日常にある「非日常系」考古旅

日常にある「非日常系」考古旅

#19

サスカッチを探して~アメリカ~

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

 遺跡の分布調査では何をもって遺跡と認定するのか。古墳だったらマウンド(墳丘)を発見すればいいのだが、住居跡などのように目で見て確認できないところもある。そういうところは表面採集(表採)で遺物包含層の有無を確認する。大事なのは痕跡、つまり遺物を発見することが、遺跡発掘の第一歩だということだ。

 そんな表採の経験が役に立った(?)話。それは、2016年にアメリカのオレゴン州ポートランドを取材した時のことだった。

 ポートランドはアメリカの北西部に位置する都市で、カナディアン・ロッキーを源流とするコロンビア川のほとりの美しい街。アメリカの西海岸といえばロサンゼルスやサンフランシスコをイメージしがちだが、このポートランドもここ数年でかなりの人気観光地となっている。

 また、ポートランドはアメリカで有数の「治安のいい都市」ともいわれている。そんな治安のいい場所に、危険地帯ジャーナリストの私が何をしに行ったのか。私の活動は、なにも都市空間だけを取材することだけではない。時には大自然に立ち向かう取材もすることもあるのだ。取材の目的は、「サスカッチを探す」ことだった。

 サスカッチとは、ものすごく簡単に言うと雪男のようなもので、北米では多くの目撃情報が寄せられているUMA(未確認生物)である。実は2015年頃、一緒にトレイルランをしていた飼い犬に装着したGoPro(小型のアクションカメラ)にサスカッチが映り込んでいたという証言が上がっていたのだ。当時としては最新の目撃情報。しかも証拠まであるという。オカルト記事をいくつも手がけてきた私は、興味を惹かれるままに取材しようと思い立ったのだ。

 サスカッチは冒険家、ハンターのみならず考古学者や人類学者にとっても格好の標的である。1840年に白人宣教師によって記録されたネイティブアメリカンに伝わる聖なる生き物「毛深い巨人」が、猿人やギガントピテクスの生き残りの可能性があるからだ。そのため、現在でもその存在を本気で信じ、探している探検家は多いという。

 そのせいか目撃情報は後を絶たない。今のところ推測されている身長は2~3メートル、二足歩行、筋骨隆々で顔以外は毛で覆われており、強烈な異臭を放っているのだという。

 中でも、1967年に撮影された「パターソン・ギムリン・フィルム」は有名だ。歩きながらカメラに向かって振り向く姿の映像を見たことがある人も多いのではないだろうか。この映像は、一部では捏造説もささやかれているが、それがサスカッチの実在説を否定するほどのものではない。雪男やサスカッチ系のUMAはネアンデルタール人やその亜種とする説もあることから、考古学とそこまで遠い存在ではない…はず……と私は思っている。

 そんなこじつけのもと、「サスカッチを探しに行きたい!」と週刊誌に企画として持ち込んだところ、担当の編集者から「行っていいよ」と太っ腹な返事をもらえ、アメリカへ行くことになったのだった。

 今でこそ自腹で旅することのほうを優先しているが、数年前までは、スポンサー(出版社の取材経費)ありきで旅することもあった。お金的にはだいぶ助かるのだが、それだけに、いざ企画が通ってしまうと本当にサスカッチを見つけるまで帰国はできないというプレッシャーがつきまとう。大口を叩いておきながら、軽い感じで「ダメでした」などと言おうものなら、確実に出禁になるだろう。そこまで個人的な興味をそそる取材でもなかったが、あれこれと下調べを開始することにした。

 

 

UMAを探しに日本から来ました

 

 

 そして、できることはやったということで現地に乗り込んだ。現地で車を手配し、向かったのはマウントフッド国立森林公園である。このフッド山は「オレゴン富士」とも呼ばれる、姿の美しい山で、ポートランドの観光名所の一つ。富士山と同じくらいの標高があるが、夏場ならある程度の地点まで車で登っていくことができるので、UMA探索には非常に便利である。

 ただ、車の運転に慣れていない私のことである。サイドブレーキをかけっぱなしで走って車内に焦げた匂いを充満させたり、軽く接触事故を起こして当て逃げされたりというささやかなハプニングはお約束のように起きた。

 目的地は頂上に近い山荘「ティンバーラインロッジ」。スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』(1980年)の舞台になった山小屋だという。

 「サスカッチ、探しに来たんですけど……あ、日本からです」

受付でTシャツに薄手のパーカー姿の私が言うと、大爆笑。ひとしきり笑いものになったあとで「マジかよ?」的な反応とともに、「もっと下のほうじゃない」と言われた。単なるアホな子扱いだったが、そもそもよく考えればわかることである。

 そこで数百メートル標高を下げた場所まで下り、探索を始めることにした。森の入り口は特にない。木々の隙間に見える、けもの道をなんとなく進むことにした。

 だが、カーゴパンツのポケットに携帯とカメラが入っているだけで、あとはサブバッグに水と発見時のマニュアル(街の売店で購入した)を入れてあるぐらいの軽装備。本格的な登山の装備は何一つなし。もちろん、武器の類も所持していない。別にサスカッチと遭遇しても戦闘になるわけでもないだろうし、当然のことながら、その生態はよくわかっていない……というか、存在すらわかっていないからUMAなのだが。

 そういえば、ここに来る前にサスカッチ研究家のアメリカ人にコンタクトを取っていたが、返事は来たのだろうか。そんなことを考えながら森を歩く。サスカッチを探しながらひたすら歩く。サスカッチに直面しなくても、何かの痕跡はないだろうか。遺跡を探すように、何かの痕跡はないだろうかと目を凝らす……。

 車で一気に高地に来てから下ってみると、かえってわかることもある。それは、植生が変化したことである。高度が上がると、自生の植物は広葉樹から針葉樹へと変化する。そしてさらに上がると、地面の草がなくなり土が露出してくるなど、標高によって生えている植物が露骨に違うのだ。

 そうなると、生えている植物に応じて生息する動物も変わるだろう。つまり、山頂付近よりも低い場所のほうが、植物を餌にする動物が多く生息すると考えられる。そして、餌になる動物が多い場所にはそれを捕食する大型の生き物もいるはずだ。たとえば鬱蒼とした木々の中で……まさに自分がいるような場所だ。標高を下げたほうがサスカッチがいる可能性が高いとは、そういうことなのだろう。

 周囲の森も密度が濃いために見通しが悪い。まるで森に酔ったかのようだった。心なしか目の前のビジョンが歪んで回るほどにクラクラしてきた。酸素が薄いのかもしれない。そもそも、ここはどこなんだろう。すでに歩き出してからだいぶ経った気がする。

 

 

樹海取材の経験

 

 

 不安になった私は時計を見る。何分も経過していない。それなのに歩いてきた道がわからない。獣道かと思っていた自然の通路はどうやら気のせいだったようだ。目の前にあるのは誰も通ったことのない森でしかない。

 一瞬、「日本人ジャーナリスト、オレゴンで失踪」なんて見出しが浮かんだ。そんなのは勘弁して欲しい。取材はここで終わりにしてもいいと思いながらも、やはり他人の金で取材に来た以上は、どうにか成果らしきものを見つけないと終われないという無駄な責任感が湧いてくる。そうかといって、森林探索の素人である私がこの場所を脱することのほうが難易度は高そうだ。こうなったら遭難記でも書いてお茶を濁してしまおうと思った。決めるやいなや、脱出に舵を切る。記憶を頼りにするのはやめた。どの木も同じに見えるし、なんとなく似ている風景ばっかりだったからだ。

 そこで私は、樹海探索の経験を生かすことにした。

 自殺者が多い日本の樹海とアメリカのトレッキングの名所では森のつくりも違うのかもしれないが、思いつく共通点もある。自殺者は道路から100メートル以上離れた場所で死を選ぶことが多い。それは示し合わせたわけではない。ちょうど車道の音が途切れるのがその辺りだからだ。GPSで確認すると、車道からだいたい100~200メートルで目をどんなに凝らしても視界に車は入らなくなる。これは私も実際に取材で訪れた際に体験した。その時の体験がリンクしたのだった。

 そこで私は逆の発想をする。もし今の場所が車道から100メートル以内ならば、走行する車の音が聞こえるはずだ。とはいえ、いつ車が通るともわからない山道である。とにかく耳に意識を集中する。そこでわかるのは森の中というのは、単なる静寂が維持されているだけではない。風で木々が擦れ、そこから派生した何らかの音。動物の鳴き声もあるのかもしれないが、森の素人には特定できない。

