ブーツの国の街角で

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#89

ローマ:すべての厄を吹き飛ばせ!金色に輝くX’masライトアップツアー

文と写真・田島麻美

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人が動けば一気に感染拡大、人が止まれば経済が逼迫ー。新型コロナウイルスに思いきり翻弄され続けた2020年が、もうすぐ終わろうとしている。イタリアの感染状況は一時的に落ち着いているものの、このクリスマス休暇中の動き次第で更なる悪化が懸念されている。そのため、18日に新たな首相令が発表され、24日から1月6日までの期間は実質的なロックダウンが再び施行されることとなった。今春イタリアを直撃した新型コロナウイルスの感染爆発により、それまでの社会生活や価値観、果ては個々人の生き方まで、ありとあらゆる変化を余儀なくされたこの一年。まだまだこの騒ぎは当分続きそうな気配だが、連日飛び交う真偽ごちゃ混ぜの情報を追うだけの生活など、もうまっぴらごめん!という気持ちになってきた。この間の我と我が身を振り返ってみると、コロナ禍を生き抜く上で最も大切だと実感したのは「冷静さと思いやり」である。辛いこと、悲しいこと、不安なことが身の回りに溢れかえっている日常で、自分の心の拠り所を毎日模索しながらたどり着いた結論がそれだった。家族も友達も、こうして健康でクリスマスと新年を迎えられる。それこそが何よりも尊いものであるということを、この一年が教えてくれた。
クリスマス期間のロックダウンを前に、万感の思いを抱きながらローマの旧市街を歩いた。華やかで厳かな金色のイルミネーションに満たされたローマはやっぱり美しく、この一年の厄を洗い流してもらったような気分になった。世界中が不安と悲しみに包まれている今、ほんの一瞬の慰めにでもなればと願いつつ、ローマのX’masライトアップの数々をスポット別にご紹介したい。

 

 

Spot1 : サン・ピエトロ広場
 

毎年クリスマス・シーズンに登場するサン・ピエトロ広場の巨大ツリーとプレゼピオ。今年のツリーはスロヴェニアの古代の森からやってきた28メートルの大木。スロヴェニアでも最古といわれる古代の原始ブナ林がある森は、ユネスコの世界遺産リストにも登録されているという。深い森の奥から遠路はるばるサン・ピエトロ広場までやってきた木は、ローマの街に深遠な古代の森の癒しの息吹をもたらしてくれている。それはパンデミックで深く傷つき、苦しんでいる人々のために、ヴァチカンから発せられたメッセージでもあるように感じた。
 

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薄暮の中、ライトをまとった巨大ツリーが輝き始めた。ツリーの隣にはキリスト生誕のシーンを人形で再現したカトリックのクリスマスの飾り「プレゼピオ」も置かれている(上)。

 

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サン・ピエトロ広場の一角では、イタリア各地から集められたプレゼピオの展覧会も開かれている。

 

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『赤十字』のテントの下で身を寄せ合う聖家族のプレゼピオは今年のイタリアを象徴している(上)。誰もない広大なサン・ピエトロ広場に一人で佇み、復活祭のミサを行ったローマ法王の姿を再現したプレゼピオも印象的だった(下)。

 

 

 

Spot2 : スペイン広場&コンドッティ通り

 

サン・ピエトロ広場の次は、ローマ観光の中心であるスペイン広場へ。正面のスペイン階段には飾りは一切なく普段通りのライトアップなのだが、ここはローマ随一のブランド通りが交差する広場だけあり、有名ブランド各店がイルミネーションを競い合っている。ここに店舗を構える各ブランドショップのイルミネーションが凄い。カラフルな光の洪水とトリニタ・ディ・モンティのシンプルで清楚なライトアップが相乗効果をもたらし、独特の洗練された華やかさを演出しているのがこのエリアのイルミネーションの特徴だ。スペイン広場周辺の小さな通りもそれぞれに独自のテーマで個性を主張していて、路地を覗き見するのも楽しい。一流ブランドのブティックが軒を連ねるコンドッティ通りは、ブランドのセンスが光るウィンドーを見て歩くだけでも目の保養になった。

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スペイン階段とトリニタ・ディ・モンティは普段通りのシンプルなライトアップ。階段下のバビントンズ ティールームはキンキラキンの電飾で光っている。

 

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スペイン広場で今年一番目立っているのが「ディオール」のライトアップ。店先はまさに色とりどりの光の洪水(上)。一方、「ブルガリ」などイタリアン・ブランドの店頭はシックなゴールド一色。コンドッティ通り全体もゴールドのライトで統一されている(中)。コンドッティ通りとコルソ通りの交差点では、「フェンディ」本店のライトアップが一際豪華に輝いている(下)。

 

 

 

Spot3 : コルソ通り
 

ポポロ広場とヴェネツィア広場を結ぶローマの中心コルソ通りは、毎年クリスマス・イルミネーションの出来不出来が話題になるスポット。今年は通り全体をシックな金色のカーテンで包んだ。それだけでなく、所々に散りばめられたローマの街に関するフレーズの電飾がとてもユニークで、道行く人々も思わず足を止めていた。ローマ市民なら誰でも知っているこれらのフレーズは、今の状況とローマの街を重ね合わせながら読むと思わずグッとくるものばかり。例えば、古代ローマの詩人ホラティウスの名文「あなたはローマの街よりも偉大なものを見ることは決してできないだろう」とか、ポピュラーソングの『Grazie Roma』からの一節とか。光のカーテンを見上げながら歩く人たちのことを考え、真下で立ち止まって見上げるとこれらのフレーズが読めるという心憎い演出が施されている。
 

 

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ローマ最大のショッピング・ストリート、コンドッティ通りのイルミネーション。

 

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通りの随所に散りばめられたフレーズの数々。見上げながら読むとグッとくる。上は古代ローマ詩人ホラティウスの詩の一節、下はローマのポピュラーソング『Grazie Roma』の歌詞の一部。

 

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コルソ通り沿のコロンナ広場。イタリアの首相官邸キージ宮は今春からずっとこのイタリア国旗のライトアップに包まれている。

 

 

 

 

Spot4 : ヴェネツィア広場

 

コルソ通りを抜け、旧市街のへそであるヴェネツィア広場へ。「ローマのツリー=ヴェネツィア広場のツリー」なのだが、これが毎年賛否両論、市民のクリスマス休暇中の格好のネタにされるという運命を担っている。2017年には約5万ユーロもの大金を投じたにもかかわらず、見るも無惨な姿のツリーが登場したため市民が怒りを炸裂させ大問題となった。その時に名付けられた『スペラッキオ/Spelacchio』(むしり取られた、抜け落ちた、という意味)というニックネームは、その後ヴェネツィア広場のツリーの代名詞として認知されるようになり、以来、どんなに見事なツリーが登場してもローマ市民は愛情と皮肉を込めてヴェネツィア広場のツリーを「スペラッキオ」と呼び続けている。行政側のローマ市も負けておらず、今年は堂々と『スペラッキオ is Back!』というPR活動まで展開し、市民の手厳しい批判に挑戦状を叩きつけた。そんなこんなの歴史があるヴェネツィア広場だが、今年は本当に堂々とした立派なツリーが登場。キラキラ輝く黄金色のスペラッキオは、新しい年に向けたローマ市民の希望の象徴となっている。

 

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ローマ市が制作したPRビデオの最初に出てくるのが『Spelacchio is back!!』のこの映像。もはや行政も市民も自虐と愛情をもってスペラッキオを見守っている。

 

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今年のツリーは高さ23m、デコレーションはシンプルな金と赤、緑で統一。点灯式には「今年のスペラッキオに対する市民の声」を拾うのがもはや恒例となったローマのローカル紙によると、今年の市民の採点はかなり評価が高く、「10点中8点」という平均値が発表された。「10点満点!」と回答した市民も多くいたそうで、ツリーも「やれやれ」と胸を撫で下ろしていることだろう。

 

 

 

5 : コロッセオ

 

クリスマス・イルミネーション巡りの終点はコロッセオ。ヴェネツィア広場からフォロ・ロマーノを歩き、目指すコロッセオに到着して拍子抜けした。いつもならコロッセオ前の広場に大きなツリーが出ているのに、今年目にしたのは「メトロC線工事中」の看板。ずっと長い間、開通するすると言われながら一向に進展していなかったメトロC線の工事だが、ロックダウンや移動規制が敷かれて観光客がいなくなった今年は工事がスイスイ進んだ。コロッセオ駅の工事は難関中の難関だが、今年は災い転じて絶好のチャンスとなり、工事も着々と進行している。巨大ツリーは拝めなかったが、代わりにコロッセオの窓枠アーチ内にオリジナル彫刻の立体映像が浮かび上がるライトアップが登場。キラキラに飾らなくとも十分見応えのあるイルミネーションが楽しめた。
ローマ旧市街には上記以外にもナヴォーナ広場、ポポロ広場など各所でクリスマス・イルミネーションを展開している。Webカメラを設置した世界各地の観光スポットのライヴ映像が見られるアプリやサイトもたくさんあるので、それらを活用してぜひ今年のローマのイルミネーションを体験してみて欲しい。そして一人でも多くの人が、少しでも明るい気持ちで新しい年を迎えてくれることを、心の底から切に願っている。
 

 

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メトロC線の工事が進むコロッセオ前の広場。いつもならツリーが置かれる場所に、今年はクレーンがいた。コロッセオ前には「メトロC」がスポンサーとなっているちっちゃなツリーが申し訳なさそうに光っている。

 

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クリスマス・イルミネーションの代わりに目を引いたのがオリジナルのコロッセオに置かれていた窓枠の大理石像の3D映像。暗い夜空の中に浮かび上がる彫像はまるで本物のように見える。キラキラはなくてもそれだけで圧巻の美しさを誇るコロッセオの勇姿はさすが。

 

 

 

 

 

*次回は2021年3月掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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