料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#40
赤湯
文と写真・山本益博
赤湯温泉の宿「瀧波」
最高の温泉と豊かな味を味わう
TBSラジオの早朝人気番組「生島ヒロシのおはよう一直線」に、かれこれ15年以上「名店案内」で毎月レギュラー出演しています。今年の正月、生島ヒロシさんから直々に薦められたのが、赤湯温泉の宿「瀧波」でした。リニューアルして1年ほど、全室露天風呂で、料理もとても美味しいとのことでした。
ご紹介していただいて2か月ほどたった3月上旬、夫婦で出かけてゆきました。山形新幹線にはほとんど縁がなかったのですが、乗ってみると、東京―赤湯間はわずか2時間余りの旅でした。
「瀧波」は街の一番端の大きな敷地に建っていました。足を一歩踏み入れると、街の音は一切聞こえず別世界。1階の部屋には大きな石をくりぬいた露天風呂がついている、静寂にして、清潔な宿です。
夕方チェックインすると、16時30分からロビーで、山形名物「花笠踊り」の歓迎デモンストレーションがあり、さらに、そのあとカウンター席の食堂で、「そば打ち」の実演があります。見ているうちにお腹が空いてきて、一風呂浴びて、夕食となりました。
「花笠踊り」でお出迎え
全室露天風呂付き
妻の美穂子と
コの字型のカウンターでの食事は、従来の旅館の部屋出しと違い、料理は出来立てでサービスされるので、冷めることがありませんし、料理人さんの調理する姿が見られるので、料理が一層美味しく感じられます。
山形・置賜の地場の野菜を巧みに使いこなし、置賜豚や米沢牛を主菜に、米どころ山形の美味しいご飯で食事を盛り上げてくれました。この赤湯のある南陽市で米作り農家の黒澤信彦さんは、20年前に秋田県大潟村で開かれた「米作り日本一コンテスト」で優勝され、そのコンテストの審査委員のひとりだった私は、それがご縁で、黒澤さんが作る米を我が家でもいただいています。そのご飯をいただけて、なんとも嬉しくなりました。
そして、最後は夕方打ったそばで食事の締めくくりです。
賜豚と米沢牛のステーキ
打ち立てのそばで締めくくり
翌日の朝食もカウンターの食堂でいただきました。焼き魚に海苔に卵といった旅館定番の朝食でなく、焼き魚はこぶりな「めひかり」、ご飯は「つや姫」、自家製味噌の味噌汁は飛び切りの美味しさでした。
じつは、東京から早めの新幹線で来たため、昼食を赤湯のイタリア料理店で食べました。街道沿いにぽつんとあるトレーラーハウスのような可動式のレストランです。
その名を「IL LEGARE」。パスタランチをいただいたのですが、前菜のサラダからして出来合いの体裁だけのサラダと違い、野菜が生き生きとしかも美しく盛り付けられていました。カリフラワーのピューレで食べさせるそのサラダは目の覚めるような美味しさでした。鱈とからすみのスパゲッティも秀逸で、聞けば、オーナーシェフは、庄内・鶴岡の名店「アルケッチャーノ」で料理長を務めていた方でした。
みずみずしく美しいサラダ
鱈とからすみのスパゲッティ
「瀧波」に来たら、必ずまた出かけたいと思ったのが、ランチの後に訪れた「狸森焙煎所」という名の珈琲専門店です。赤湯の街中から車で30分走らせた現代版峠の茶屋風珈琲専門店。店内にはビートルズ、オードリー・ヘップバーンがコーヒーを飲む写真が飾られ、コーヒーを淹れる主人とサービスするマダムの粋でおしゃれな趣味を窺わせます。丁寧に淹れられたコーヒーをゆっくりと味わうひとときは至福の時間でした。
器も趣がある
コーヒーを楽しむ往年のスター写真
峠の茶屋風珈琲専門店
次回は、ベルギー・ゲントです。
*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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