成! ジャガイモにアンチョビーの塩気とクリームで完璧な味わい!

 

(オスロ編、次回に続きます。お楽しみに!)    

 

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*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉    

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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