THE 百年宿
#03
百年建築 クラシックホテル編①
連載第3回は、「クラシックホテル編①」です。外国人の来日が徐々に増えはじめた明治期。日本古来の宿とは対照的に、西洋文化を積極的に取り入れたホテルが創業する。日本と西洋が混ざり合う明治時代の歴史を今に伝える建築美も魅力のひとつだ。今回は、奈良県奈良市の「奈良ホテル」と、栃木県日光市にある「日光金谷ホテル」をご紹介します。どちらのホテルも和と洋の融合美が、訪れる人々の旅情を高めてくれるはずだ。
明治42年、関西の迎賓館として開業。
今も、奈良公園の一角で、
創業時と変わらぬ重厚華麗な姿を見せている。
文:金井幸男
和洋折衷を取り入れた品格のある佇まい。これぞ、威風堂々。
関西の迎賓館として、日露戦争後に急増した外国からの要人を受け入れるべく、明治四十二年に開業。代表的な本館の設計は、東京駅や日本銀行本店などを手がけた建築家・辰野金吾が担当。迎賓館時代のクラシカルな優雅さが残る桃山御殿風檜づくりの空間は、今も訪れる人びとを魅了している。
なかでもメインロビーの「桜の間」は、カーテンレールやフックといった細かな調度品すらも、その多くが当時のものをそのまま使用。一〇〇年前の面影を色濃く残している。クラシカルな窓にはめ込まれたガラスもそのひとつで、昔ながらの窓ガラスから差し込む光は、レトロな空間を彩るこのうえない演出といっても過言ではない。
かつて世界の要人たちがこのホテルを愛したように、「奈良ホテル」が代々受け継ぐ伝統のフランス料理に舌鼓を打ったり、世界的バーテンダーがつくるカクテルにグラスを傾けたり。歴史ある空間で、贅沢な大人の時間を過ごせるに違いない。
当時の趣をそのままに
歴史の息遣いを感じるノスタルジックな空間。
現存する日本最古の西洋式ホテルとして、開業以来
国内外の要人に愛されてきた歴史あるクラシックホテル。
館の随所からは、開業当時の趣が今も感じられる。
文:山下皓平 写真:千葉祟則
多くの要人に愛された歴史と伝統のクラシックホテル。
現存する日本最古のリゾートホテルとして知られるが、その成り立ちはじつに興味深い。一八七一年、創業者・金谷善一郎は、宿に困っていた外国人を自宅に招き入れた。自宅の一部で営業をはじめたのち、一八九三年、現在の地に日光金谷ホテルとして改めて開業、今日に至る。日本的建築美と西洋的建築美の混合もそれ故。「いつ来ても昔と変わらない」という理念のもと、ほとんどが当時のまま保たれている。
また、その理念は料理にも受け継がれ、「虹鱒のソテー金谷風」「大正コロッケット」など、歴代料理長たちの間で伝承されてきた伝統の味は、「日光金谷ホテル」のもうひとつの楽しみといえる。