料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#02
冬の鳥取
■「蟹」は、こちらから出向くことが肝要
毎年、冬になると、仲間を誘って鳥取まで夫婦で蟹を食べに出掛けます。わざわざ「松葉蟹」を食べるだけの旅です。「蟹」と「筍」は、我が家に取り寄せるのではなく、こちらから出向くことが肝要です。なぜなら、なにより鮮度が命だからです。いただいてみれば、すぐに答えがわかります。「蟹」も「筍」も獲れたてですと、そのあまりの瑞々しさに感動します。水分の乏しい「蟹」はまるで抜け殻同然なのですが、東京まで取り寄せて食べていては、その醍醐味はわからずじまいです。
目指す店は、鳥取市内の「かに吉」。東京から鳥取までは飛行機でわずか1時間15分です。鳥取から近いはずの関西から出かけると、岡山経由でいっても3時間以上かかってしまいますから、何とも便利です。羽田から午後の便で鳥取へ向かい、まずはホテル「モナーク鳥取」にチェックイン。市内にはいくつものホテルがありますが、「かに吉」まで歩いて5分ほどで行くことができる便利さもあり、いつもここに宿泊です。レセプションの人たちが、笑顔で出迎えてくれます。天然温泉の大浴場も魅力です。
そうして、お腹を空かして「かに吉」へ。毎回お願いするのは「松葉蟹のフルコース」。突き出しの「蟹みそ」から、皆さん「おぅーッ!」と感嘆の声を挙げます。これから出てくる蟹料理の数々を期待するのに十分すぎるスターターです。刺身、焼き、茹で、と次々に蟹の身が現れ、ご主人の山田達也さんがそれを丁寧に捌いたり、食べ方を教授して下さり、私たちが「蟹の命はその水分にあり」を実感する瞬間です。そうして最後は、「魂炊(たますい)」と名付けられた「蟹雑炊」で締めくくられます。松葉蟹は顔つきは海のジビエですが、姿は日本海の女王。そして、その味わいはエレガントな「甘露」としか言いようがありません。「かに吉」で蟹を食べると、東京で蟹を食べる気が起こりませんから、贅沢ではありますが、無駄遣いをせずに済みますね。
さて、翌日、はじめて鳥取を訪れた方は砂丘を見に出かけますが、私たちはホテルで朝食をとった後、昼食代わりに、少し離れた「トゥジュール」というパティスリー(フランス菓子店)まで足を延ばします。薪でパンを焼きたいがために、街から遠く離れた場所に店を開いたそうです。ここで、おいしいケーキをいただきながら、しばし寛ぎます。パティシエの稲木稔さんは、東京・京橋の「イデミスギノ」で働いたことがあり、選ぶのに迷うほど見事なケーキが並んでいます。当然、お土産は薪で焼きたてのパンですね。お薦めはパン・ド・カンパーニュ!
市内に戻り、帰りの飛行機まで時間がある時は、民芸の「たくみ工芸店」へ出かけたり「万年筆博士」へ立ち寄ります。オーダーメイドの万年筆は、出来上がるまで時間がかかりますが、それだけにとても貴重です。
蟹のシーズンは11月初旬から翌年3月下旬まで。絶対にお薦めの「蟹の旅」です!
■夕食は、お腹を空かして「かに吉」へ PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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顔つきは海のジビエ | 蟹の刺身 | 茹でた蟹 |
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蟹雑炊「魂炊(たますい)」 | ご主人の山田達也さんと妻の美穂子 |
■宿泊 ホテルモナーク鳥取
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ヨーロッパ・ルネッサンス調な外観 | 天然温泉大浴場「おしどりの湯」 | 上品で寛ぎに満ちた客室 |
■昼食代わり パティスリー「トゥジュール」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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丁寧に作られたおいしいケーキ | 焼き菓子の品揃えも豊富 | フランスの田舎風な外観 |
■お土産 「たくみ工芸店」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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温かみのある各地の器たち | 木で作られた工芸品 |
■お土産 「万年筆博士」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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こだわり派憧れの店 |
【店舗情報】
*この連載は毎月25日に更新です。次回は「冬の富山」へ。