料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#38
鳥取・余呉
文と写真・山本益博
鳥取「かに吉」から余呉「徳山鮓」へ
飛行機と列車を乗り継いだ贅沢な長旅
2018年10月、例年通り「ミシュラン京都・大阪2019」が出版されました。ただし、2019年版には「+鳥取」とついていて、今回のみ鳥取が加わりました。鳥取県庁が「ミシュラン」に陳情して、特別に「鳥取」篇をつけてもらったわけです。もちろん、お願いするだけではダメで、タダで実現できたわけでもありません。
この「ミシュラン京都・大阪+鳥取2019」で、鳥取の「かに吉」が2つ星に輝きました。(鳥取は3つ星なしで、2つ星が2軒のみ)この「TABILISTA」の第1回で「鳥取」を取り上げ、「かに吉」をご紹介しましたが、その時には夢にも思わなかったことで、これまで陽の当らなかった店に星の光を当ててくださった「ミシュラン」を褒めてさしあげたい、そして何より、鳥取県庁の平井知事に感謝です。
「ミシュラン」の2つ星の定義は「遠回りしてでも出かける値打ちのある料理」ということです。蟹は、東京から京都へ出かけて食べるより、遠回りしてでも鳥取でいただきなさいという訳です。
ミシュラン2つ星に輝く
「かに吉」この3年で随分と進化しました。親蟹と呼ばれる雌の蟹の身を自分でほぐし、用意された酢飯に自ら盛り付けて作る「かに寿し」は、とても美味しい一皿です。さらに、トーストしたパンに蟹の身を挟んだ「クラブハウスサンドイッチ」は、「CLUB」と「CRAB」をかけた遊び心満載の逸品です。
松葉がに
かに寿し
クラブハウスサンドイッチ
「ミシュラン」では「蟹みそ」「焦げていない焼き蟹」「雑炊」が特記されていますが、それらは「かに吉」の蟹料理のスペシャリテです。東京、関西で蟹を召し上がって満足されている方、一度、鳥取まで足を運んでみてくださいまし。今まで食べてきた蟹は何だったのだろうか、と必ず思うはずです。
蟹みそ
焼き蟹
「魂炊」と呼ぶ雑炊
ご主人と一緒に
鳥取へは東京から全日空で日帰りできるほど便利ですが、せっかくなら泊りがけで出かけることをお薦めします。このところの定宿は、鳥取駅からほど近い、そして「かに吉」にも歩いていける距離にある「ホテルグリーンモリス」です。安全・清潔、格安で泊まることができます。
鳥取グリーンホテルモーリスの外観
翌日は鳥取を朝早く出て、岡山で特急から新幹線に乗り換え、米原を経由して在来線で余呉まで、「徳山鮓」の熊鍋を食べに出かけました。「徳山鮓」は鮒ずしの名店ですが、夏は鰻、冬は熊鍋が名物。前菜は鹿、猪のテリーヌから始まり、続いて、目の前の鏡湖で釣れたわかさぎの天ぷら。
鹿、猪のテリーヌ
わかさぎの天ぷら
そして、お待ちかねの熊鍋です。しゃぶしゃぶにすると、ロースの脂身がたちまち溶けて、香り高く甘みの優しい肉に変身します。
いままで、前菜の次に出ていた名物鮒ずしが、今回は鍋のあとに出て、効果的でした。そして、最後は雑炊で締めです。
熊鍋
香り高く甘みの優しい熊肉
名物鮒ずし
「徳山鮓」玄関
東京―鳥取―余呉―東京と飛行機と列車を乗り継いだ長旅でしたが、なんとも贅沢な「蟹熊倶楽部」となりました。
次回は、パリです。
*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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