料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#17
下呂
ラ・ポワル・ドール」のフランス料理と
そばの名店「仲佐」でそばがきを嗜む
■名古屋から特急に乗って北上し下呂へ
日本の三大温泉は有馬、草津、下呂と呼ばれ、それぞれ歴史が古いが、岐阜県の下呂には今から15年ほど前から、「パストール」というホテルにご縁があった。きっかけを作ってくださったのは、銀座「すきやばし次郎」の小野二郎さんで、以来、年に1度は家族で出かける温泉だった。
その「パストール」が3月末に閉館するという話を聞いて、閉まる直前に妻の美穂子と下呂に向かった。毎回、温泉のほかに、ホテルのメインダイニング「ラ・ポワル・ドール」と日本料理「四季庵」の料理も楽しみだった。
とくに「ラ・ポワル・ドール」では、橋本シェフのフランス料理をいただきながら、メインディッシュの後に、「次郎」さんの握る江戸前の鮨を楽しむという大胆なコラボディナーを私が企画したりした。私の友人でフランスはボルドーの「プピーユ」の醸造家フィリップ・カリーユさんを招いて、年代別の「プピーユ」を飲み比べながら、ディナーを楽しむ会も開いたりした。どれもこれも、今となっては懐かしい思い出である。
名古屋から特急「ひだ」に乗って高山本線を北上すると、「下呂駅」に着く直前、右手の丘の上「PASTOR」と見える10階建ての大きな建物が、そのホテルである。11時30分に下呂駅に到着し、駅からタクシーで5分ほど、チェックインは後回しにして、早速、橋本シェフが用意してくださったコース料理をいただいた。
魚料理は「サーモン・ミキュイ」(鮭の半焼き)肉料理は「飛騨牛のステーキ」、それぞれに甲州の白ワイン、ボルドーはポムロールの「ドメーヌ・ドゥ・シュヴァリエ2003」を合わせた。
食事を終えたらチェックインもそこそこに露天風呂付の温泉に浸かって、都会の垢を落としたのだった。夜は、「四季庵」で日本料理、伊勢海老のお造り、甘鯛のお椀、ねぎとまぐろの「ねぎま鍋」などを楽しんだ。
翌日、出かけたのは、そばの「仲佐」。知る人ぞ知るそばの名店で、いまや日本中からそば好きがやってくる下呂で最も有名な飲食店と言ってよい。私はこれで3度目の訪問である。
予約で指定された11時半ぴったりに出かけると、すでに大勢の予約客が列を作っていた。席に着いてからわかったことなのだが、「そばがき」が限定10食なので、席を予約したからと言って、お目当ての「そばがき」が食べられないのでは甲斐がない、そのために早くから店の前に並んでいるのだった。
その「そばがき」を二人でひとつ、それにざるそばを注文した。
「そばがき」は醤油とわさびが添えられているのだが、まずは何もつけずにいただくと、豊かなそばの香りが鼻をくすぐった。空気をいっぱい含んだ「そばがき」は、そばのムースとも呼びたい逸品だった。
続いての「ざるそば」もそばの香りが素晴らしい。さすが、石臼でゆっくりと手挽きしているからこそのそばの香りで、急いで石臼を回したり、機械で挽いていては、このそばの命は楽しめない。
最後は「蕎麦饅頭」。あずきを使わず、そばのみで団子を作り、黄な粉をまぶしてある。これが上品な味わいで、そば屋のデザートとして、申し分のないものだった。添えられたそば茶が穏やかな味わいで、妻と、今度はそば好きの仲間を連れてくることにしようと言うことになった。
■「ラ・ポワル・ドール」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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「サーモン・ミキュイ」(鮭の半焼き) | 「飛騨牛のステーキ」 |
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惜しまれつつ3月に閉館した「パストール」 |
妻の美穂子と「ラ・ポワル・ドール」にて |
■「仲佐」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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ざるそば | そばのムースとも呼びたい逸品 |
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大勢の予約客の行列 | 上品な味わいのデザート「蕎麦饅頭」 |
*この連載は毎月25日に更新です。次回は「富山・金沢」へ。