台湾の人情食堂
#91
知っておくと便利な食べ歩き用語事典〈後編〉
文・光瀬憲子
前回#90に続き、台湾で食べ歩きをするときに知っておくと便利なキーワードを解説しよう。今回は一歩踏み込んで、食堂やレストランの中で役立つ単語について触れてみたい。
「醤油」は発音が難しい
頻繁に台湾に行くビジネスマンから、「台湾出張のときはいつもマイ醤油を持参している」と聞いたことがある。食事の際に自分の好みに応じてかけるのだという。台湾にももちろん醤油はある。だが、彼曰く、どう伝えても通じないのだという。醤油は中国語で「ジャンヨウ」だが、発音と四声の両方が正しくないと、なかなか通じないのは事実。
雲林県の西螺にある『丸藤』のブランド醤油
だが台湾のレストランには、よく「佐料区(ズオリャオチュー)」という一角がある。調味料コーナーだ。醤油はもちろん、辛味調味料、酢、ごま油、辛子など様々な調味料を自分で調合することができる。小籠包や餃子、麺類など、どちらかというと中国北方料理の食堂にこの手の調味料コーナーがあることが多い。刻み生姜やにんにくペースト、パクチーなども置いてある。
中華料理の総称「中菜」、台湾料理の総称「台菜」
台湾の屋台グルメのことを「小吃(シャオツー)」と呼ぶことは前回書いたが、ではそれ以外の中華料理はどうだろう? 台湾には実に多くの中華料理があるが、これらをすべてひっくるめて「中菜(ジョンツァイ)」と呼ぶ。これに対して、台湾料理のことは「台菜(タイツァイ)」だ。このため、屋台料理を除いた台湾独特の家庭料理は「台菜」に分類される。
店名に「台菜」の文字を使った台北の食堂
一方で、西洋料理は「西餐」と呼ぶ。日本料理はそのまま「日本料理」だ。また、日本風にお酒が飲める居酒屋のこともそのまま「居酒屋(ジュージョウウー」と呼んだりする。
酒のつまみは「下酒菜」
台湾でもっとも飲まれているお酒といえばビール。公売の台湾啤酒(台湾ビール)が最も人気のブランドだが、最近では青島ビールや金燕ビールといった中国本土からの参入も目立つ。
食べるときは食べる、飲むときは飲む、というスタイルを貫く台湾人は「酒のツマミ」という概念が薄いのだが、それでも酒に合う料理、という言葉がある。「下酒菜(シャージョウツァイ)」だ。もし酒が飲める食堂を見つけて、ツマミに迷った場合は下酒菜と言ってみよう。
高雄鹽埕の『金温州餛飩大王』には缶ビールがあり、小皿のつまみも用意されていた
ちなみに、多くの日本人飲兵衛が好む台湾の豚モツ料理は「黒白切(ヘイバイチエ)」と言い、実にいろいろな場所で扱われている。粥を扱う朝ごはんの店、麺を扱う朝食や昼食の店、そして一般的な台湾料理を扱う食堂などだ。朝食や昼食にご飯物や麺物と一緒に黒白切を扱う店は酒を出さない。だが、夜遅く、夜市のそばでなど運営している小さな食堂では黒白切とビールという組み合わせを拝めることがある。
また、鴨肉やガチョウ肉を扱う店はたいていビールが置いてあるのだが、そんな店でも店頭に豚モツが並んでいることもある。見つけられたら運がいい。
台北艋舺の『龍城號』は看板料理以外のモツも美味。写真はコブクロ。ビールも常備
朝のお楽しみは「豆漿店」で
バラエティに富んだ朝ごはんが食べられる台湾を訪れたら、必ず体験してほしいのが「豆漿(ドウジャン)」、いわゆる豆乳だ。日本で豆乳と言うと白い飲み物のことだけを指すが、台湾では豆漿を扱う朝食店のことを総称して「豆漿店」と呼ぶ。豆漿というのは、いわば朝ごはんのカテゴリーのひとつとして確立されていると言っていい。
千切った揚げパン(油條)が入っている温かい豆漿
豆漿店は台湾中、至るところにあるので、無理に有名店で行列に並ばなくても、宿泊するホテルのそばにある豆漿を覗いてみることをお勧めする。地域に密着した、地元の人たちに親しまれている豆漿が見つかるかもしれない。
台北雙連朝市の人気店『世紀豆漿大王』
サンドイッチは「三明治」
豆漿と人気を二分する台湾の朝ごはんが、実はトーストやサンドイッチだ。通学や通勤の途中にパッと寄って食べたり、テイクアウトしたりできるので、その手軽さゆえにニーズが多い。パンは中国語で「麵包(ミェンバオ)」、サンドイッチは英語の発音からの当て字で「三明治(サンミンズ)」と言う。
新竹で食べたヘルシーなサンドイッチ
基隆名物、栄養三明治(サンドイッチ)
洋菓子(ケーキ類)は「蛋糕」
また、前回はスイーツのことを総称して甜品と呼ぶと書いたが、この中でも特に洋菓子のケーキ類については「蛋糕(ダンガオ)」という呼び方がある。蛋は卵という意味だ。確かに、洋菓子には卵が使われていることが多い。
辛いは「辣(ラー)」
食堂やレストランでオーダーするときにもうひとつ便利なのは「辣(ラー)」と言う言葉。台湾料理は総じて味付けが甘めだと言われているが、辛い料理も案外多い。料理をオーダーするときに、「要不要辣(ヤオブヤオラー)?」と聞かれることがよくある。台湾人は日本人よりも辛さに強いので、「一點點(イーデェンデェン)」と答えておくことをおすすめする。「少しだけ」という意味だ。
板橋の人気おでんの店では、お好みで特製辛味調味料(左上)をかけて食べる
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |