日常にある「非日常系」考古旅

日常にある「非日常系」考古旅

#18

情報収集とマリファナ畑~ジャマイカ~

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

 海外を取材していて考古学的なことに偶然出くわした経験がある一方、考古学の知識やノウハウがジャーナリストとしての取材に生きた経験もいくつかある。そんなエピソードも紹介しよう。

 これは、私がフリーライターとして活動していた頃の話だ。どうにも生活費が足りず、どんな仕事でも受けまくっていた。

 たとえば真冬の山に行って熊に出合ってくださいとか、ホームレスになってしばらく暮らしてください、逃亡者になってください……。さすがにコレは!? と思うものもあったが、無理やり納得することにしていた。

 こうした「頼まれ仕事」、つまり編集さんから振られる企画に対して、どうしても素直に「興味あります」とは言い難い。やりたいことはいつも別にあって、頼まれ仕事には常に物足りなさを感じていた。そんな中で私は、できることなら少しでも自分の興味に近い仕事に結びつけたい一心で、あれこれ模索していった。その結果、猟奇殺人や怪談に土地の歴史をミックスしたような企画を立てるようになっていったのだ。

 たとえば、「殺人事件は二丁目が多い!」「新宿二丁目の七不思議」「幽霊ビルの持ち主とは?」といった感じだ。振り返ってみれば、オカルト臭強めで胡散臭いものが多かったのだが、それでも自分の興味で企画立案したものが記事になるのは、無茶振りされる企画に比べれば格段の喜びがあった。

 フリーライターを生業とする上で最も求められるものは“ネタ”である。文章力は二の次だ。特によく仕事をしていた実話系の雑誌では、文章力などビタイチ求められることはなかった。ネタさえ良ければ企画は通る。逆に言えば、ネタがイマイチだと仕事はもらえない。だから、「文章が下手」「何書いてあるか、わかんないよね」と嫌味混じりで言われながらも、外注先に過ぎない私は笑顔で「すみません」と流して、次々とネタを仕込む。そんなタフさがないとやっていられなかった。異論や反論がある人もいるだろうが、少なくとも私が歩んできた出版の世界というのはそういうものだった。

 しかし、企画で使える種を探ることに関しては、私には確かな自信があった。それは大学、大学院でやった文献集めの経験があったからだ。

 考古学の論文を書くには文献をどれだけ集めたのかが重要になる。史学科の中で考古学は「発掘現場」と遺跡の「遺構」と「遺物」といったモノを研究する学問である。できるだけ実物を見て触りたいところだが、一人では遺跡の発掘調査はできないし、全国各地で発掘されている遺跡を見て回ることや、そこから出土した遺物の実物を把握することなどは不可能である。

 そこで遺跡の報告書や研究報告を利用する。それらは遺跡が資料化されたものなので、引用・参考文献とすることで、自分が調査に関わっていない遺跡も研究対象として利用できるのだ。

 自分の研究に必要な報告書がすんなり手に入るわけではなく、図書館の書庫を隅々まで歩き回って100年以上前の文献を探したり、遠く離れた自治体に連絡して報告書を購入したり、もしくはその土地まで出向きコピーさせてもらうことも。私も図書館のコピー機の前に何時間も陣取ったりしたものだ。

 

 

ソマリアの遺跡を探そう

 

 

 こんな感じでネタを集めまくり、失敗やちょっとした成功を繰り返しながらフリーライター生活を続けていたわけだが、取材の仕方も時代とともに変化するものだ。それを痛感したのが、憧れの辺境冒険作家・高野秀行さんと縁あって知り合った時のこと。確か2012年ぐらいのことだったと思う。

 はっきり覚えているのは、当時の高野さんはソマリランド(ソマリア連邦共和国内の独立国家=未承認)の取材をされていて、どれほど面白い取材になっているのかを話してくれた。ちなみにその取材の話は後に本となり、2013年の第35回講談社ノンフィクション賞を受賞。今では高野さんの代表作の一つになっている『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)だ。

 その高野さんが私にソマリランドについて聞きたいことがあるというのだ。文字通り飛び上がって驚いたのだが、高野さんに会って話してみると「これって何かな?」と1枚の写真を見せてくれた。

 確か、その著書の中でも古代遺跡かもしれないと少し触れていたのだが、その生写真のようだ。じっくりと写真を見ると、それは小高い丘のようでもあり、積石塚か見ようによっては古代エジプトのピラミッド的な遺跡のようであり、そうではないともいえる。とにかくはっきりとはわからなかった。

