旬の地魚を味わう全国漁港めぐり
08 松山沖に浮かぶ里島
「本当に旨い魚を現地でいただく!」をテーマにお届けする「全国漁港めぐり」。
第8回目は、 愛媛県・松山沖に浮かぶ忽那諸島をご紹介します。
中島の姫ヶ浜から瀬戸内海の多島美を望む。平成27 年度都市農村共生・対流総合対策交付金事業
松山沖に浮かぶ
里島でアグリ!
island
agriturismo
中島(なかじま)/興居島(ごごしま)/ 怒和島(ぬわじま)
四国最大の街、松山市の沖に浮かぶ忽那(くつな)諸島。
大小30を超える島々のうち九つの島に人々が暮らす。全域が瀬戸内海国立公園のため大規模な開発を免れ、豊かな自然が残る。島の傾斜地にはミカンやレモン畑が広がり、中にはお茶畑も。島の周りは瀬戸内海でも有数の好漁場である。青い海に美しい浜に緑の山々。
そんな自然を満喫しながらサイクリングやウォーキングもいい。そんな忽那諸島を人々は
懐かしい「ふるさと」をイメージして「里島」と呼ぶ。
忽那諸島を代表する中島、興居島、怒和島の3島のアグリな旅を紹介しよう。
tea/fish/mikan
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お茶 | さかな | みかん |
松山沖に浮かぶ里島でアグリ!
離島ながら
アクセスが良い
忽那諸島
island×agriturismo
もっとも近い興居島はフェリーで約10 分。中島は高速船で30 分ほど。怒和島も高速船で1 時間かからない。フェリーは三津浜と高浜の2 港から。高速船は高浜のみ。高浜は松山市内から伊予鉄道で20 分ほど。駅を降りると目の前が港である。便数も東線と西線の2 系統あり、フェリーは全部で7 便、高速船は全部で10 便、毎日運航している。興居島へは1 日28 便ほどが運航。詳しくは中島汽船及び(株)ごごしままで。また、サイクリング好きのために伊予鉄道は土日祝に限りサイクルトレインも運行。詳しくは伊予鉄道まで。
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中島汽船 |
(株)ごごしま |
伊予鉄道 |
中島
(なかじま)
名物の柑橘類と
トライアスロンと
べにふうき茶
Nakajima
(なかじま)
自然豊かな中島の楽しみは
お茶摘みとスポーツ体験
忽那諸島でもっとも大きい島が中島である。人口も約2800人と最大。港も最多の三つ。そのうちメインとなるのが島の東側にある大浦港だ。高浜港から大浦港までフェリーで約1時間、高速船で約30分である。中島はミカン栽培が盛んな島。明治時代に始まり、柑橘王国愛媛を代表する産地である。離島における生産量も国内有数で、「温州みかん」や「いよかん」、その他「せとか」「カラマンダリン」「紅まどんな」などの高級品種も栽培する。
中島の名物がもう一つ、トライアスロン大会である。1986(昭和61)年に四国初として始まった歴史ある大会だ。毎年8月下旬に行われ、水泳、自転車、ランの三つで競う。スイム1.5 km、バイク40 km、ラン10k m のオリンピックと同じショート・ディスタンス。中島の豊かな自然の下、最高の環境で競技ができる。全国的にも知られたこの大会の特徴は、中島の豊かな自然と島民のホスピタリティである。海沿いには整備された道路が通り、景色といいコンディションといい申し分ない。全島挙げて協力するため、民泊する選手も多い。中島は普段も自転車持参で来島するなど、サイクリングやランニングする人が多い。大浦港にはレンタサイクルもある。そのような人のため、港近くの「喫茶ヒロ」では、シャワー室や休憩もできるテラスを用意している。島の人々の温もりに触れられる場所だ。
nakajima×agriturismo
近年、ここに新たな名産が加わった。ミカンの休耕畑でつくるお茶である。瀬戸内の温暖な気候と降り注ぐ太陽、海からの反射光や潮風などがお茶の生育にもいい。栽培品種は「べにふうき茶」で、日本茶葉の中でも、花粉症などのアレルギー症への効果が注目されているメチル化カテキンを多く含む。独立行政法人の農研機構が1993年に、ダージリンをベースに開発した、紅茶に向く茶葉である。中島では、べにふうき茶の茶摘みと紅茶の手づくり体験ができる。茶摘みは年に3回。新茶が5月で二番茶が8月、三番茶が10月だ。摘んだ茶葉を発酵させ、乾燥機で乾燥させ、できた紅茶はお土産としても持ち帰る。茶葉は天ぷらにしても旨い。
