台湾の人情食堂
#74
台北“人気行列店”以外の超おすすめ店
文・光瀬憲子
「航空券とホテルを押さえたら、次にやることは『食べたいものリスト』を作ること」
台湾リピーターの友人がそんなことを言っていた。
“安近短”の台湾は気軽に訪問できることもあって、2泊、3泊といったショートステイが多い。限られた時間で効率的に食べ歩きたいと誰もが思うだろう。だから、小籠包や豆乳の朝ごはんの有名店に行列なんかしていられない。それに、外国人旅行者が行く有名店が地元の人たちから支持されているとは限らない。
そこで今回は、行列店でなくても、同等か、またはそれ以上の満足が得られる店をいくつか紹介しよう。
小籠包
ガラス張りのキッチンでは職人さんたちが小籠包や焼餃子を量産している。その手際のよさにうっとり
常に「食べたいものリスト」の上位に入るであろう小籠包。旅行者に人気の『鼎泰豊』は常に激混みで行列まちがいなし。しかも1籠あたりの値段が高く、地元の人たちが口にする機会はけっして多いとはいえない。では、台湾人はどこで小籠包を食べているのか?
その一例が鼎泰豊からさほど遠くない、中正紀念堂の東側に位置する『盛園絲瓜小籠湯包』だ。旅行者であふれる鼎泰豊とは異なり、こちらは地元客で大変な賑わいを見せる。週末の夜などはかなり混雑するので予約必須。時間帯をズラして訪れよう。英語や日本語は通じづらいので、予約を取る場合はホテルのスタッフに頼むといいだろう。
『盛園絲瓜小籠湯包』の店頭には予約せずに席が空くのを待っている地元客が大勢いるので、そこをかき分け、店員に「予約がある」旨を積極的にアピールすべし。それでも待たされることがあるので、何度も「まだですか?」と確認しよう。混雑でてんてこ舞いしている店員をつかまえて声をかけるのは勇気がいるが、台湾の混雑店では積極的に席を取りに行かないと美味しいものにありつけない。
晴れて席に通されたら、小皿料理と飲み物(ビールなど)はセルフサービスなので店の奥まで自分で取りに行く。小籠包のタレもタレコーナーで自作する。接客がていねいとはとても言えないが、地元の人々と一緒に地元の味を堪能できる喜びは大きい。
小籠包は絲瓜小籠湯包(オリジナル)と黃蟹湯包(カニ味噌)がおすすめ。お値段は鼎泰豊の6~7割程度とお得感がある。
おすすめのカニ味噌小籠包。8個入り220元は鼎泰豊よりだいぶお得。カニ味噌の風味に舌も心も奪われる
中正紀念堂のすぐそばの人気小籠包店『盛園絲瓜小籠湯包』は、週末の夕方ともなれば大混雑
豆漿
日本人旅行者にもおなじみの朝ごはん「豆漿(豆乳)」。台北市内のいたるところにあるが、旅行者が集中する店はやはり決まっている。MRT善導寺駅付近の華山市場内にある『阜杭豆漿』だ。
だが、その行列たるやディズニーランドのアトラクションも顔負け。2階にある店から1階へ、そして華山市場の建物をぐるりと一周してもまだ途切れないほどの行列が朝7時からできている。
ひたすら待って、ようやく美味しいものにたどりつける『阜杭豆漿』も、いい思い出になるのかもしれないが、その斜め向かいにある『永和豆漿』なら、もっとお手軽に地元民とともに朝食を楽しむことができる。
地元客で朝7時から賑わう『永和豆漿』の店内。台湾では夫婦や親子の朝ごはんもこのスタイル
『永和豆漿』では豆乳も油條もすべてオリジナル。店員がチームワークで毎朝の忙しい時間帯を切り抜ける
近所に住む人たちが通勤前、通学前にちょこっと寄って、新聞を読みながら豆乳をすすり、蛋餅(玉子巻き)を食べる。ちょっと強面のご主人が黙々と厨房で生地をこねて、オリジナルの油條を作っている。大豆の香りがふわりと香る温かい豆乳は、行列しなくても手に入るのだ。
人肌の甘い豆乳と焼餅の油條サンド。弾力のある大きな油條をほおばり、まろやかな豆乳で流し込む
MRT善導寺駅から歩いてすぐの『永和豆漿』は午前5時から夜11時まで営業
食べ歩きの途中で産毛取り
旅行者にとって、足裏マッサージほど一般的ではないが、施術の時間も短いので、食べ歩きの途中でちょっと立ち寄るのにいいのが、産毛取りや眉毛カットの店だ。
ビギナーにおすすめなのが、台北駅北側で地元女性が一人で切り盛りするビューティーサロン『安琪(アンチー)』。眉毛カット300元(1000円強)とかなりお得。勇気をふるって入ってみると、人のよさそうなおばちゃんがベッドへと案内してくれた。
眉毛カットには軽い産毛取りも含まれる。産毛取りは店によってはけっこう痛いので一度は遠慮したが、「私がやれば痛くない」と自信たっぷり。恐る恐るサービスの産毛取りもお願いすることに。およそ30分かけて、世間話をしながら眉毛を整え、細い糸を使って顔全体の産毛を抜いてくれた。言われた通り、彼女の産毛取りはまったく痛くなく、お肌がツルツルになる。化粧を落としたりする手間がないので、気軽に利用できるだろう。
細い糸で巧みに眉毛や産毛を抜いていく職人技。彼女の産毛抜きはまったく痛くないから不思議
夜市
士林夜市に次いでリピーター御用達となりつつあるのが、台北駅からも近く、アクセスのいい寧夏夜市。蚵仔煎や臭豆腐など人気メニューにはたいてい行列ができている。
平日の夜からこの賑わいの寧夏夜市。雑貨の扱いは少ないが、食べ物のクオリティには定評がある
蚵仔煎は店頭のパフォーマンスを見ながら並ぶのも楽しみのひとつだが、ツウならば夜市のオリジナルグルメとビールで少し贅沢したいもの。そんなときにおすすめなのが台湾啤酒(ビール)によく合うお好み焼き風ロールが看板の『鴻記鐵板燒』だ。
肉やチーズ、焼きそばやキムチなど、ビールに合いそうな具材をお好み焼きのような皮で包んだ創作料理が人気。縁日的な食べものがあり、味もなかなかのもの。実はもう十数年、寧夏夜市に屋台を構えているのだとか。
どこか懐かしい味わいの『鴻記鐵板燒』の春雨チーズ巻きと、別の店から持ち込んだイカあんかけスープ。どちらも台湾ビールとの相性はバッチリ
この店のいいところは、ビールを客が調達するのではなく、店員が用意してくれるところ。夜市でテーブルに座りながらビールを注文できる店はあまりない。また、夜市の他店の料理を持ち込んでもまったく嫌な顔をされないのもうれしい。
チーズ入り、キムチ入り、焼きそば入りなどが人気メニューの『鴻記鐵板燒』。遊び心満載でお祭り気分を味わえる
この日は春雨チーズ巻きに他店のイカあんかけをプラスして、ビールをいただいた。もちろん、屋台なので長居は禁物だが、夜市での1杯はなにより旅の疲れを癒やしてくれる。
朝市の豆漿
台北でも珍しい青空朝市『雙連市場』には、朝ごはんを楽しめる店がたくさんある。なかでも日本人旅行者に人気なのが『世紀豆漿大王』。雙連駅のすぐ近くとあって、目に付きやすく、日本語のメニューもあるので旅行者が殺到する。
だが、雙連市場はじつはメインストリートから一歩路地へ入ったところがおもしろい。雙連市場の中ほどから細い路地を東へ進み、市場と並行する民生西路3巷へ出たところにある、青い看板の『佳佳豆漿』も人気店だ。
『世紀豆漿大王』よりも規模は小さいが、地元民の行列ができている。鉄板の前でフライ返しを巧みに操る職人さんが次々と注文をさばくので、ほとんど待つことがない。
青い看板が目をひく『佳佳豆漿』は旅行客こそ少ないが、地元客がひっきりなし。回転は早い
同時に複数の注文をこなす『佳佳豆漿』の女将さん
日本語のメニューも用意されているのだが、客のほとんどは台湾人。通勤前のOL風の女性もここで朝ごはんを済ませて、手鏡で身だしなみを整えてから出勤。旅行者御用達の有名店も捨てがたいが、地元の人たちの素顔が見られるお店に足を踏み入れてみると、旅を通してこの土地の日常が見えてくる。
甘さや温度を自在に組み合わせられる豆漿(左)。この日は甘く、温かい豆漿にたまごをプラスしてまろやかに。この店は蛋餅(たまご巻き、右)もシンプルで美味しい
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |