台湾の人情食堂

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#123

「台湾ロス」の皆さんへ〈14〉忘れられない旅 阿里山編(2)

文・光瀬憲子

 前回に続き台湾中部の山岳地帯に暮らす先住民・鄒(ツォウ)族の暮らしぶりを見てみよう。彼らの生活は、コロナ以降、日本でも見直されるようになった「おうち時間」や「自然と触れ合う時間」にも通じるところがある。

 

■頼もしい山岳ガイド

 

ツォウ族の少年に連れられて深山を歩く筆者 

 

 鄒族が住む阿里山の集落は、もっとも近い都市である嘉義からバスで2時間以上かかる。このため、民宿「秘密遊」(ミミヨ)を営む家族はあまり都会に出る機会がない。これは台湾各地の先住民に言えることで、小学校までしかない集落の子どもたちは、中学、高校への進学を機に都会に出て一人暮らしや寮生活を始めることも多い。

 阿里山の民宿「秘密遊」には、当時(2015年)小学校低学年の男の子がいた。だが、たとえ小学生でもファミリー経営の宿では立派な戦力になる。「秘密遊」の長男、ヴォーユン君も、宿に到着したゲストを山に案内するという山岳ガイド役を担っていた。

 

民宿「秘密遊」の山岳ガイドを務めるヴォーユン君。山の知識が豊富だ

 

 彼の腰には、柄に民族の模様が施された立派な短刀が。鄒族の子供たちは7歳になるとナイフを与えられるという。ヴォーユン君は普段からこのナイフを使って木の枝を切ったり、果物を剥いたりするらしく、すでに手に馴染んでいるようだった。山道を案内しながら私の前を歩く彼は、足元に生える雑草をザクザクと切りながら進む。その後ろ姿には子供とは思えない凄みがあった。

 彼は時折、木の上や茂みを指して、「あれは食べられる樹蕃茄(トマト)だ」とか、「今は○○という川魚がおいしい」とか、説明してくれる。スーパーに並んだ野菜や魚を買うのが当たり前の私にとって、大地の恵みをそのまま手に取る彼がとても頼もしく見えた。

 

7歳のときに父親からプレゼントしてもらったという手作りの短刀。彼の生活必需品だ

 

 仕事が忙しく外食が多かった私も、自粛が続き自分であれこれ料理をするようになった。すると、スーパーよりも、近所の農家が直販している新鮮な野菜に目が向くようになった。

 夏はトマトやキュウリ、秋はキノコ類、冬はダイコンやハクサイなど、季節によって旬の野菜がある。そんな当たり前のことさえ、気にとめない生活をしていた自分が恥ずかしくなる。

 

妹といっしょに宿の雑用を手伝うヴォーユン君

 

 先住民の彼らは、めぐる季節の中で、その時期に採れる旬なものだけを口にする。都会に住む私たちにとってはなんだか贅沢に思えるが、彼らにはそれしか手段がないのかもしれない。真冬に何時間もかけて都心のスーパーでトマトを求めるのではなく、食材の少ない冬は、寒くなる前に漬け込んだ白菜や塩漬けの豚肉でしのぐ。春になれば、ありとあらゆる新芽が育ち、川の魚がとれる。

「秘密遊」では、そんな彼らの豊かな食を体験することができる。山でとれる山菜や果物、川魚などを調理した彼らのディナーコース。洗練された器に盛られると、まるで都心のホテルで食べるフレンチのようにも見える。阿里山でこんなにステキな食事ができるとは。

 

阿里山で採れた山菜や川魚を使ったディナーコース。いずれも素材の味が生きていて美味しい

 

力強い味とすがすがしい香りがしたカラフルなサラダ。「秘密遊」のディナーは別料金で1人前400元前後

 

■自然の糧は生きるに足る分だけいただく

 

 以前、新竹地方の山を訪れ、その地に暮らす先住民を訪ねた。彼らも山の民で、猪を狩り、山菜を食していた。食事の前には、ほんの少し料理を取り分けて、大地に撒いていた。米や酒を神に供えて、感謝しながら食べるのだという。

 台湾の先住民に共通する概念がある。「生きるに足る分だけいただく」という考え方だ。自然から分けてもらうのは、自分たちが生きていくのに必要な分だけ。そうやって自然界とのバランスを取りながら大地の恵みを味わっている。

 スーパーで食材を買いすぎて、冷蔵庫の中で腐らせてしまう経験は誰にでもあるだろう。旬のものを少しだけいただくという、先住民の暮らしに学びつつ、明日の献立を考えなければ。

 

(つづく)

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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