韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#126

韓国映画・ドラマで見た風景 オクタッパン編(1)

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 ドラマ『マイ・ディア・ミスター 私のおじさん』のジアン(IU)の生活圏で見られる風物について語ってきたが、今回はタルトンネでもよく見られるオクタッパン(屋上家屋)にふれてみよう。10年ほど前だが、『屋根部屋のプリンス』というドラマで、主人公(パク・ユチョン)が朝鮮王朝時代から現代にタイムスリップしたところがソウルのオクタッパンだった。

 

ソウルの東のはずれ、江東区にあるホテルから撮った住宅街。あちこちの屋上にオクタッパンがある。韓国人にとっては見慣れた風景だ。2014年の撮影なので、後方のロッテワールドタワーはまだ建設中だ

 

■オクタッパンとは?

 

 漢字で書くと「屋塔房」。つまり、多世帯住宅や雑居ビルなどの屋上に増設された家(部屋)のことだ。最上階のさらに上となるので、階段の上り下りが大変。冬寒く、夏は暑い。水の出が悪い。しかし、家賃は安く、住居以外のスペースを庭のように使えたり、洗濯物を干せたりするなど、メリットもあるにはある。

 それでは映画に登場した印象的なオクタッパンを見てみよう。

 

筆者の母親が住む全羅南道光州のアパートから見下ろした住宅街。地方でもオクタッパンは珍しくない。写真から探してみてほしい

 

■ホン・サンス監督作品『豚が井戸に落ちた日』(1996年)

 

 ホン・サンス監督の長編映画デビュー作であり、ソン・ガンホの映画デビュー作という、ものすごい作品である。

 しかし、ホン・サンスらしい難解な内容で、贅肉のそぎ落とされた最近の作風と違って夾雑部が多く、消化しにくい。しかも、怪奇映画のような不穏なBGMがたびたび流れるので、正直、同監督作品のなかでも個人的にもっともリピートが少ない。軽く100回はリピートしている次作『カンウォンドのチカラ』(6月12日より渋谷ユーロスペースで上映)とは大違いだ。それでもあきらめず、良さがわかるまで鑑賞し続けたいと思う。

 本作では主人公の売れない小説家ヒョソプ(キム・ウィソン/『新 感染 ファイナル・エクスプレス』の利己的なバス会社常務役)がレンガ造りのオクタッパンに住んでいる。ホン・サンス監督作品においてはオクタッパンまで複雑である。屋上がL字型になっていて、Lの腹の部分に隣のビルが食い込むように建っているのだ。

 ある日、ヒョソプがオクタッパンを出ると、隣のビルの屋上で鉢植え栽培されている植物が目に入る。彼は辺りを見回しながら、こそこそと植物に手をのばし、金柑の実をもいで、その場を去りながらもぐもぐと食べる。

 映画を半ばまで観るとわかるのだが、どうやらヒョソプの家のある辺りはタルトンネらしい。オクタッパンとタルトンネは切っても切れないようだ。

 後半、ヒョソプの恋人である人妻ボギョン(イ・ウンギョン)がオクタッパンを訪ねるが、ヒョソプは留守だった。所在なげに佇むボギョンに隣のビルのオクタッパンに住む女性が「何してるんですか?」と声をかける。「会う約束をしたんですが、留守みたいで……。すみませんけど、お金を落としてしまったので1万ウォン貸していただけませんか?」ボギョンは初対面の女性に金を借りようとする。5千ウォンを受け取って去るボギョン。隣の女性は鉢植えに目をやり、ボギョンに聞こえよがしに言う。「あの人(ヒョソプ)、また唐辛子もいで行ったわ」

 なんとも寒々しい場面だが、オクタッパンの出てくる映画として妙に印象に残っている。

 

■チャ・テヒョン主演『覆面ダルホ 演歌の花道』(2007年)

 

 ソウルの音楽事務所にスカウトされ、田舎から上京してきたロック歌手ダルホ(チャ・テヒョン)が訪ねた「クンソリ・キフェク(大声企画)」は、ビルの屋上にあるオクタッパンだった。

 ギターを背負ってのこのこ上がってきたダルホが開けた事務所の引き戸は、いまどき大衆食堂でも聞けないほどガタピシ言っている。その横には豚足などの出前のチラシがぶら下がっている。壁には「歌こそ我が人生」の貼り紙が。

 ダルホがいぶかしげに事務所のソファに座ると、企画室長(チョン・ソギョン/『新 感染~』のKTX運転士役)が言う。

「ちょっと狭いけど、アートっていうものはこういうところから生まれるんだ」

 その事務所には有名歌手は所属しておらず、しかも演歌専門だと知り、ダルホは絶望するが、そこにチャイナドレス姿の美人歌手ソヨン(イ・ソヨン)が入ってきて、彼の態度は一変する。

 コミカルな場面でオクタッパンを使った例としては最高傑作だろう。

 

■ユ・アイン&キム・ユンソク主演映画『ワンドゥギ』(2011年)

 

 不良高校生ワンドゥク(ユ・アイン)と担任教師ドンジュ(キム・ユンソク)は同じタルトンネに住み、しかも、隣り合わせの多世帯住宅のオクタッパンに住んでいた。屋上が同じくらいの高さなので、ドンジュはたびたび大声でワンドゥクを呼び出し、韓国ではヘッパンと呼ばれるカップに入ったレトルトごはんを投げてもらう。貧しい者どうしの助け合いといっては身も蓋もないが、たまにワンドゥクが投げたヘッパンがドンジュまで届かず、建物と建物の間に落ちてしまうのが可笑しかった。

 映画の終盤、ドンジュに彼女ができ、オクタッパンに泊まっていくようになる。その翌朝、いつものようにワンドゥクを呼び出して「ヘッパンを投げろ」と言ったあと、小声で気まずそうに「2つ」と言う場面がよかった。緩急のある演技が得意なキム・ユンソクの面目が躍如とした瞬間だ。

 

(つづく)

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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