旅する&恋する! 韓国ドラマ
#48
韓流歴史紀行〈9〉政変の舞台となった徳寿宮
文と写真・康 熙奉(カン ヒボン)
現在の徳寿宮(トクスグン)は、ソウル市庁舎の斜め前にある。かつては慶運宮(キョンウングン)と呼ばれていた。入ってみると、王宮としては敷地が狭い。実は、かつての敷地は現在の3倍もあったのだが、植民地時代に分割されたうえに売却され、今のように狭くなってしまったのだ。
徳寿宮の正殿となる中和殿(チュンファジョン)
1623年の政変
慶運宮(現在の徳寿宮)はもともと、9代王・成宗(ソンジョン)が兄のために造った邸宅だった。
1592年、正宮の景福宮(キョンボックン)が豊臣軍との戦乱の中で焼失すると、近くにあったその邸宅が行宮(ヘングン/仮の王宮)となった。
この慶運宮が歴史的に重要なのは、15代王・光海君(クァンヘグン)が廃位になるときに、主要な舞台となったからだ。
話は1623年3月13日のことだ。
王族の綾陽君(ヌンヤングン)が率いたクーデター軍が王宮に入り込んだ。
綾陽君は光海君の甥だが、弟が光海君に殺されていた。あまりに優秀すぎて、王位を奪いかねないと警戒された結果だった。綾陽君は復讐を決意した。
彼は用意周到に準備を重ねて決起した。すでに内通者の協力を得ており、王宮の護衛兵たちも光海君に反旗を翻した。
光海君は捕らえられた。綾陽君は私憤によって政変を起こしたのだが、現実的には誰もが納得する大義名分を掲げる必要があった。
そこで、綾陽君は慶運宮に幽閉されていた仁穆(インモク)王后のもとに使者を送った。彼女から光海君の廃位を公式的に認めてもらうためだった。
徳寿宮の正門は大漢門(テハンムン)と呼ばれる
もともと仁穆王后は、光海君の父であった14代王・宣祖(ソンジョ)の晩年の正室だったが、王位継承問題がもつれて、息子を光海君によって殺害されていた。そして、自らも慶運宮に軟禁されたのだ。
仁穆王后にとって光海君は、この世に2人といない仇だった。
しかし、意外なことが起こった。仁穆王后が使者を叱り飛ばしたのだ。
復讐を果たした仁穆王后
慶運宮に仁穆王后の怒声が響き渡った。
「10年間も幽閉されていたのに、今まで誰も見舞いに来なかった。いまさら何のために、お前たちはのこのこやってきたのか」
使者は追い返された。
あわてて、綾陽君が慶運宮にやってきて、中庭でひれ伏した。
その真摯な姿に仁穆王后の怒りも解けた。
綾陽君は感極まって号泣した。そこへ仁穆王后が現れた。
正殿の前に建つ中和門(チュンファムン)
「泣くのをやめてください。大きな慶事を成し遂げたのになぜ泣くのですか」
そう声をかけた仁穆王后はさらに続けた。
「逆魁(ヨククェ/光海君のこと)は私の幼い息子を殺害して私を別宮に幽閉しました。まさか、今日のような日がくるとは、夢にも思いませんでした」
復讐を遂げた仁穆王后は、高揚感を抑えきれず、さらに続けた。
「私が直接、逆魁の首を斬り落としたい。10年間の幽閉生活を生きのびてこられたのは、ひとえにこのときを待っていたからです」
綾陽君に付き添っていた臣下が答えた。
「昔から追放された君主について、臣下の者たちがあえて刑罰を論じることはありませんでした。今まさに下された命令を受け入れることは難しいのですが……」
仁穆王后の表情が変わった。
中和殿は1904年の大火で焼失したが1906年に再建された
「私にはかならず晴らさなければならない怨みがあり、これだけは絶対に譲ることができないのです」
仁穆王后は執拗に光海君の斬首を主張した。しかし、廃位にした王をさらし首にすることだけは、綾陽君も絶対にできなかった。
落日の徳寿宮
辛抱強く綾陽君は仁穆王后を説得した。
最終的には仁穆王后が折れた。彼女は不本意ながら綾陽君の言うことに従った。
こうして光海君は斬首を免れて島流しとなった。
一方、綾陽君は光海君に代わって16代王・仁祖(インジョ)として即位した。クーデターを起こすまでは行動力が卓越していたのに、国王になってからの仁祖は失政続きであった。そういう意味では、朝鮮王朝にとって仁祖の即位は慶事ではない。
19世紀末に慶運宮は再び歴史の表舞台となる。
朝鮮王朝は国号を1897年に「大韓帝国」に改めたが、その皇帝即位式を行なったのが慶運宮であった。
しかし、大韓帝国は国力の衰退が激しかった。
慶運宮も王宮としての威厳を示すこともできず、1904年には大火に遇って主要な建物を焼失した。
敷地内では貴重な文化財も展示されている
不運続きを改めようとして、1907年に縁起がいい「徳寿宮」に改められた。しかし、名称だけを変えても、どうしようもなかった。
その末に、徳寿宮は植民地時代に敷地を大幅に削られてしまったのである。
*筆者・康 熙奉のプロフィール&近況はtwitterをご覧ください→https://twitter.com/kanghibong
*本連載は月2回配信(第1週&第3週木曜日)予定です。次回もお楽しみに!
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