台湾の人情食堂
#39
食べ歩きのオアシス、お粥のおすすめ店
文・光瀬憲子
朝はいい。旅行中は特に、早起きすると三文どころか五文くらい得しそうである。台湾は夜市という夜のエンターテイメントが充実しているため、ついつい朝寝坊しがちだが、台湾は朝こそ楽しい。気温が上がりきらないうちに朝市へ繰り出し、果物や野菜のすがすがしい香りを吸いながら美味しい朝ごはんを探すのは台湾の旅の醍醐味だ。
台湾の代表的な朝ごはんのひとつにお粥がある。一口にお粥と言っても、台湾には実にさまざまなお粥がある。お粥にマッチするおかずも豊富だ。
朝、龍山寺参りを済ませたら、この店で朝粥を
艋舺という台北の下町でよく食べられているのは鹹粥(シェンジョウ)と呼ばれる塩味のついたお粥だ。肉粥(ロウジョウ)とも呼ばれる。水分が多めで、サラサラした粥に、ほんの少し細切れの肉や野菜が混じっている。
『老艋舺鹹粥』の鹹粥には揚げた豚肉の薄切りが入っている
私がひいきにしているのは『老艋舺鹹粥』という老舗のお粥屋さん。早朝から昼過ぎまで営業していて、朝早くから常連客で賑わう。同じく艋舺エリアにある『周記肉粥』のほうが有名だが、観光客も多くて常に混雑している。その点、この店は地元に愛されている店といった感じだ。
そのまま食べると薄味なので、おかずと一緒に食べる。鹹粥の店はおかずが勝負を決める。一番人気はゴボウの天ぷら。大きめのゴボウがサクッと揚がっていて、ボリュームがあり、体にもやさしい。
黒白切と呼ばれる豚モツのスライスも豊富に取り揃えてある。酒のツマミのようなモツのスライスがお粥の友とはまったく驚きだが、これが白いお粥によくマッチする。豚モツに甘めの醤油ダレとショウガの千切り。お粥のどんぶりと小皿に並んだ豚モツで迎える艋舺の朝だ。
『老艋舺鹹粥』の名物おかず、ゴボウの天ぷら
地元の馴染みの客が多い人気店『老艋舺鹹粥』
廟口夜市めぐりのついでに基隆の人気粥店へ
台北から台鐵で45分のところにある港町、基隆。ここは隠れグルメタウンで、台北ではなかなか出合えない食べ物にもお目にかかれる。私のお気に入りのお粥屋さん『天天來鹹粥』は、グルメが集中する基隆駅周辺から少しだけ離れたところにある。人通りが少ない場所なのに、この店には平日の早朝から続々と人が集まってくる。
サラリとした水分の多い粥で、長時間煮込まれているため、米粒は原型をとどめないほどやわらかい。お粥には刻みキャベツが入っているだけで肉はなく、ほんのり塩味がついている。この店でもっとも人気のサイドメニューが五香肉捲という肉巻き。モチモチした不思議な食感とパリッと揚がった皮が印象的だ。
『天天來鹹粥』のうっすら塩味の粥と名物の肉巻き
早朝5時台から粥を売る人気店『天天來鹹粥』
雙連市場の路地裏、トッピング選びが楽しい粥
おなじみ雙連の青空市場は朝の散歩にも最適
リピーターの多い人気の朝市、台北の雙連市場。メインの通りから一本路地を入ったところにある『小洪麺線』には人気のやみつき粥「鴉片粥」がある。鴉片というのはアヘンのこと。一度食べたら中毒になるくらいリピートしてしまうのでアヘン粥と名付けたそうだ。
とろりと柔らかく煮込まれた白粥で、米粒もしっかり味わえる。ボリュームのある白粥の上にはさまざまな具をトッピングできる。一番人気の爆漿鴉片粥はしらすなどのトッピングが入って80元。私は二番人気の招牌鴉片粥(65元)が好み。
招牌は看板という意味なので、店の自信作ということになる。この粥には刻みしいたけと鶏肉そぼろの煮込み、ピータン、肉鬆(肉でんぶ)などがたっぷり乗っている。トッピングの食感がそれぞれ違うので、いろいろな食感を楽しめる。粥はやはり朝食べることが多いので、早朝から運営し、昼過ぎには店を閉めてしまうところが多い。狙い目は午前中。朝からお粥でスタミナをつけて、1日の食べ歩きや観光に備えるといいだろう。
『小洪麺線』の鴉片粥、トッピングはそぼろ肉、ピータン、肉でんぶ
食べるスペースは狭く、テイクアウトが多い『小洪麺線』
食べ歩きは粥でしめる。龍山寺脇の深夜屋台
お粥は朝だけではなく、夜の疲れた胃にもやさしい。日本人は飲んだあとにしめのラーメンを食べたりするが、台湾ではお粥でしめる人も少なくない。
飲み屋の多い艋舺(万華)には、夜中に出没する不思議なお粥の移動屋台『艋舺清粥小菜』がある。場所は龍山寺に向かって右手の歩道。ここで深夜0時半から営業を開始するのだ。暗い街かどにぽっかりと浮かび上がる深夜の屋台。灯りに群がるようにして様々な客たちが集まる。自分の夜市屋台を畳んで立ち寄る働き者、水商売の女性、酔客、タクシーの運ちゃん、明け方近くには早起きのお年寄りなど……。
屋台には色とりどりのおかずが20種類以上ズラリと並ぶ。セルフ弁当サービスの自助餐メニューとよく似ているが、どれもお粥に合いそうなものをピックアップしている。深夜だけあって野菜や豆腐が中心なのもうれしい。
『艋舺清粥小菜』で夜のシメ粥を
仕切りのついたプラスチックトレイ、または弁当箱を手に取り、おかずを選んでトングで詰めていく。欲しい量だけ盛れる。どれも美味しそうで目移りしてしまうので、なるべく多くの種類を少しずつ選ぼんで計量してもらう。重さによって値段が決まるのだ。
最後にお粥をよそってもらい、席に着く。お粥ではなく、白米がよければ最後に白米を選べばいい。この店のように、何も入っていない白粥のことを清粥(チンジョウ)という。清粥にはおかずが付き物だ。粥はだいたい1杯10元で、おかずの重さや種類で値段が決まる。
龍山寺脇に現われる深夜屋台『艋舺清粥小菜』のおかず群
『艋舺清粥小菜』の営業は0時半から翌朝7時頃まで
私は歯ごたえがある食べ物が好きなので、日本では積極的に粥を食べないが、台湾では魅力的なおかずに惹かれてお粥屋さんによく足を運ぶ。朝でも夜でも、粥は食べ歩きで疲れた胃をいたわってくれる。
鹹粥は1杯10元が相場。おかわり自由の店もある。そしておかずはすべて小皿で出され、野菜のメニューは1皿20元程度、肉が入ると30~50元くらいになる。一人前ならば合わせて100元に届くことはめったにない。お腹にも、懐にもやさしい朝ごはんだ。
*著者最新刊、双葉文庫『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』が、双葉社より7月13日発売されます。旅のお供にぴったりの文庫サイズのポケット版ガイド、ぜひお楽しみに!
*単行本『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』が、双葉社より好評発売中です。ぜひお買い求めください!
定価:本体1200円+税
*7月15日、8月19日(いずれも第3土曜13:00~14:30)、名古屋の栄中日文化センターで筆者が台湾旅行講座を行います。お申し込みは下記からお願いいたします。
http://www.chunichi-culture.com/programs/program_160822.html
℡ 0120-53-8164
*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |