料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#61
第59回 東京・味の旅 軽食・スナック・テイクアウト篇
文と写真・山本益博
東京の味、カレー・ラーメン・とんかつに、
テイクアウト・デザートまで
コロナ禍にあって、今月も東京の味の旅を続けます。
まずは、「カレー・ラーメン・とんかつ」のゴールデントリオから参りましょうか。
私が20代30代の1970年80年代の頃、一番手軽に食べていたのは、「カレー・ラーメン・とんかつ」のゴールデン・トリオで、言い方を変えれば若者の「黄金の御三家」。
今から50年前、カレーでいえば、洋食屋のカレーからそば屋のカレーまでありましたが、カレー専門店はさほど目立ちませんでした。いまでも、銀座の「ナイル」は健在、カレー専門店があちこちにあります。専門店ではありませんが、新宿「中村屋」のカレーも素晴らしい。
いま、時々無性に食べたくなるカレーが2軒あります。1軒は湯島の「デリー」で、スパイスが効いた極辛がお気に入りの方にお薦めです。もう1軒が神田猿楽町の「カーマ」。定番のカレーはさらりとしていて風味豊か、添えてあるじゃがいもの美味しいこと格別です。ほかに、キーマカレーも私のお気に入りです。
「デリー」のカレー
「カーマ」のキーマカレー
「ラーメン」は、この30年、東京で最も進化を遂げた料理です。日本料理の出汁やフランス料理のフォンを応用して、鯛や貝からも見事なスープを生み出しています。
いつか「ラーメンの美味しい革命」と題して、ご紹介しようと考えていますが、ここでは、その中から2軒。1軒はニューフェイスの「琥珀」、京浜急行の雑色駅から歩いて5分のところにあり、宍道湖のしじみから取ったスープが秀逸です。行列覚悟で出かけなければなりませんが、今の東京のラーメン界の最前線を知るにはもってこいの店です。
もう1軒は三ノ輪の「トイ・ボックス」。「おもちゃ箱」と名付けられたラーメン専門店です。麺、スープ、チャーシューのバランスがとてもよいラーメンです。芳醇な醤油ラーメンがお薦め。
「琥珀」の宍道湖しじみ中華蕎麦(塩)
「トイ・ボックス」の醤油ラーメン
さて「とんかつ」ですが、今年、最も衝撃を受けたのが、自由が丘の「天元」です。沖縄のあぐー豚を揚げたものなのですが、その脂身の美味しいこと!比類がありません。口の中でたちまち溶けてしまう脂身で、脂臭さは全くありません。ヒレもありますが、断然ロースがお薦めです。
とんかつはかつが美味しいだけではいけません。ご飯、味噌汁、お新香の3点セットが揃って、初めて立派な「とんかつ定食」と言えます。以前は、和食店だったこともあり、羽釜で炊き上げる御飯も格別の味わいです。
同じ、羽釜で炊く御飯で「とんかつ定食」を食べさせる店では、大塚の「美濃屋」も素晴らしい。そして、2店とも値段が手ごろなのが気に入っています。「とんかつ定食」は、本来2000円以上してはならないと思っています。
「天元」の上ロースカツ
さて、続いては、ホットドック。新宿駅構内(ルミネエストB1)にある「ベルク」は朝7時から23時まで営業のカフェ&ビアバーです。ここでは、好きな時間に立ち寄って、ホットドックにビールです。サイドメニューで、ポークアスピックという豚肉の練り物を必ず注文します。ビールとの相性が最高です。
ハンバーガーなら、我が西荻窪の「スターダスト」。音楽好きのご主人がひとりで丁寧にバーガーを作っています。私のお気に入りはエルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」です。本格の100%ビーフパテとマッシュポテトの相性がいいバーガーです。
忘れてならないのは、小石川「洋食フリッツ」の「ヒレカツサンド」。テイクアウトのみも可能で、冷めて美味しいカツサンドです。
それから、家族でよく出かけて食べるのに、お好み焼きがあります。遠いので滅多に出かけませんが、大田区蓮沼の「福竹」は、面倒見の良いお母さんが、見事なお好み焼きを焼き上げてくれます。我が家の近くなら、吉祥寺・四軒寺の「玉屋」、注文するのは、「豚天」でふっくらとした美味しいお好み焼きが食べられます。牡蠣のバター焼きもお薦めです。
「ベルク」のホットドックとポークアスピック
「スターダスト」の監獄ロックバーガー
「洋食フリッツ」のヒレカツサンド
「玉屋」の豚天
最後に、テイクアウトのお菓子と参りましょう。
まずは、京橋のフランス菓子「イデミスギノ」。支店を一切出さないパティスリーで、杉野英実さんは頑固一徹の名人です。日本どころか、世界最高峰のお菓子と言って過言ではありません。「ランブロワジー」は、お店でしかいただけませんが、チョコレート菓子の銘品で、一度食べたら病みつきになってしまいます。
和菓子で「どらやき」でしたら、上野の「うさぎや」。洋食「ぽん多本家」へ出かけたときは、ここへ立ち寄り「どらやき」を買って帰ります。これほど小豆の香りが高くて品のよい「どらやき」はなかなかありません。阿佐ヶ谷に同系の「うさぎや」があります。家内は、ここで「どらやき」を買い求めては、お土産でもって参ります。
「イデミスギノ」のランブロワジー
次回は「名古屋・桑名」です。
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*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。山本益博さんの公式HPが新しくなりました! https://www.masuhiroyamamoto.com |