島の北東、粟井地区にあるべにふうき茶畑。水はけがよく、雨も少なく、昼夜の寒暖差も大きいという好条件。一番茶の5月はミカンが開花する頃で甘い香りが漂い、10 月の三番茶の頃にはミカン狩りも。
体験イベントの問い合わせはお茶を栽培する金子與雄氏 【電話】089-997- 0810( 7〜21 時)まで。
興居島
(ごごしま)
Gogoshima
(ごごしま)
季節ごとの農業&料理体験
忽那諸島で2番目に大きい島が高浜港の目の前に浮かぶ興ご居ご島しまだ。人口も約1100人と2番目に多い。泊と由ゆ良らの2港があり、泊へはフェリーで約10分、由良も約15分と近い。ひょうたんのような形をした、島の中央部が細くくびれた島だ。入り組んだ海岸線に美しいビーチが点在し、松山市街からもっとも近い里島ながら、素晴らしい景色と自然が堪能できる。
島の絶景ポイント2 カ所。島の南にある「恋人岬」(上の写真)は目の前を松山空港を離発着するジェット機が飛ぶ。
中央部にある「夕日ケ峠」(下の写真)は東に広島などと結ぶ松山観光港が望め、西に釣島など瀬戸内の多島美が。
この興居島では春と秋に行われる伝統行事が有名である。
4月20日と21日の2日間に行われる「島四国」は、250年ほどの歴史を誇る。空海が開いた88カ所の札所を巡る四国お遍路の島版で、島の人々によるお接待も名物。当日は島外から多数の人が訪れる。10月に行われるのが、島の氏神、船ふな越こし和わ気け比ひ賣め神社に奉納される「船踊り」だ。1000年以上の歴史を有する県の無形民俗文化財で、かつて忽那諸島で活躍した水軍に由来する。
そんな興居島の魅力を、季節ごとの農業体験を通じながら紹介してくれるのが、田村農園の田村博文氏だ。
春のタケノコ、初夏のビワ、夏のモモ、秋のミカンなど、旬の食材を島巡りしながら収穫し、料理をつくるというもの。「まつやま里島ツーリズム連絡協議会」副会長でもある田村氏が案内すれば、また違った興居島の魅力に触れることができるだろう。
廃校を利用した「しまカフェ」
島の魅力がもう一つ、廃校になった小学校にオープンした「しまのテーブル ごごしま」である。「島の野菜カレー」のほか、コーヒーや紅茶、島の柑橘類でつくったジュースやスカッシュ、自家製ジンジャーエールやかき氷などがいただけるアートなしまカフェだ。
アートや音楽イベントなどによる交流も随時行っていて、過去には島の男たちが心を込めてもてなす「島の婚活」や、松山市在住の漫画家、和田ラヂヲ氏が講師をする「おとなの写生大会」など、ユニークな企画イベントも行っている。また、島の名産で商品開発も行い、ビーツやミカンのドレッシングなども生産、販売している。
興居島は松山市内から日帰りでも十分に楽しめる距離。道後温泉にでも泊まりながら、アグリでアートな里島体験すれば思い出深い休日になりそう。
怒和島
(ぬわしま)
Nuwajima
(ぬわじま)
里島でのアグリ巡り、最後に紹介する怒和島(ぬわじま)は忽那諸島で3番目に大きく、人口も約450人と3番目に多い。島の東側に上怒和、西側に元怒和の2港があり、上怒和までは高浜港から高速船で約43 分である。
怒和島も柑橘栽培が盛んだ。特にレモンが知られ、近年はタマネギも増えている。また周辺は屈指の好漁場で、農業と漁業を両立させる島民も多く、働き者の島といわれている。
田中政利氏もそんな一人である。1967年に国から米国カリフォルニアに農業実習生として派遣され、帰国後は家業の柑橘栽培のかたわら釣り餌のゴカイ養殖を事業化させ、さらに旧中島町町議や教育委員、松山離島振興協会の会長を務めるなど、多方面で活躍している。子供の頃からミカンを何10キロと背負って急斜面を何度も上り下りしたため、身体能力は人並み以上。180センチの身長に野太い声と、まさに忽那諸島を拠点に繁栄した忽那水軍の末裔を思わせる。しかし実際は至って温厚で、以前「丸の内朝大学」で講師を務めたときの受講生たちからは「お父さん」と呼ばれ、慕われている。受講生たちは今も仲間を連れて島を訪れるなど親睦を図っているが、田中氏も「しま大学」を開き、さらに多くの人と交流を図りたいと考えている。