 「調べてみます」と高野さんに伝えて、この1枚の写真を持って私は前に太郎さんから紹介してもらったことのある、國學院大學で兼任講師をされている和田浩一郎先生に話を聞きに行くことにした。和田先生は古代エジプトの研究者だ。

 その時の先生の見解は非常に興味深かった。和田先生は、ソマリアは治安が悪く海外の研究者が入れない地域なだけに推測にならざるを得ないことを前提にして欲しいと断りを入れたが、その上で、ソマリアが独自文化を形成する民族性があると推測した。先生曰(いわ)く、ソマリアの言語はハム諸語(現在は話を聞いた当時と違い、ハム語は言語学では使われていないそうで、アフロ・アジア語族というそうだ)に分類されるそうなのだが、ピラミッドのある古代エジプトとは同じ語族でも語派が違うらしく、言語的に直接の繋がりはないのだという。つまり言語的な独立性が強いことから、古代エジプトのピラミッドの影響があるとは考えずに、別の文化が展開されていたのではないかと推測してくれたのだ。

 そのため、より具体的に追求していくのであれば、古代エジプトのピラミッドなどの建造物との比較が必要になるという。

 北アフリカにイスラム教が流入する以前、古代のスーダン辺りには積石塚のような墳丘墓もあったそうだ。もしかしたらその系譜を継ぐ古代遺跡かもしれないし、エジプトのピラミッドとは別の文化の建造物である可能性が高い。そんな話を聞いただけで、高野さんへの報告そっちのけでテンションが上がってしまった。

 とはいえ、最終的には墳墓かどうかを写真だけでは判断できないとのこと。分布や位置関係を探るために「墳丘墓の正確な位置座標」を教えて欲しいと言われた。この申し出に思わず、「ソマリアに行く用事でもあるんですか?」と聞くと、先生はこう返してきた。

 「グーグルアースで見るんだよ」

 まさか考古学の調査にグーグルアースが活用されているとは、現場から離れて10年以上が経過していた私にとっては、あまりにもショッキングな事実だった。自分の足で歩いて現場に赴き、それができなければ文献を漁りまくるのが考古学だと思っていたのだが、それがだいぶオールドスタイルで、すでに自分がどれだけ考古学の現場から離れているのかを実感させられた。

 

 

現場は上から探される

 

 

 グーグルアースを使えば対象となるポイントを上空から発見できる。実はこれと似たような感覚に襲われた経験を裏社会取材でもしたことがある。もちろん、その対象物は遺跡ではない。ジャマイカのマリファナ畑だ。

 『クレイジージャーニー』の番組スタッフ同行の取材で訪れたジャマイカの首都・キングストンで、マリファナがこの国の人たちの生活にいかに密着しているのかを取材したのだが、その際に島の外れにあるマリファナの生産現場まで車で数時間かけて訪れた時のことだった。

 少し話は逸れるが、せっかくなので、その取材がどんなだったかについても触れておこう。実にしびれる取材だった。

 マリファナ畑を管理する地元在住のボスに、事前に話を通していたので、同行してもらってスムーズに現場近くまで行くことができたのだが、その敷地の入り口には、Tシャツを着崩した若者たちが警備の門番のようにたむろしていた。

 私(部外者)の姿を見て、現場に緊張が走ったが、すぐにボスが前に出て門番たちに何かを伝えた。すると、険しい顔をしていた門番たちが、私に笑顔を向けて「GO」と言って、あっさりゲートを通してくれたのだった。

 フリーダムなイメージが先行するジャマイカだが、それに似つかわしくない、緊張感漂う場面だった。確証はないが、彼らは全員が武装していたように思う。というのもボスが話しかける前の手の位置が腰に近く、何かを取り出そうとする動きをしたようにも見えたからだ。

 こうして辿り着いたのは牧場だった。馬が放牧されていて、しかも敷地の端っこは森になっていて見通せないほど大きい。

 案内してくれたボスが「こっちだ」と言って、馬の放牧されているエリアに沿ったあぜ道を示す。

 「どれくらいで着くの?」

 「10分ほどだろう」

 言葉通りに受け止めて、「すぐに着くんだ」と気を抜きながらついていくと、周囲はジャングルのようになっていく。道は完全にない。その上、背の高い草木が生い茂っているため、やや薄暗い。そんな場所で草木をかき分けて進んでいくと、少し開けた場所に出た。

