料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#13
名古屋
名古屋の印象がまったく違う
至福の時間を過ごす
■予約の取れないあんこう鍋の店へ
私は年に何度も名古屋に仕事で出かけることがあるのですが、夫婦ではいつも通過地点になってしまいます。岐阜へ鮎を食べにゆく、伊勢神宮へ詣でる、下呂の温泉を楽しみに出かける、そんなときでも名古屋は素通りしてしまいます。
今回、初めて夫婦で名古屋を目指したのには理由がありました。念願の「あんこう鍋」の店「得仙」の席が取れたからです。いまから6,7年前の11月、作曲家の三枝成彰さんからのお誘いで「得仙」を訪れ、林真理子さん、秋元康さんと鍋を囲みました。期待を大きく上回る、予想を遥かに超えた「あんこう鍋」に感動したのでした。ところが、次の予約は1年先まで一杯で、「召し上がられたお客様が来年の予約をその場でされるので、空きが全くございません」というのが女将のお答えでした。
東京へ戻って、家内に話をすると、機会があったら食べに出かけたいと言われましたが、理由を言って諦めてもらいました。そこへ、今年の9月、朗報が飛び込んできたのでした。名古屋の食いしん坊から、12月某日、2席空きができました、とのこと。早速、それに予定を合わせて出かけたという次第。
「得仙」の「あんこう鍋」は、蓋を開けてびっくり、出汁が真っ黒です。そこへ、まず伊勢海老と牡蠣を入れ、それをいただいてから鮟鱇の出番です。鮟鱇は捨てるところがないと言われますが、身より皮とか内臓が「いと美味し」で、それらをあん肝を溶いたつゆでいただき、締めはお雑炊です。いくら食べても飽きることがなく、とりわけコラーゲンたっぷりの鮟鱇の部位に妻はご機嫌、至極満悦でした。
その夜の宿泊は、名古屋駅すぐ近くの「三井ガーデンホテル名古屋プレミア」を取りました。この秋オープンしたてのホテルで、清潔感はピカ一、21階から天空からの眺めは、夜も朝も目を瞠るものがありました。バスルームにはオーガニックのシャンプーなどが揃っていて、配慮が行き届いています。夫婦で泊まるにはうってつけのホテルではないでしょうか。
さて、翌日は昔から私の贔屓のそばの「春風荘」へ出かけました。関東の名店で修業されたご主人鈴木さんが打つそばに魅せられて、名古屋へやってくるたびに、ここばかり通った一時期がありました。そこへそば好きの妻を案内しようというもの。もちろん、昨夜同じ鍋を囲んだ名古屋の食いしん坊と一緒です。
まず、そば味噌、焼き牡蠣、玉子焼きなどを注文して、須田静華の杯で一献です。さらに、2種のそばがき。すべての料理にひと工夫がされていて、昼から酒が進んで止まりません。
そうして、そばは「もり」と「にしんそば」をいただきました。名古屋と言えば「味噌煮込みうどん」や「きしめん」が有名ですが、私の一押しは「春風荘」です。場所は「ポケモンGO」の聖地として有名になった鶴舞公園近く七本松にあります。
さて、この後は菓子屋巡りです。まずは昭和区阿由知通にある「つくは祢屋」。ここの「そぶくめ」という蓮根や蕨のでんぷんで作った素朴な菓子が私のお気に入りで、それをお土産に買いました。その足で、次は中区錦3丁目にある「茶香 丸源」へ。ここでは、「つくは祢屋」同様、名菓「川口屋」のお菓子がお茶を飲みながらいただくことができます。
12月の菓子「木枯らし」をいただき、そのあとそのまま歩いて行ける「川口屋」で「わらびもち」を買い求めました。
夕方の新幹線で東京へ戻り、その夜、我が家で「わらびもち」をいただくと、その美味しさは飛び切りでした。
駅まで送ってくださった友に「名古屋の印象が全く違ってきました」というのが妻の別れの挨拶で、美味しいものの力は偉大であることを改めて感じた名古屋の1泊2食の旅でした。
■「得仙」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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まずは伊勢海老と牡蠣をいただく | コラーゲンたっぷりのあんこう鍋 | あん肝をといたつゆ |
■「三井ガーデンホテル名古屋プレミア」
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2016年9月オープン |
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天井が高くゆったりしたロビー | 落ち着いた雰囲気の客室 |
■「春風荘」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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お酒がすすむ肴 | 素材を活かした焼き牡蠣 | にしんそば |
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ご主人と名古屋在住のコピーライター近藤マリコさんと |
■「つくは祢屋」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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江戸時代天明期創業の老舗 | 名古屋の名物「そぶくめ」 |
■「茶香 丸源」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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「茶香 丸源」にて、妻美穂子と |
■「川口屋」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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師走の和菓子の詰め合わせ |
*この連載は毎月25日に更新です。次回は「ニューヨーク」へ。