アジアは今日も薄曇り

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#34

沖縄の離島、路線バスの旅〈23〉粟国島(1)

文と写真・下川裕治 

■離島路線バスの旅。最後の島、粟国島へ  

 

 久米島からはじまった沖縄の離島旅。小さな島々を走る路線バスにすべて乗るという企画は、7ヵ月もかかるという長丁場になってしまった。理由は新型コロナウイルスの感染拡大だった。何回か沖縄行きは中断され、ようやく最後の島まで辿り着いた。

 粟国島──。

 来島中止が最後まで続いた島だった。粟国島は沖縄本島からフェリーで2時間と少し。そう遠くないのだが、島を訪れる観光客は少なかった。コロナ禍での来島中止や自粛は、その島の離島度のようなものを反映していた。人口が少なければ、医療機関も脆弱になってしまう。観光客が少なければ、来島中止を打ち出しても、島の産業に大きな影響は与えない。そんななかで、栗間島は、最後に渡航が許された島になった。

 これまでの何回か「とまりん」と呼ばれる泊ふ頭旅客ターミナルから船に乗った。座間味島に向かったとき、粟国島へのフェリーの切符売り場には、「来島中止」と書かれていた。その貼り紙が消えた。ようやく切符を買うことができた。粟国島は往復6590円だった。

 天気はよかった。しかし風は強い。海が荒れることで知られる伊平屋島へのフェリーは、幸運にもそれほど揺れなかった。海の神が微笑んでくれたわけだが、その笑みが粟国島へのフェリーにも……と西の空を見あげる。

 しかし海の神はそこまで僕らのことに気を遣ってはくれなかった。那覇港を出港したフェリーは、ほどなくして上下左右に揺れはじめた。

 きつかった。

 今回の旅で何回かフェリーに乗った。与那国島から石垣島に戻るフェリーも揺れたが、その比ではなかった。カーペットの上に体を横たえ、ただ耐えるしかない。トイレに走るところまではいかなかったが、内臓がひっくり返ったような感じで、フェリーが粟国港に着いたことがわかっても、しばらく体を起こすことができなかった。

 いつまでも船内に留まっているわけにもいかず、よろよろと船を降り、切符売り場の前にあったベンチで休むしかなかった。それから30分、40分……。内臓がもとの位置に収まってくれるのを待つような感覚。こんな船酔いははじめてだった。嵐が去るのを待つような心境だった。

 

粟国島に向けて「とまりん」をフェリーが出港する。揺れないでほしい……と神に祈る時間

 

粟国島に向かうフェリーの船内。椅子席もあるが、船酔い対策にはこの雑魚寝スペースがいい

 

 粟国島の路線バスはコミュニティーバスと呼ばれていた。「アニー号」という愛称もついていた。運賃は100円。通常の路線バスというより、行政が住民サービスのために運行するバスだった。

 バス停は港からの坂道をあがったところにあった。浜コミュニティーという名前がついていた。

 しばらく待つと、マイクロバス型のコミュニティーバスがやってきた。伊平屋島と同じサイズ。離島の離島といった世界になると、このサイズになるようだった。

 話好きの運転手さんだった。島には2種類の公共の交通機関があった。ひとつはこのコミュニティーバス、そしてもうひとつは呼べばきてくれるオンデマンドタクシーだった。それをふたりの運転手が交代で担当しているという。つまり島の交通機関は、ふたりの運転手に支えられているわけだ。

 といっても島の人たちの主な交通機関は軽トラである。学校も中学までしかないから学生はバスを利用しない。となると、車の運転が難しくなった老人のためだけにバスとタクシーを運行させているといってもいい。

 その日も乗客は僕らだけだった。

 粟国島のコミュニティーバスの路線図を見たとき、一瞬、身構えてしまった。かなり複雑というより、盲腸路線が多いのだ。ひとつのバス停まで行き、同じ道を戻って幹線に出ることを繰り返している。

 この盲腸路線では、宮古島で苦労した。その短い区間を乗りつぶすために、すでに乗り終えた路線を再度、乗らなくてはならなかった。盲腸路線は通勤・通学客へのサービスで、早朝や夕方に走ることが多かった。これも厄介だった。

 その記憶が一気に蘇ってきたのだが、粟国島のコミュニティーバスの運行スケジュールを見て、胸をなでおろした。

 すべて1台のコミュニティーバスでまわるののだ。小さな集落への細い道を進み、まだ同じ道を戻ってくる。それを繰り返しながら、島内の人家のあるエリアをまわるわけだ。つまり僕らにしたら、ただ乗っていればいいことになる。これは楽だった。

 しかし気になる区間があった。路線図を見てほしい。老人ホームで路線は止まっているが、その先に向かう時刻表もあった。

 これはすべての便が運行するわけではない。また不安が広がった。 

 

粟国港に着いた。これまで目にした港のターミナルのなかでいちばん小振り?

 

 

 (次回に続く)

 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!  

 

   

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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