韓国の旅と酒場とグルメ横丁
#114
「韓国ロス」のみなさんへ〈9〉
暦の上ではとっくに立秋を過ぎているのだが、ここ数日ソウルは体感温度が33度くらいある。まだまだ暑いのだが、台風の接近によって風が吹き、わずかながら秋の匂いも感じられる。
これから涼しく過ごしやすくなるとはいえ、夏が去る気配を見せるとやはりさびしい。
今回は2010年から2013年に撮った写真を見ながら、夏を惜しみたいと思う。
2010年、夏、慶尚北道
慶尚北道の龍宮駅に降り立つ筆者。このあと、回龍浦マウル→尚州→金泉を巡った
同じ日の夕刻訪れた歴史のある酒場「三江酒幕」(回龍浦マウル)と、そこで供されたマッコリ
もう10年も前か……と、ためいきが出るが、拙著『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』(双葉文庫)の取材時の写真である。口絵にも使ったので覚えている方がいるかもれしれない。
駅のホームからホームへ渡るとき、地下や上階を通るのではなく、この写真のように線路を踏んでいくと、ソウルから遠く離れたところに来たという感じがする。このあたりは日本の人にも共通する情緒ではないだろうか。
この取材では、ソウルや釜山だけでなく、写真の慶尚北道、忠清南道の薪斗里海岸砂丘や忠清北道の忠州、全羅北道の全州や全羅南道の木浦など広範囲な取材をした。
当時は韓日関係も比較的良好で、KARAや少女時代をはじめとするガールズグループが日本でブレイクした年でもあった。
あれから10年。最近ソウルで知り合うマスコミ関係の20代日本女性の多くが、「ガールズグループにハマって韓国留学や就職を決意した」と言っているので感慨深いものがある。
なお、東日本大震災が起きたのはこの本が出た翌々月である。
2012年、初夏、全羅南道
霊岩の名もない大衆食堂で女将や常連と昼酒を楽しむ筆者(右奥)。この写真は『韓国酒場紀行』(実業之日本社)のオビにも使われた
上の写真は韓国文化誌『スッカラ』(休刊中)から依頼された地方旅行取材のとき撮ったものだ。KTXで全羅南道の羅州まで南下し、そのあと霊岩、木浦を巡り、木浦から船で黒山島→飛禽島を回って再び木浦に戻り、最後に半島最南端の地・海南を訪れたと記憶している。
楽し気な乾杯の様子からもわかるように、この頃から筆者の取材対象は大衆酒場がメインとなっていく。「韓国の最大の観光資源は韓国人そのもの」と言い続けてきたが、酒場で庶民の息吹にふれ続けたことで、さらにその思いを強くした。
昼酒を楽しんでいる途中、店の外にあるトイレに向かおうとすると、脇の田んぼからカエルの合唱が聞こえてきた。それは大変な大音量で、年末の「第九」のような迫力だったと言えば伝わるだろうか。酔いも手伝って忘れられない旅の音のひとつである。
カエルの『第九』が聞こえてきた霊岩の田んぼ。この写真を見てもまったくピンとこないが、この地では2010年から2013年までF1グランプリが4回開催された
2013年、初夏、光州
光州は、ソン・ガンホ主演の映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』などで描かれた民主化運動のイメージが強過ぎて、他の観光資源が脚光を浴びにくいところである。
しかし、光州は全羅南道を除く他の地方都市と比べ政治的に不遇で開発が遅れたため、昔の町並みが残っているところが多く、目的もなくぶらぶらするのが楽しい町だ。
混み合う前の光州の屋台街。「サランバン(舎廊房=離れ)」「マドンナ」といった屋号の野暮ったさも地方の魅力
上の写真は光州郷校の近くの屋台街。時刻は夜7時を回ったころ。まだ客の姿もまばらで、屋台の女将も表情が険しい。露骨にカメラを向けると、ギロッとにらまれたりする。
そんなときは、その店に入ってしまったほうがいい。このときもそうしたのだが、「ごめんなさい。雰囲気がいいので記念に撮ったんです」と言えば、たいていの女将は破顔する。そのあとは和やかな酒宴となるだろう。
(つづく)
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日本の韓国リピーターさんが半年以上ごぶさたしている韓国大衆酒場の今を現地から伝えます。とくに人間観察が楽しい鍾路3街や乙支路3~4街にスポットを当てる予定です。お申し込みは下記のサイトから。
https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/ebc659a6-9b23-0e70-836e-5f19251c767e
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*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でご覧いただけます。
*本連載は月2回配信(第1週&第3週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!
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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7 |
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