風まかせのカヌー旅
#29
〈番外編〉 離島の主食系ローカルフード
パラオ→ングルー→ウォレアイ→イフルック→エラトー→ラモトレック→サタワル→サイパン→グアム
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文と写真・林和代
「カッツ、ラーメン食べる? ご飯とツナ缶もあるけど?」
ヘンリーナが朝ごはんを尋ねてきた。
「夕べの残りのタロまだあるよね? じゃそれ食べる。でもツナ缶はいらないよ」
私がそういうと、ヘンリーナはちょっと怪訝な顔をした。
離島で、一番のご馳走といえば、ウミガメ。続いてヤシガニやマグロなどのシーフード。
しかし、それらは年中食べられるものではない。
では日常的な人気ごはんはなにか? それは、白飯&ツナ缶、ラーメン&ツナ缶、もしくは白飯にラーメンをかけて更にツナ缶を乗せたもの。私にしてみれば、なにげに残念なメニューである。
すべて輸入品、船が入らないと手に入らないので、あるうちはこれらを食べ、なくなったら本来のローカルフード、タロイモやパンの実と魚やタコに戻る、というのが一般的だ。
だから、タロしかないけど、なんて言い方をすることも多く、お金で買うものの方がちょっと高級、という認識があるらしい。
しかし、文明国からやってきた私にはむしろ、タロイモやパンの実の方が数倍ありがたい。
というわけで今回は、これまで離島で出会った主食系のロカールフードを紹介しよう。
食材が乏しい島ならではの創意工夫に満ちたご馳走は、侮れないのである。
■〈ココナツ〉
なにはなくともココナツ。これさえあれば人は生きていけると言っても過言ではないほど優秀な植物だ。木や葉はもちろん、皮に至るまで、その全てが島の暮らしに徹底的に活用されている。
そしてその樹液と、実であるココナツは、島の食生活にあらゆる形で貢献する不可欠なもの。
多くの料理に使われる調味料でもあるので、まずはこれからご紹介する。
●ココナツジュース
ご存知、ヤシの実のジュース。スポーツ飲料に似た味。雨水のみに依存するサタワルなどの離島では、ココナツジュースが水代わり。
種類がいくつもあり、同じ種類でも成熟度や日当たりによって甘みがまるで違う。
外皮を剥くのは案外難しく、いつも島の兄さん方のお世話になる。
●樹液、ヤシ酒
ヤシの実が成る手前の枝を切って、そこから出る白濁した樹液を採取し、一升瓶に入れる。
とれたての樹液は女子供の飲み物、エリーマム。味はまさにカルピス!
それをしばらく放置すると発酵して、男たちが大好きなヤシ酒になり、更に発酵が進むと酢になる。
またその樹液を長時間煮ると甘いシロップになり、更に煮詰めるとココナツシュガーとなる。
これがココナツシロップ。
●ココナツミルク
ココナツの外皮を剥いて中の丸い殻を割るとココナツジュースが出てくる。その殻の内側の白い部分(胚乳)を細かく削ったものを水と混ぜて絞り出すのがココナツミルク。
日本における醤油に匹敵する頻度で利用される代表的な調味料。
これを煮詰めると、アルンという甘いクリームになる。更に長時間熱すると、やがて分離してココナツオイルができる。
写真右側のタライにあるのは、削った後の殻。左のタライにあるのは、ジュースが熟すことで水分が飛んでタマになったもの。ほんのり甘いスポンジみたいな食感のヘルシーおやつ。
●ココナツのさしみ
若い実の胚乳は柔らかくゼリーのよう。ジュースを飲んだあと、固い外皮をスプーン状に切って、すくって食べる。これをサタワルでは、ココナツ・サシミと呼んでいる。ほのかに甘いが、これに醤油をつけて食べてもおいしい。
●ココナツキャンディ
鍋で砂糖を大量に熱してキャラメルを作り、そこに削った胚乳を混ぜて固めたもの。
冷めるとほどよく固まって、長期保存がきくおやつになる。
■〈タロイモ〉
土壌が貧弱なこの島で一年を通して取れる主食は、タロイモだけである。
里芋の仲間で、できたイモをとってまた泥に植えておけば勝手にどんどん新しいイモがなる便利なもの。
私が知る限り、プナと呼ばれる大きなタロイモと、ウォットという甘くて小ぶりで白いものの2種類が食用にされている。ウォットは英語でスイートタロと呼ばれている。
●茹でタロ
[PHOTO by Osamu Kousuge]
写真左が茹でタロ。簡単なので普段はこれが多い。魚や缶詰と一緒に主食として食べる。そこそこ歯ごたえがある。
●パウンドタロ
茹でたり蒸し焼きにしたタロイモを石の杵でつぶしたもの。ココナツミルクを煮詰めたクリーム、アルンと一緒に食べるとめちゃ美味である。
●スイートタロのマッシュ
スイートタロの皮をむき、水と海水、ココナツミルクで煮た後、パウンドする。海水の塩気とココナツミルクの甘みが絶妙なバランスで、想像をはるかに超えるうまさである。
●フライパン・タロ(タロイモのクッキーもどき)
生の固いタロイモを巨大なおろし金ですりおろし、砂糖を混ぜて細長く丸め、油であげた離島のクッキー。すりおろすのは重労働だが、バカうま。
●スイートタロのフィアフィー(タロイモ・ドリンク)
フィアフィーとは、ローカルフードをどうにかして飲み物にしたものの総称。
フィアフィアン・タロは、スイートタロ(ウォット)の茎や葉を水で長時間煮込み、砂糖を入れて甘くして飲む。味は微妙だが、野菜が摂りづらいサタワルでは、重要なドリンクかと思われる。
●スワスー
茹でたタロイモを石の杵で潰して砂糖を混ぜて発酵させ、細長いチマキのように葉っぱで包んだ保存食。
■〈パンの実〉
サタワル語ではメイという。4月〜10月頃まで採れる、第二の主食。大きなパンの木になる緑色の大きなボール状の実。
メイ・ファユと呼ばれる種類は、ラグビーボールほどの大きさだが、種は小さく食べても気づかぬほど。一方、小ぶりのメイ・ヤスにはピンポン球大の種がある。プキンと呼ばれるその種を茹でると栗のような食感でうまい。食べ過ぎると便秘になるが、止まらない。
●ココナツミルク煮
パンの実の皮をサンゴ石で削って、適当な大きさに切ったものに、ココナツミルクをたっぷり入れて、葉っぱで蓋をして炊く。これが最も一般的な食べ方。魚などのおかずと一緒に主食として食べる。
●イシウス(パウンドしたパンの実)
パンの実を皮ごと丸焼きにして、焦げた皮を落とし、石のパウンダーで何度も潰すと粘りが出てくる。それをココナツミルクにつけて食べる。もちもち食感とほんのりした甘みがたまらない。
●パンの実チップス
ウォレアイでもいただいたローカルスナック。薄くスライスしたパンの実を油で揚げたもの。
●マール
皮をむいたパンの実を一晩海水に浸けたあと、葉っぱに包んで地面に埋めて放置、発酵させたもの。保存がきくので航海に出る人に向けてよく作られる。
●パンの実フィアフィー
私のロカールドリンクNO1。
茹でたパンの実をパウンドして袋に入れ、軒下あたりに二週間ほど吊るして発酵。それに、水と砂糖を加えてドリンクとして飲む。爽やかな甘さとまろやかな酸味が絶妙にマッチ。あえていうならグアバジュースっぽいかもしれない。よくは知らぬが、発酵しているのだからきっとお腹にもよろしい気がする。
■〈バナナ〉
普通に生食できるバナナはもちろん、調理用の角ばったバナナもある。
ちなみに、どういうわけかサタワルではかつて、バナナを食べてはいけない、というタブーがあった。そのせいで高齢の方には、今でもバナナを食べると悪いことが起こると信じて毛嫌いする人もいる。
●バナナケーキ
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太平洋には、地面に熱した石を敷き、その上に大きなバナナの葉で包んだ食べ物を置き、蒸し焼きにする調理法、ウムがある。
これは感謝祭の時にウムで作られたバナナケーキ。
生のまますりおろした調理用バナナとココナツミルクを煮詰めたクリームをバナナの葉で包み、ウムにする。
食べるときは、ココナツミルクのクリーム、アルンをかけていただく。絶品のスイーツ。
■〈その他離島で出会ったオイシイものたち〉
●オクラカレー
私が持っていったカレールーを使って島のママが作ってくれたカレー。
島に自生する「オクラ」という植物の葉と茎を刻んで、ツナと混ぜて作ったもの。ちなみに日本のオクラとは全くの別物。ここのオクラは加熱するとクセも臭みもなく、想像以上に素晴らしいカレーが完成した。
●お汁粉に似たもの
小麦粉を水で溶いて団子にしたものをココナツミルクと砂糖で甘く煮たもの。ほぼお汁粉。スイーツ好きにはたまらぬ一品。米で作る甘いお粥もある。
*本連載は月2回(第1&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
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林和代(はやし かずよ) 1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。 |