日本全国 相撲めしツアー!
#07
もち豚専門店『わとん』
文・武田葉月
錣山部屋の新入幕力士・阿炎の相撲の先生の店
新春早々おこなわれた大相撲初場所は、前頭3枚目・栃ノ心の平幕優勝という形で幕を閉じました。
東欧・ジョージア(前・グルジア)出身、ジョージア時代は世界ジュニア相撲選手権で準優勝した経験を持つ栃ノ心は、大相撲に入門するとすぐに頭角を現し、スピード出世で小結に昇進。ところが、ヒザの負傷で幕下まで陥落するという苦労も味わいました。その後、地道な稽古で幕内に復帰。30歳を迎えた今年、その努力が「幕内最高優勝」という形で報われました。優勝を決め、涙ながらに、
「親方、おかみさん、故郷の皆さん、日本の皆さん、すべての人に感謝します」
と語った誠実な人柄も魅力で、「角界のニコラス・ケイジ」の大関昇進も遠くはないと思われます。
その初場所で、大活躍したのが、新入幕の2力士。11勝を挙げた竜電、10勝を挙げた阿炎(あび)が揃って敢闘賞を獲得し、相撲界に新しい風が駆け抜けました。
阿炎は元関脇・寺尾が師匠を務める錣山部屋所属の力士。錣山親方の幼い頃からのニックネーム「アビ」から命名されたこの四股名、親方の彼への期待値が高いことがよくわかりますよね。親方は東京・安田学園高相撲部の出身ですが、当時、相撲部の1学年後輩だったのが、『わとん』のご主人・常光弘泰さんです。
中学時代、バレーボール部だった常光さんは、「相撲がやりたくて」相撲部のある安田学園高に進学。当時、160センチ、75キロほどの小柄な体で都大会で準優勝などの成績を残し、卒業後は大東文化大で相撲を続けました。
以降、相撲とは別の道に進んでいた常光氏に転機が訪れたのが2005年のこと。埼玉県草加市の少年相撲道場「草加相撲練修会」の指導者に推され、相撲の指導を始めることになったのです。すると、一時、激減していた練修会のメンバーが徐々に増え、幼稚園児から中学生までの少年たちで活気あふれる道場に変化。当時、小学生だったのが、阿炎こと堀切洸助少年だったのです。
その堀切少年は14年、錣山部屋に入門。16年、二十歳で十両に昇進。そして今年初場所、新入幕という快挙を成し遂げたのです。
いわば「阿炎の相撲の先生」常光さんが、もち豚専門店『わとん』を東京・両国にオープンさせたのが、07年5月のこと。ボリュームのあるメニューが評判を呼んで、錣山親方、阿炎をはじめ、各部屋の力士たちが気軽に顔を出しています。
敢闘賞を獲得した阿炎。
『わとん』のご主人の常光さん。
「もち豚専門店」と謳っている『わとん』の定番メニューと言えば、この極上とんかつ。じっくりと30分近い時間をかけて揚げるとんかつは、サクサクジューシー。
極上とんかつ 1500円。
ポークステーキも見事なボリューム。女性でもぺロリと平らげられるほど、甘みあふれるやさしい味。
ポークステーキ 1300円。
また、女性人気ナンバーワン、しゃぶしゃぶ肉がトッピングされたわとんサラダは、これでレギュラーサイズというから驚きです! ちなみに、ハーフサイズもあります。
わとんサラダ(並)800円(写真)。ハーフサイズ680円。
すべてがボリューミーなメニューの中で、訪れたお客様の多くが注文するのが、おまかせ3品。もち豚コース、お魚コース、わとんちゃんコースの3種類からチョイスでき、各1500円というおトク感が受けています。
わとんちゃんコース。この日は、お刺身盛り合わせ、リブロースソテー、ジャンボメンチのラインナップ。
さて、ドリンクで人気なのが、ふるふれ抹茶ハイ。
宇治抹茶の風味あふれる、ふるふれ抹茶。450円。
焼酎の種類も豊富です。一番人気は、れんと。
左から、白岳、黒霧島、れんと、高千穂。各1本(1升)4800円。
阿炎の新十両昇進を記念して作られた焼酎は、非売品です。
阿炎の一升瓶。
さて、店内には、店名入りの大入り袋や手形など大相撲色満載の中、草加相撲練修会のモットーがしたためられたタオルも飾られています。
大入り袋。
タオル。
常光さんは『わとん』を経営しながら、現在でも草加相撲練修会で相撲の指導を続けています。18人の少年たちが参加する日曜日の練習のあとで、腹ペコの少年たちのお腹を満たすのは、やはりちゃんこ鍋。
もちろん、わとんでもちゃんこ鍋のメニューがあります。
豚肉、鶏つくね、鶏手羽、エビ、ハマグリ、エノキ、シメジ、ニラなどの具材が入った塩ちゃんこ鍋は、大人気。オシャレな演出はご法度。実際に相撲部屋で出されるように、大鍋で提供されるのが、わとん流です。
塩ちゃんこ。1人前1800円。2人前から。
「教え子が活躍する姿を見るのが、なにより楽しい」
と、阿炎をはじめ、練修会出身、錣山部屋の幕下力士・彩らに期待を寄せている常光さん。
「それまで挨拶ができなかった子が、きちんと挨拶できるようになったり、相撲を通じて成長していく。これからもそういう手助けができればいいですね」
常光さんは、まさに、相撲界における「縁の下の力持ち」といった存在なのです。
初場所、敢闘賞を受賞した阿炎の賞状。
『わとん』で、お客様と常光さん。
*今回訪れた相撲めしの店
『わとん』
住所:東京都墨田区両国4-30-17 1F
リヴェール両国1F
電話:03-3632―5344
営業時間:11時30分~13時、18時~24時
定休日:日曜
『わとん』の外観。
*本連載は月1回配信予定です。次回もお楽しみに!
![]() |
武田葉月(たけだ はづき) ノンフィクションライター。山形県山形市出身。出版社勤務を経て、現職。おもに、相撲の世界を中心に、取材、執筆活動をおこなっている。近著に『大相撲 想い出の名力士たち』(双葉文庫)、『横綱』(講談社)など。文芸誌『小説推理』(双葉社)で「思ひ出名力士劇場」連載中。 |