料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#30
ニューヨーク2018(前編)
文と写真・山本益博
恒例のメトロポリタンオペラツアー
毎年恒例のニューヨークオペラツアーです。昼はレストラン巡り、夜はオペラ三昧の1週間、仲間を誘って夫婦で出かけてきました。
今回のオペラの目玉は、プッチーニの「トスカ」。タイトルロール(表題役)のトスカを当代一のソプラノ、アンナ・ネトレプコが歌う話題の舞台です。そのほか、ヴェルディの「ルイザ・ミラー」マスネの「サンドリオン(シンデレラ)」グノーの「ロミオとジュリエット」の3演目を楽しみました。
その「ルイザ・ミラー」を観たときのことです。メトロポリタン歌劇場の総支配人ピーター・ゲルブさんからご招待を受けたボックスシートに座って開演を待っていたのですが、場内が暗くなってから私の席の隣に現れたのは、なんと三大テノールで一世を風靡したプラシド・ドミンゴでした。今シーズンのプログラムでは、「ルイザ・ミラー」に父親役で出演し、「ロミオとジュリエット」では指揮をすることになっています。「ルイザ・ミラー」はダブルキャストでしたので、ボックスシートに現れたわけです。
舞台半分で、気になるドミンゴをチラチラ見ていると、右手で拍子をとりながら、楽しそうに舞台を観ていました。こちらもこんな楽しいオペラ見物はありません。家内の美穂子はドミンゴとのツーショットにご機嫌でした。もちろん、ネトレプコの「トスカ」は、メトならではの壮麗な舞台装置が目を見張り、カーテンコールは喝采の嵐でした。
メトロポリタン歌劇場
ヴェルディの「ルイザ・ミラー」
プッチーニの「トスカ」
ドミンゴ氏と家内の美穂子
ニューヨークのレストランは、夜のみ営業という店も多く、今回是非とも出掛けたい「シェフズテーブルアットブルックリンフェア」もその1軒。
1日だけ夜のオペラを休んで訪れました。以前は、ブルックリンにあったのですが、1昨年、マンハッタンに移転しました。ブルックリンの店での感動をもう一度というわけです。カウンター形式のレストランで、お客が真剣に料理と向き合う、ニューヨークにしては極めて珍しいレストランです。築地から取り寄せた魚介を巧みに皿に盛り付けます。今ニューヨークでもっとも人気の高い1軒といって間違いありません。
もう1軒、オペラの前に出掛けたのが、グリニッジヴィレッジにある牡蛎専門店の「Zadie’s」。5時から7時まではハッピーアワーで、各種の牡蛎が半額で食べられます。オペラが夜8時開演の時にはうってつけと言うわけです。6種類の牡蛎をニューヨーク州の白ワインと合わせて一人1ダースずついただきました。どれも日本の牡蛎より小粒ながら、ヨードの味がするものでした。
ホテルは、いつもの「Hudson」。メトロポリタン歌劇場まで歩いて5分の絶好の場所にある宿です。オペラを観たあと、そぞろ歩きで戻るにもほどよい距離なんですね。昼は、セントラルパークの南端、コロンバスサークルまで2、3分で、買い物にも食事にも便利極まりないところです。
次回は「ニューヨーク(後編)」です。
三つ星レストラン「シェフズテーブルアットブルックリンフェア」
牡蛎専門店の「Zadie’s Oyster Room」
6種類の見事な牡蠣
*この連載は毎月25日に更新です。次回はニューヨーク後編です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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