台湾の人情食堂
#55
途中下車のお楽しみ、駅前食堂の旅〈1〉
文・光瀬憲子
車の運転があまり得意ではないので、日本での移動は電車に頼りっぱなしだ。日本では電車の時刻は人々の暮らしと密接に関わりがあり、駅を中心に生活圏が形成される。
一方、台湾の電車、特に台鉄(在来線)や高鉄(新幹線)は少し日常から離れていて、旅や休暇と連動している。そこまで電車の時刻や駅チカにこだわらない人が多いので、どこかのんびりしているのだ。今回は台湾各地の駅に近い食堂に焦点を当ててみた。途中下車して腹ごなし。電車に乗る前にちょっと1杯。いずれも徒歩圏内でうまいメシにありつける店ばかりだ。
台北駅
まずは台北駅から徒歩で行ける絶品水餃子と麺の専門店「豪季水餃子専売店」。台北駅は広大なので、台鉄の駅、高鉄の駅、MRTの駅、バスの駅など、エリアによって出口が面している道路も異なる。
「豪季」はMRT淡水線や板南線の出口から近いところにあるので市内移動中に立ち寄るのに便利だ。台北駅にほぼ直結しているが、裏路地にあるので行列ができるほどではないが、味に定評があるので昼時は満席となる。
水餃子は台湾人にとってスタンダードなランチの選択肢。ちょうど10個で一人前。テイクアウトもあるが、やはり店内でできたてをいただきたい。「豪季」の水餃子は皮がもっちりと肉厚で、中の具もしっかりと肉汁が凝縮された濃厚な味。また、水餃子専門店ながら、この店の麺もファンが多い。日本のうどんに似た太麺は肉のソースがよく絡んで美味。食べる前によくかき混ぜるのがコツ。
台北駅MRT出口M7番からすぐの路地。黄色い看板が目印。昼時は早めに席取りを
水餃子専門店とうたいながらも絶品なのがうどん風の炸醤麺。麺と肉ダレをよくからめていただく
昼時には混雑するので仕込みも大変。もちもちの水餃子の皮には肉汁たっぷりの具が包まれる
北投駅
台北駅からMRT淡水線の淡水方面に乗り込み、およそ20分のところにある北投駅。温泉街がある新北投駅のひとつ手前の駅だ。ここには隠れた名店グルメや北投市場がある。そんな北投駅から歩いて2分という好立地の「李家小館」はやや時代を感じさせる台湾家庭料理店だ。
小さな店だが、多彩なメニューと味は地元老舗旅館のマネージャーのお墨付き。食堂というよりはレストランに近く、3〜4人、またはもっと大人数で訪れて円卓を囲み、気さくにビールを飲みながらワイワイやるのもいい。
この店には台湾料理だけでなく、中華料理でおなじみのエビ炒めや牛肉炒めなども豊富。看板メニューは皮がパリッとしたジューシーな鶏肉料理。北投の温泉に入った後にビールで乾杯……そんなときにちょうどいい。
MRT淡水線北投駅の出口を出て光明路を進むと右手にある「李家小館」。駅から徒歩2分
カレーのようでもあるがどこか違う、甘みと旨味が濃縮されたエビと豆腐の煮込み料理
マコモダケと塩タマゴの炒め物。塩タマゴ料理は屋台ではあまりお目にかかれない。ビールにぴったりの絶妙な塩加減がやみつきに
新竹駅
台北から1時間。小旅行気分が味わえる新竹の駅舎
台北から自強号で1時間ほどの新竹。美しい駅舎を背に線路沿いを南下すると、地元の人しか知らない絶品朝食店「新竹有夠爛花生湯」がある。このちょっと長い店名は「新竹のとてつもなく柔らかいピーナッツスープ」という意味だ。
看板メニューはもちろん、柔らかく煮込まれたピーナッツスープ。甘く温かいスープにピーナッツがぎっしり! これに油條(揚げパン)を付けて食べればそれだけでお腹がいっぱいに。だが、この店の密かな人気メニューは蛋餅(卵巻き)。朝9時には売り切れてしまうこともあるので早めに訪れよう。もちもちとした食感と手作りの風味がたまらない。
新竹駅を出たらロータリーを背に線路沿いの中華路二段(大通り)を南下。西大路との交差点そば
たっぷりのピーナッツが入ったピーナッツスープには揚げパンをそのまま浸してかぶりつく
基隆駅
自強号なら台北駅から30〜40分で到達。もはや通勤圏内の基隆駅
基隆は朝、昼、夜とそれぞれの時間帯で楽しみ方が異なる。
有名な廟口夜市があるために夜に旅行客が集中するのだが、駅チカに地元の人以外にはあまり知られていない居酒屋がある。台湾には珍しい昼飲み、いや朝のみ居酒屋。午前11時から営業しており、朝、仕事を終えた漁師や市場労働者が帰宅前の1杯を楽しむ憩いの場でもある。