 その時、耳にわずかな人工音が突き刺さった。エンジン音である。聴覚で一瞬捉えた音の発する方向を頼りに歩き始める。しばらく進むと森が切れていた。

 

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IMG_1827 IMG_1761ポートランドでのサスカッチ取材

 

 

 

ウンコ発見が取材まとめって…

 

 

 良かった……と思ったところで、目の前に妙な有機物がある。すぐに排泄物、つまりはウンコだとわかった。本来、有史(文献が残っている時代)以前のウンコであれば、それは古生物学の担当領域である。だが、考古学もウンコを扱うことがあるのだ。

 たとえば、主に有史以降の考古学調査では、トイレの遺構が発見されることもある。何をもってトイレと認定するかは、糞石(化石化したウンコ。もちろん臭くない)や籌木(ちゅうぎ)(トイレットペーパーの代わりとして使われた細い木の棒)といった遺物の有無だ。実際に発見された糞石もしくは籌木に付着したウンコからは、寄生虫や植物の種などが見つかって、当時の食生活の復元に役に立つこともあるのだ。

 ここで発見したウンコにも植物の種のようなものが見える。だが、遭難疲れもあってか、この場で生き物のウンコをいじくり回すという苦行はさすがに避けたい気分だったので、考古学の基本に立ち返り、じっくりと観察することにした。ご都合主義の観察眼である。

 まず、持参したマニュアルを取り出して、サスカッチのものとされるウンコの写真(掲載されていたのはサンプル用の熊のウンコだったが、この時の私は気がつかなかった)と突き合わせるが、似ているようで似ていない。しかもマニュアルをよく読むとDNA検査用にウンコを持ち帰れと書かれている。取り扱いには注意が必要で、エタノールが……などと英語でいちいち細かい説明が記されているのを読んでいくうちに、正直どうでもよくなってきていた。

 なにせ、分析なんていうのは些末なことである。ここに大きめなウンコをする生き物がいるわけである。それでいいのだ。雪男以外にこんな大きなウンコをする生物などいるはずがない。少なくとも、私はそのように認定する!

 「このウンコの発見をもって、俺のサスカッチ探索を完結とする」

 もはや森に戻りたくない意識が強すぎて強引にオチをつけたのだが、そのことをとやかくいう編集部でもないはずである。「なんとなくそれっぽい痕跡を見つけた」と報告を入れただけで、このあとは当時流行の兆しがあった合法マリファナ、『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』といった名作映画の舞台を巡る取材をした。海岸に漂着した沈没船。そこから眺めた夕日。オレゴンの大自然と人々の暮らしを堪能し、意気揚々と帰国したのだった。

 それから数日後、私の書いた原稿に「ウンコの話なんて掲載できるわけねえだろ!?」と担当編集者の怒りの連絡が届くことになったのである。

 まあ、想定の範囲内です。今だから素直に言えますが、あんな原稿を提出してごめんなさい。

 ちなみに、取材を申し込んでいたサスカッチ研究家からは、「サスカッチは群れをつくって移動して暮らしている。何匹もハンターに殺されているが、見た目が人間っぽいから事件になると思って、当のハンターが隠蔽している」という有力情報がもたらされたが、編集部での評判をこれ以上下げないようにするため、その報告は控えておいた。

 

 

*次回は12/8(火)17:00配信予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。ジャーナリスト・編集者。國學院大學学術資料センター共同研究員。國學院大學大学院修了後、出版社勤務を経て独立。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。テレビ番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気を博す。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」や、YouTubeチャンネル「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」などに出演中。近著に『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』(光文社)、『世界ヤバすぎ! 危険地帯の歩き方』(産業編集センター)など。

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TBS系列の旅番組『クレイジージャーニー』で人気を博し、今ではユーチューバーとしても活躍する危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、これまでの取材を通じて見てきた「裏社会」と、学生時代に修士号を取得した「考古学」を融合させた「ハイブリッド考古学」の実証に挑む。自身の半生を振り返りながら持論を展開する渾身の紀行エッセイ。

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