旅する&恋する! 韓国ドラマ

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#65

韓流紀行〈13〉名場面の宝庫『マイ・ディア・ミスター』

文・康 熙奉(カン・ヒボン)

 

  これまで「韓流紀行」では、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』を二回取り上げているが、今回は三回目として書くことになった。それほど、このドラマは執筆意欲をかきたててくれる作品なのである。

 

 

製作者側の覚悟

 

 たくさんのドラマを見ても、放送が終わった途端に忘れてしまう作品がほとんどだ。その中でほんのわずかのドラマだけがいつまでも余韻が残り、各場面の残影に心が満たされ、人生のかけがえのない思い出になる。『マイ・ディア・ミスター』はそういう特別な気持ちを想起させてくれる物語だ。

 とはいえ、『マイ・ディア・ミスター』を最後まで見た人の中で、当初は第1話で一度は見なくなった、という例が多かった。実は、私もそうだった。序盤があんなに重い展開だと見続けるのが大変である。

 しかし、第3話くらいからグングン引き込まれていき、終盤になると生涯ベスト3と思えるようになった。

 何よりも、製作者側の覚悟が凄かった。普通は、続けて見てもらうために、とっつきやすい展開から始めるものなのに、『マイ・ディア・ミスター』は、見ていて一番辛いところから描いていた。

 視聴者に媚びることなく、自分たちが一番やりたいものを果敢に作っていた。迎合しない強さを気持ちよく痛感できた。

 そして、『マイ・ディア・ミスター』の冒頭の場面がとても象徴的だった。静かな職場に虫が紛れ込んで大騒ぎになる。しかし、IU が演じるジアンだけが蚊帳の外だ。まるで、彼女こそが異端者であるかのようだった。この場面で見せる誰もの不安が、やがて大きなうねりを生んできて最高のドラマが始まる。

 とはいえ、『マイ・ディア・ミスター』が韓国で放送された時に物議をかもしたのが、ジアンが闇金融のグァンイル(チャン・ギヨン)にひどく暴力を振るわれる場面だ。韓国で批判が多く、放送が終わった時まで問題視されていた。体格がいい男が小柄な女性を激しく殴るシーンは、倫理的に問題を残した。実際、序盤に視聴者が離れた理由の一つだった。私としては、あんな暴力シーンは見たくなかったが、終盤のグァンイルの変化の布石になっていたのは確かだ。

 本来なら、あそこまで暴力シーンを出さなくても良かったのだが、制作側は本当に作りたいドラマにこだわっていた。万人が見るために加減をしなければならないドラマというより、特定の人が見ればいいという映画のような制作スタイルだった。序盤の異様に重い展開も映画だと思えば納得できる。

 

名場面の宝庫

 

『マイ・ディア・ミスター』の登場人物にとことん感情移入してしまう。

 父が残した借金でどん底の生活を強いられてきたジアン(IU)は派遣社員を続けて障がい者の祖母を支えている。

 構造エンジニアのドンフン(イ・ソンギュン)は、大学時代のサークルの後輩だったジュニョン(キム・ヨンミン)が社長に昇格して社内で左遷させられていた。これは大変な屈辱であったが、ジアンと出会って生き返っていく。

 ドンフンの兄のサンフン(パク・ホサン)は事業に失敗し、弟のギフン(ソン・セビョク)は映画監督として成功できなかったが、一緒に清掃会社を始めて再スタートした。

 ユラ(クォン・ナラ)はギフンが監督を降ろされる原因となった役者だが、少しずつ自信を取り戻していく。

 ジョンヒ(オ・ナラ)は、仲間が集う居酒屋を切り盛りして寂しさに耐えていく。

 ドンフンの妻のユニ(イ・ジア)は、夫が一番嫌っているジュニョンと不倫におぼれていたが、立ち直りのきっかけを作り始めていた。

 こういう人たちは、それぞれに人生の深い哀しみを抱えているのだが、決して投げやりではなく、前を向いて必死に生きようとしていた。

 たとえば、オ・ナラが演じたジョンヒだ。20年前に愛する人が突然出家してからの絶望の日々をどう過ごしていたのか。常連客が盛り上がる中で、彼女は夜ごとに寂しさに打ちひしがれる。そんな彼女もやがては救いを見出していく。

 そういう意味でも、希望を見いだせるドラマだった。

 そして、『マイ・ディア・ミスター』は名場面の宝庫だが、一例を挙げると、イ・ソンギュンが演じるドンフンが常務昇格面接でジアンを弁護する場面は何度見てもジーンとくる。イ・ソンギュン が重厚に響く声で必死にジアンをかばうところは本当に感動的だった。

 

終盤がとてもいい

 

『マイ・ディア・ミスター』を見ていると、そのたびに発見がある。改めて注目したのは靴音だ。

 イ・ソンギュンが扮するドンフンが地元の街を歩く時、IUが演じるジアンが盗聴していて、そのときに靴音が続く。映像はドンフンの歩く姿を淡々と映していくが、ドンフンの寂しさも強く感じられて、とてもいい場面だ。

 こうした場面が次から次へと綴られていく『マイ・ディア・ミスター』は全16話だが、特に14話から16話の終盤がとてもいい。

 何度見ても、脚本の偉大さに圧倒され、劇的な演出に感動し、俳優の演技力に敬服する。人生において、このドラマに出逢ったことは、やっぱり奇跡だと思えてくる。最終話の余韻は、今も心を揺さぶってくれる。

 最後に、タイトルについて触れたい。原題は『私のおじさん』であり、邦題は『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』となっているが、邦題はドラマの内容と合っていないと感じている。

 個人的に『至安(ジアン)』がタイトルにいいと思っている。IU が演じたヒロインの名前だし、ドラマが、哀しみを抱えた登場人物たちが「安らぎに至っていく」という過程を描いているからだ。

 至安……とてもいい響きだ。このドラマを最後まで見ると、誰もが至安の心境になるのではないか。その心地よさが、素敵な登場人物が繰り広げたドラマを通して「記憶の贈り物」を残してくれるのである。

 

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