ガード下という場所柄、どこか日本の大衆酒場にも似た雰囲気が漂う「三姐妹熱炒店」は、カウンターに座る中高年の一人客も多い。料理はどれも安く、煮込み豆腐、エビの塩炒め、牡蠣の揚げ物など、基隆らしい家庭料理がメイン。隣の席のおじさんたちと仲よくなれそうな距離感がいい。
ガード下の飲み屋を思わせる昼飲み居酒屋「三姐妹熱炒店」。駅前の孝四路を線路沿いに南下して徒歩5分
エビ炒めや臭豆腐に合わせるのは台湾の養命酒「保力達+焼酎」がおすすめ
嘉義駅
2017年秋に駅前広場がリニューアルされた嘉義駅
台湾の西側を走る台鉄(在来線)で台中を過ぎたところにある嘉義。自強号なら台北から3時間半ほど。ちょっとした小旅行だ。
嘉義駅は2017年に駅前広場の工事が終わり、広々と生まれ変わっている。映画『KANO〜海の向こうの甲子園』の大ヒット以来、旅行地として台湾人に人気が出たが、日本人は阿里山など中部地方の旅の通過点として訪れたことがある人も多い。
嘉義は鶏肉飯の故郷。当然、嘉義駅前にも美味い鶏肉飯店が何軒もある。「三雅嘉義火雞肉飯」は駅から見えるほど近く、また朝8時半から夜の9時までと営業時間も長いので便利。
看板料理のジューシーな鶏肉飯のほかにもサイドメニューが充実していて、ビールもある! 電車に乗り込む前の30分、ここでツマミとビールを味わい、シメの鶏肉飯をかき込んで、あとは電車でおやすみなさい。
駅チカの「三雅嘉義火雞肉飯」は駅前広場から伸びる中正路と仁愛路の交差点にある
嘉義の人にとって鶏肉飯は朝ごはん。白米の下に肉汁が染みているので混ぜてていただく
美麗島駅(高雄)
高雄は台北に次ぐ第2の都会だけあって、MRTも充実している。赤線と橙線が交わる最大の駅、美麗島は六合夜市などのグルメスポットにも近い。
美麗島駅を降りてすぐのところに「汕頭泉成沙茶火鍋」という夜の12時まで営業している鍋店がある。私はこの駅のすぐそばにあるリーズナブルなビジネスホテル(中央飯店)をよく利用するので、営業時間の長い鍋店はとてもありがたい。
ちょっとおしゃれな内装で、四川風の火鍋のほかにも海鮮鍋や沙茶鍋、さらにはサイドメニューも充実。もちろんビールもあり、遅くまで若者たちで賑わっている。じっくりと煮込んだ四川風火鍋はコクと旨味の強い絶品。肉の質もよい優秀店だ。
高雄のMRT美麗島駅1番出口を出てすぐ。中山横路に面したおしゃれな「汕頭泉成沙茶火鍋」
陰陽鍋と呼ばれる仕切りのある鍋で2種類の味を選べるので、好みに合わせて楽しめる
礁渓駅
ノスタルジックな温泉街の礁渓駅。駅のそばには無料で足湯が楽しめる温泉公園もある
台北から東廻りで行けば1時間半足らず。以外と近い台湾東部の温泉街「礁渓」。熱海を思わせる景色は、海のそばでありながら裏手を山に囲まれているからだろう。どこかノスタルジックな駅前風景もひと昔前の温泉街といった風情だ。
この小さな礁渓駅のそばに絶品の冬粉専門店「八寶冬粉」がある。冬粉とは春雨のこと。原料が緑豆やトウモコロシなので厳密に言えば麺類ではないが、台湾では麺として扱われることが多く、スープにたっぷり入っている。八寶冬粉はその名の通りミックス春雨スープのこと。
たかが春雨とあなどるなかれ。肉、つみれ団子、野菜、キクラゲなど、あらゆる具材が絶妙にミックスされた濃厚なスープがすばらしい。それでいて朝ごはんにぴったりの爽やかさもある。また、この店は魯肉飯も美味しいのでぜひ頼んでみてほしい。
駅前からのびる温泉路をまっすぐ進み、中山路の交差点を左折。駅から徒歩3分
絶対に外せないボリュームスープ「八寶冬粉」をはじめ、刺身風のサメの燻製や湯葉巻きなどのサイドメニューも充実
*名古屋の栄中日文化センターでの台湾旅行講座『途中下車や車窓風景を楽しむ 台湾一周!鉄道&高速バスの旅』の募集が始まりました。日時は5/13、6/10、7/8、いずれも第2日曜の13:00~14:30です。お申し込はお電話(0120-53-8164)、または下記からお願いします。
http://www.chunichi-culture.com/programs/program_160822.html
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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |