韓国の旅と酒場とグルメ横丁
#38
韓国のことわざに学ぶ、美味しい話
日本と同じように韓国にもことわざがある。それは現代を生きる私たちにとって貴重な金言至言となることも少なくない。筆者の耳によく入ってくるのはやはり食べ物に関することわざだ。
よく知られているものとしては、「金剛山も食後景」(花より団子)、「ご飯泥棒」(それさえあれば他に何もいらないほど美味しいおかず)、「キムチの汁から飲むな」(先走るな)などがあるが、今回はそのなかから心身の健康や美容に関わるものをいつくか紹介しよう。
「肉は噛んでこそ、話は言ってこそ」
筆者は最近、焼肉店で赤身の多い肉を頼む機会が増えた(年齢のせいかも)
日本の焼肉店の上カルビや特上カルビを見ればわかるように、日本では霜降りのやわらかい肉が上等とされている。韓国にもその影響はなきにしもあらずだが、それでも日本と比べると、赤身が多く、歯ごたえのあるものを好む傾向がある。よく日本の人から「韓国の人は歯が丈夫そうですね」「歯並びがいいですね」と言われるのだが、韓国人は日本人と比べあごが発達している人が多いようにも見えるし、咀嚼力にも違いがあるのかもしれない。
言葉についても同様だ。日本の人は言いたいことを全部言わず、波風を立てない会話をよしとする傾向があるが、韓国の人は言いたいことは腹にためないほうがいいと考える人が多い。このことわざも、耳ざわりのいいことばかり言わず、思ったことはそのまま吐き出したほうがよいという教訓なのだろう。
これはまた、「いくらいい考えでも、人に伝えなければ始まらない」とも解釈できる。日本のことわざ「言わぬが花」とは正反対なのが、韓国人の気質をよく表しているようで興味深い。
日本ではやわらかい肉が好まれるように、言葉もやわらかく、遠回しに表現するが、私たち韓国人の言葉はストレート。日本の人には刺激が強いかもしれないが、その分あとくされがなく、精神衛生上よいといえるかもしれない。
筆者の地元、ソウル江東区の遁村市場にある精肉店系の人気焼肉店『シンフン精肉百貨店』
「朝は王様のように食べる」「朝の果物は金メダル」
前者はじつは「朝は王様のように食べる」の後に「昼は王子のように食べる、夜は物乞いのように食べる」という言葉が続く。つまり、朝食がもっとも重要であることを謳っているのだ。
現代人の生活パターンが変化、多様化しているため、最近は朝食を食べない人も増えているが、一日の活動が始まる朝はやはり重要。王様の御膳のようにしっかり食べてエネルギーをたくわえ、代謝が落ちる昼から夜にかけては、徐々に軽くしようという教えだ。
韓国では早朝から開いている食堂や、出勤・登校前にサッと食べられるトーストの屋台などが多く、朝食重視派はまだまだ健在といえるだろう。
しっかり食べたい人におすすめの朝ご飯は、こんな感じ。山盛りご飯、肉やツナがたっぷり入ったキムチチゲに、おかずが6皿付いて4000ウォンはいまどき破格
上の写真の定食を出す店はソウル鍾路3街6番出口近くの有名店『味カルメギサル専門』の右手の路地を入って、少し行った右側
朝食に関することわざとしては、「朝の果物は金メダル」というのもある。ビタミンなどの栄養が豊かで、胃腸にかかる負担も少ない果物は朝食に最適だという教えだ。韓国では何年も前から、朝食用のフルーツ専門宅配サービスも人気がある。
二日酔いで食欲がない人は、せめてスイカで水分補給を
「タコ一匹で夏バテの牛も元気になる」
タコにはタンパク質をはじめ、ビタミンB、カルシウム、タウリン、血中コレステロールを下げる不飽和脂肪酸などが多く含まれている。そんな栄養価の高いタコを与えれば、夏バテした体の大きな牛も元気になるというたとえだ。
アンコウの辛い煮物(アグチム)に茹でダコをトッピングした例。アグチム専門店にて
タコが牛だけにいいわけではもちろんない。消化に時間がかかり、しかも低カロリーなので、人間のダイエットや糖尿病予防にもいいことづくめだ。
釜山は中央洞の人気店『トゥンボチプ』のイイダコ焼き(チュクミクイ)。ごはんのおかずにも酒のつまみにもいい
タコはカルククス(韓式うどん)の具になることもある
韓国でも日本でもタコはごちそうで、いろいろな料理がある。筆者の知り合には東京や大阪から九州や四国に移り住んだ人が何人かいるが、彼らは一様に「煮てよし、焼いてよし、蒸してよし、鍋にしてもよし。都会よりも新鮮なものが安く手に入るので、タコ一匹あれば食卓が豪華になる」と言っている。なんともうらやましい話だ。
「身土不二」(シンドプリ)
「身土不二」とは、韓国の農産物や健康食品のキャッフレーズによく使われる言葉で、身体と大地はひとつという意味。日本の「地産地消」に近い。つまり、自分が生まれ育った土地でとれたものこそ、身体に合うということだ。
日本でも、お年寄りがその土地でとれたものを食べて健康に暮らしている長寿村が注目されることがあるが、あれがまさに身土不二の例だろう。日本に出張に行くと、地産地消を謳う張り紙や提灯を掲げた飲食店によく出合い、その意識の高さに驚かされる。
全羅北道では主菜や副菜に地元産の名物、豆モヤシがよく使われる。写真は全州、南部市場のコンナムルクッパ(豆モヤシの汁かけ飯)専門店のもの
日本でも韓国でも、ことわざをはじめとする食に関する言い伝えを意識しながら食べ歩きをするとさらに楽しいだろう。
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*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!
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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7 |
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