nuwajima×agriturismo
田中氏が釣り指導。怒和島の海では1m を超えるハマチが釣れ、大物のタイやアジや
サバ、タチウオやホゴ(カサゴ)、メバルなども。このときはアジが釣れた
怒和島で体験したいのが釣り
瀬戸内海は平均水深40メートルと浅い海ながら怒和島周辺は水深150メートルを超えるところもあり、大型魚が回遊する。海底に起伏があり、潮の流れも速く、多くの魚が群れ棲み付いている。中でも怒和島と中島の間に浮かぶクダコ島周辺は屈指のポイントだ。中世の頃に「久田子衆」「九多児衆」と呼ばれた水軍の拠点で特に潮が速い。水軍たちも流れを読み、巧みに舟を操ったことだろう。忽那氏も頼りにしていたようで、それは今も変わりなく、ここの釣りには技と知識と経験が必要。そのため遊漁船による案内も盛ん。水軍たちの海で、当時に思いを馳せながら釣り体験するのも怒和島ならでは。
遊漁船「さなえ45 」(ヤンマーEX35 )の船長、矢野修治氏は
怒和島育ち。周囲の海をよく知る一人だ。矢野船長の案内
で丸の内朝大学の受講生たちも釣り体験した。
http://sanae45.blue.coocan.jp/
海に浮かぶイカダの下で怒和島名産「ぼっちゃん島あわび」が育つ。潮が速く海水温が
高くないため養殖が可能。最高級のエゾアワビに国内産コンブを与え2、3 年かけて育
てる。天然のものより肉厚だ。
クダコ島は周囲1km ほどの無人島。
周辺はクダコ水道と呼ばれ、干満によって潮が川のように流れる
移住体験
(いじゅうたいけん)
Island's Life
(里島移住体験)
インフラが整う中島は
移住体験に最適な島
忽那諸島の中心は、地元で「本島」と呼ばれている中島だ。奈良時代に法隆寺の荘園として開発され、中世には忽那水軍の拠点があった。
忽那氏は瀬戸内海一円に勢力を伸ばし戦国時代には消えた。その本拠地が大浦で、今も中島の中心である。街の北に位置する泰たいノの山やま城跡に上れば、大浦全体と周囲の島々が見渡せる。その後、江戸時代には松山藩、大洲(おおず)藩、天領の三つに分けられ、明治には海運業で栄えたところもある。そのような歴史ある中島への移住希望者を、松山市が募っている。現在、島の生活に憧れる人が増えているようだが、移住となると不安も多い。そこで、松山市は空いている小学校教員住宅を改装し、最長1年間、格安で貸し出している。忽那諸島全体の人口は約5000人。その5割以上が暮らす中島にはさまざまなインフラも整う。大浦には忽那諸島唯一の総合病院があり、内科、胃腸科、外科、整形外科、循環器科、耳鼻咽喉科が揃う。近所には歯科医院もあり、食品や日用品、雑貨など生活必需品を扱う店がある。松山市役所の支所が置かれ、忽那諸島では唯一バスも走り、島内を循環する。中島はほぼ海岸線に沿って道路が整備されている。全長23キロほどで自転車なら1~2時間で周れるだろう。交通量が少なくサイクリングやランニングに最適だ。スポーツ好きには最高の環境である。 大浦港からバスで約5分のところにある姫ヶ浜はじめ、島内各所には美しいビーチが点在する。港もいくつかあり、漁港巡りもまた楽しい。そして、アグリ体験である。ミカン畑やお茶畑など、初めての人でもチャレンジできる環境が整っている。釣りにしても、周囲は瀬戸内海有数の好漁場で、場所によっては岸から大型のハマチも釣れるほどである。
たまに都会の空気を吸いたくなれば、フェリーで気軽に四国一の都市、松山市にも行ける。豊かな自然はもちろん、いろいろなインフラが揃い、さまざまな体験もできる中島は、初めての島生活に向いているといえるだろう。
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冬には島内各所で柑橘類がたわわに |
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民宿昇龍の釣り体験で獲れたアジ |
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トライアスロン大会メイン会場の姫ヶ浜
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写真提供:愛媛県