台湾の人情食堂

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#121

「台湾ロス」の皆さんへ〈12〉忘れられない旅 馬祖編(5)

文・光瀬憲子

 台湾の離島であり、もっとも中国に近い馬祖の旅を振り返るシリーズ。最終回は、今はのどかな軍事基地と兵隊さんたちの暮らしを見てみよう。

 

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馬祖には軍人が多いが、ものものしさはあまり感じられない

 

軍人の島の実態 

 台湾の青年たちには、高校を卒業すると苦痛の2年間が待っている。現在は任意になっているが、兵役は長年にわたり若い男子の避けて通れない道だった。

 若者たちは台湾全土に派遣され、行き先は選べない。そんななか、「金馬賞」と呼ばれたのが金門島と馬祖島への派遣だ。中華圏を代表する映画賞の「金馬賞」とかけて、「誰々は金馬賞を獲った」などと冗談を言われるが、中国大陸にもっとも近いこの2島への派遣は、若者たちにもっとも恐れられていた。

 しかし、私のような旅行者が実際に馬祖へ渡ってみると、軍人の姿は見られるものの、緊迫した雰囲気は感じられず、馬祖島の兵役男子たちはむしろ台湾本島の若者よりものんびり過ごしているように見えた。

 

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船に乗り込もうとする迷彩服の若い軍人たち

九份から馬祖へ 

 

 兵役時代を馬祖で過ごし、そのままこの地に住み着いたという男性と知り合った。彼は九份の出身だが、兵役時代に馬祖で暮らし、のんびりとした島の風景に故郷の九份を重ねたという。

 

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九份を思わせる南竿の仁愛村。男性はこの風景に魅せられ、定住を決めた

 

 そう言われれば、馬祖の南竿にある仁愛村は、石畳の階段や古びた店が軒を連ねる坂道がどこか九份に似ている。男性は、ゆったりと時間が流れる馬祖に定住することに抵抗を感じなかったそうだ。兵役時代は規則正しい生活を余儀なくされるが、それでも休日は海風を満喫しながら羽根をのばせる。

 

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仁愛村の港へ続く通り。軒先では老人たちが雑談し、坂道では子どもたちが走り回る

 

 男性は、この仁愛村にあるかき揚げスナックが大好物。台湾本島では蚵嗲(オーディエ)と呼ばれるこのかき揚げは、ふつうは中に牡蠣が入っているが、馬祖では食べざかりの兵役男子のためにたっぷりの豚肉が入っている。

 

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仁愛村の名物おやつ。たっぷりの豚肉や春雨などの具に衣を付けて揚げたもの

 

 そのすぐそばには、夏の間冷たいデザートやシェークを出す店もある。男性は兵役時代からこの店の緑豆シェークが大好きだという。私も飲んでみたが、甘さが自然で毎日でも飲めそうだった。

 甘いものの好きな台湾男子は、恥ずかしがることなく豆花やシェークといった台湾伝統スイーツを口にする。兵役男子たちが迷彩服でアイスクリームに群がる姿はなんともかわいらしく、彼らが軍人であることなど忘れてしまうほどだ。男性は今でもスイーツ店の女将と親しげに世間話をする。兵役当初からかれこれ十数年馬祖にいる彼は、今やすっかり島の人だ。

 

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兵役男子行きつけのスイーツ店では、夏の間、アイスクリームやシェークが人気を集める。写真のシェークは左が緑豆、右がピーナッツ

 

 馬祖に駐屯する兵隊たちは長い休暇のときにしか本島に帰ることができない。飛行機は馬祖と本島を1時間足らずで結んでいるが、10時間かかる船の場合は軍人特別割引が適用される。このため、軍関係者や兵役男子たちは皆、船で本島へ帰省する。ただ、中国本土と台湾の間に緊張が走り、万が一ミサイルが発射されても馬祖を飛び越えてしまうため、金門島や馬祖に実質的な防衛機能はほとんどないと言われている。

 

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海を望む大砲はもう使われていない。こうした軍事基地としての遺産は島のところどころに見られる

 

 基地としての遺跡を残しつつ、平和な海を見守る島、馬祖。観光地として栄えてほしいと思う一方で、素朴で自由な風景でいつまでも旅人を癒やし続けてほしいと願う。

 

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渡航が自由化されたら、台北の下町・艋舺(萬華)とともに真っ先に再訪したい馬祖

 

 

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大きく5つの島から成る馬祖。島から島への移動は船なので、帰りの便に気をつけないと宿まで帰れなくなる

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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