 「ここ?」

 「違う。のどが渇いただろう」

 ボスがそう言うと、お付きの若者が目の前の木にするすると登っていった。10メートルはあろうかというヤシの木だが、まったく問題にする様子もない。

 「離れろ!」

 ボスが指示する。しばらくしてドサっとヤシの実が落ちてきた。ほとんどタイムラグもないまま若者も地上に戻ってきて、手持ちのナタで実を叩き割った。

 ボスが一口飲んでから、これは大丈夫なものだとでも言いたげに「飲め」と、私にすすめてきた。そのちょっと得意げな感じが鼻についたが、かなりのどが渇いていたので一気に流し込むと、ほのかな甘味が広がった。

 

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ジャマイカのマリファナ畑

 

 

 

マリファナ畑を目指す!

 

 

 この時点で10分どころか、歩き始めて30分は軽く経過していた。少し話がそれたが、つまり何が言いたいかというと、かなり奥まった場所にマリファナ畑があるということ。実際に生産現場に到着したのは、そこからさらに20分ぐらい歩いてからのことだった。

藪を抜けると小川が流れていて、その向こうには有刺鉄線が草木に紛れて張り巡らされていた。それに注意しながら体をねじって潜り抜けた場所がマリファナ畑だ。そこは整地された水田のような場所だった。森や藪に囲まれたエリアで、ここだけがポカっと空いている。そんな印象だった。

 こうして着いたマリファナ畑で、農園の主と会うことができた。50歳になるという男性は、やせ型で背が高く、長距離走の選手のように引き締まった筋肉の持ち主という印象的だった。前職は教師だったという。話す内容も知的で丁寧だった。

 何でも気さくに答えてくれるので、勢いで「なんで、こんな場所に畑をつくったんですか? もっと牧場近くに作ればいいのに」と質問をぶつけてみた。すると、

「実はマリファナを育てることに政府は批判的なんだ。庭先で少しくらい育てているなら何も言われない。だが、これほど大規模に育てていると、警察にも目をつけられるんだ」

「ここにも警察が来たことは?」

「ある。金を払って解決した」

「警察はどうやって見つけたんですか? こんな奥まったところ」

 主は空を指差した。

「上から見ているんだ。だから見つけられる」

 警察がヘリを飛ばして確認に来るそうだ。視点を変えるだけで、これほどわかりにくい場所にあっても露見してしまう。この時、ソマリアの遺跡の件がクロスオーバーし、妙に理解できたような気がした。

 これは2015年のことなので、今はどんな形で農園が運営され、警察が捜査しているのかはわからないが、それでも当時としては興味深い気づきを得たように思えた。

 地上からいくら探しても見つからないものでも、上空から見たら一発でわかる。それは「現場を探す」という意味において、考古学も裏社会取材も共通すること。そして、その手法は日々進化しているのだ。ドローンが発達した現在なら、さらに簡単に見つけられるかもしれない。

だが、一つだけ違うのは、マリファナに限らず、その他の麻薬の原材料を生産している場所は、捜索技術の進化とともに、ますますわかりにくい場所、見つけにくい場所を選んで行われるようになっている点だ。文明の発達は、すなわち犯罪をより巧妙なものにすることにも繋がるのだ。

ちなみにそれ以降、私の中でスマホの地図アプリが取材の必須アイテムになった。あとはドローンを購入すれば完璧なのだが、予算的な理由から保留している。マジ、どうすっかな。

 

 

*次回は12/1(火)17:00配信予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。ジャーナリスト・編集者。國學院大學学術資料センター共同研究員。國學院大學大学院修了後、出版社勤務を経て独立。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。テレビ番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気を博す。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」や、YouTubeチャンネル「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」などに出演中。近著に『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』(光文社)、『世界ヤバすぎ! 危険地帯の歩き方』(産業編集センター)など。

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TBS系列の旅番組『クレイジージャーニー』で人気を博し、今ではユーチューバーとしても活躍する危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、これまでの取材を通じて見てきた「裏社会」と、学生時代に修士号を取得した「考古学」を融合させた「ハイブリッド考古学」の実証に挑む。自身の半生を振り返りながら持論を展開する渾身の紀行エッセイ。

 

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発売日:2020年12月18日
予価:本体1,300円 + 税
判型:四六判
ISBN 978-4-575-31594-3

 

 

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