アジアは今日も薄曇り

アジアは今日も薄曇り

#35

沖縄の離島、路線バスの旅〈24〉粟国島(2)

文と写真・下川裕治 

■粟国島のコミュニティーバス「アニー号」

 

 粟国島のコミュニティーバスは、マイクロバスがやっと通ることができるほどの道をゆっくり進んでいく。道は入り組んでいるが、乗ってさえいれば、全路線を乗りつぶすことができる。

 いや、気になる路線がひとつ。

 村役場をすぎ、小中学校前というバス停から老人ホームに向かう途中、運転手さんに訊いてみた。

「別の時刻表を見ると、老人ホームから先の空港までバスは走っていることになってるんですが」

「空港? いま飛行機は飛んでいないから、空港へは行きません」

 ほっとした。というのも、空港行きの路線は飛行機の時刻に接続するようになっていた。この路線を乗りつぶすと、1日1便のフェリーに間に合わなくなってしまうのだ。つまり粟国島に2泊を強いられてしまう。

 しかしもし飛行機が飛んでいたら、あのフェリーの揺れを避けることができた。いや、運賃が高いから、結局フェリーにしていたか……。

 運転手さんの話では、かつて飛行機が運行していたが、ちょっとした事故が起きてしまい、運休が続いているという。

「一時、粟国島も観光客が増えたからね。沖縄ブームで。ここは映画の『ナビィの恋』のロケ地でしょ。ロケ地巡りの人がたくさんきた。その頃だったんじゃないかな、飛行機が飛びはじめたのは。でもブームも終わってしまったからね」

 ちょっと耳に痛かった。『ナビィの恋』、NHKの連続ドラマ『ちゅらさん』、そして僕らがつくった書籍『沖縄オバァ烈伝』が、沖縄ブームを牽引したといわれていた。しかしブームというものはやがて勢いを失っていく。そのなかで目にしなくてはいけないものがある。

 バスはほどなくして、浜コミュニティーに戻った。これで粟国島の路線バスを乗り切ったことになる。いや、沖縄の全離島のバスを乗りつぶしたわけだ。実際は乗り残しも少しあったが。

 だからというわけではないが、達成感はそれほどない。

 

これがコミュニティーバス。乗客は最後まで僕らだけだった

 

 夕方、『ナビィの恋』のロケ地に行ってみた。粟国島の集落は、西、東、浜にわかれていた。ロケ地はさらにその東側だった。

『ナビィの恋』は粟国島のさまざまな場所でロケをしているが、そのなかでも有名な場所はラストシーンだろうか。ナビィ(平良とみ)がサンラーと一緒に小舟で船出する場面である。

 その撮影が行われた浜には、木製の遊歩道がつくられていた。ロケ地全体をぐるっと散策するように眺める設計だった。しかしその遊歩道は半分以上が草に覆われ、歩くこともできなかった。観光客がほとんどいないのだろう。島にしても、整備する必要がなくなってしまったようだ。

 粟国島はブームの前の静かな島に戻っていた。

 泊まった民宿は港に近かったが、周囲に夕飯を出す店は1軒もなかった。夜道を20分ほど歩き、村役場に近い店に入った。半屋外のような店で、満月がよく見えた。その日は中秋だった。

 暗い夜道を心地いい風に吹かれながら宿への道を歩いた。

「暗い……」

 見あげると街灯がなかった。しかし歩道に沿ってフットライトがついていた。

 ラオスのルアンパバーンを思い出した。夜空の星をよりクリアーに見えるようにという工夫だった。フランス人のアイデアだと聞いた。それを粟国島の人は知ったのだろうか。

 この晩は満月で目視できる星の数は少なかったが。

 島の空気が心地よかった。

 翌日のフェリーで那覇に戻ることにしていた。出港は午後2時10分だった。その前に昼食をとろうと思った。港の近くにそば屋が1軒あった。そこへ行くと休業。集落の売店に向かったのだが、弁当売り場にはなにもなかった。

「大丈夫。もうじき、那覇からのフェリーが着く。たっぷり弁当を運んでくるから。急いでとりにいってくるね」

 その笑顔に、僕らがそのフェリーで那覇に向かうことはいえなかった。

「那覇に向かう前に、那覇から届いた弁当か……」

 それも粟国島らしい話かもしれなかった。

 ほどなくしてして店に並んだ弁当は、一律390円だった。

 

那覇から届いた弁当。アジクーター(味が濃い)の沖縄弁当

 

僕らが最後に弁当を買った売店とその周囲を。フクギ並木の道です

 

 

(終)

 

  ●双葉文庫『台湾の秘湯迷走旅』好評発売中!

発行:双葉社 定価:本体780円+税  

 

RW20J0126カバー表1書影   

 

好評発売中!

『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』

発行:双葉社 定価:本体657円+税  

東南アジア全鉄道2書影

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!  

 

   

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

関連タグ:, , ,

アジアは今日も薄曇り
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー