料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#50
燕三条ローカル・ガストロノミーの旅
文と写真・山本益博
フランス料理「UOZEN」で冬のジビエを堪能
JR東日本では昨年秋から年末まで「日本海美食旅 新潟・庄内ガストロノミー」と題して、新潟県・庄内エリアデスティネーションキャンペーンを行っていました。JR駅構内のポスターを見かけた方も多いのではないでしょうか。わが西荻窪駅の構内にも大きなポスターが何枚も貼られていました。
このタイミングに合わせたように出版されたのが、「新潟美食手帖」です。サブタイトルには「Niigata local gastronomy」とあります。「ローカル・ガストロノミー」とは「ガストロノミー(フランス語で美食学)」に「ローカル」をくっつけた造語で、その生みの親岩佐十良(いわさとおる)さんが著者。越後湯沢の宿「里山十帖」のオーナーでもあり、雑誌「自遊人」の名編集長でもあります。東京から新潟に移り住み、新潟県をくまなく食べ歩いて、名店やお薦め処を紹介しています。
「私の提唱する『ローカル・ガストロノミー』とは、“地域の風土、文化、歴史を料理に表現しよう”という活動です。」
と定義して、新潟の酒、米、鮭などの食材を駆使した料理ばかりか、優れた料理人を紹介している視点が新しい。
この「新潟美食手帖」に、岩佐さんが新潟を代表する飲食店として強く薦める店が3軒載っていて、そのうち2軒が燕三条にある店でした。フランス料理「UOZEN」と懐石料理「秀石菴」がそれで、燕三条とフランス料理、懐石料理がすぐには結び付かず、私は意表を突かれた感じでした。
ならばと、昨年秋に出かけ、とりわけ「UOZEN」の地元の食材を駆使して作るフランス料理に感銘を受け、年末に妻の美穂子を誘って、今度はジビエを食べに出かけたのでした。
オーナーシェフの井上和洋さんは、以前は東京で店を開いていたのですが、ソムリエールの奥様の実家が「魚善」という日本料理屋だったところをレストランに改装して5年前に始めたのが「UOZEN」です。熊さんのような体躯のシェフは自分で仕留めたジビエ(野禽)や釣り上げた川魚を調理する、それこそ「ローカルガストロノミー」の典型のような料理です。
レストランからの眺め
出かけた日のテーブルには、鹿、真鴨、小鴨、猪、熊などジビエのオンパレード。皿の上はとても日本のレストランとは思えない光景なのですが、窓の外に眼をやれば、一面稲刈りが済んだ田んぼです。
鹿肉のタルタル
ジビエばかりか、前菜で登場した「ぼたん海老のブイヤベース」は、日本海で獲れたてのぼたん海老が、ブイヤベースのエッセンスがジュレになった衣を纏っています。「UOZEN」のシグネチャー(名物料理)だそうです。
ぼたん海老のブイヤベース
今年の4月か5月に、「ミシュラン」の新潟篇が出版されるそうです。「UOZEN」が2つ星にでも輝けば、日本中で注目度がぐっとアップするのは間違いないので、今からとても楽しみです。
オーナーシェフの井上和洋さんと一緒に
懐石料理「秀石菴」も鄙には稀な日本料理店です。さらに、もう1軒、「イル・リポーゾ」というイタリア料理店も素晴らしい。「リポーゾ」とはイタリア語で「休息」のことで、オーナーシェフの原田さんのご両親がかつて「いこい食堂」という店を営んでいたそうで、それにちなんで名付けたそうです。この2軒、またいずれ紹介できたらと思っています。
今回は、燕三条に宿は取らず、行きつけの「里山十帖」に泊まりました。宿はなじみになると、一層快適ですね。
「里山十帖」の料理もまた進化を遂げていました、なにより、野菜が力強いのに感動します。その晩は快晴で、満天の星を眺めながらの露天風呂も最高でした。
新鮮な地産の野菜
野菜で彩られたクリスマスリース
客室からの眺め
宿から教えていただいた、新幹線越後湯沢駅近くのそば処「しんばし」のへぎそばと舞茸のてんぷらも昼食にお薦めです。
次回はフランス・マニゴです。
*この連載は毎月25日に更新です。
![]() |
山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
|