台湾の人情食堂
#111
「台湾ロス」のみなさんへ〈7〉
文・光瀬憲子
新刊『台湾一周!! 途中下車、美味しい旅』(双葉文庫)の取材写真を通して旅気分を味わっていただくシリーズ。ゴールは一周旅行のスタート時、成田発のタイガーエアで降り立った高雄の街。旅の終わりにふさわしい、レトロおしゃれな街・鹽埕(イェンチェン)を歩いてみた。
市場にもレトロモダンの風が吹く鹽埕の町
帰国前夜、高雄の下町で
高雄は台北からの高鐵(台湾新幹線)の終点でもあるが、高鐵の左營駅と在来線の高雄駅は少々離れている。
リニューアルされた高尾駅構内
2008年に市内の地下鉄が開通してから一気に近代化が進んだ高雄は、新しい建築物や施設が目立ち、こざっぱりとしている。都市としては台北よりも伸びしろがあるのだが、行き交う人々の歩調がゆるやかで、旅人をリラックスさせてくれる。
お高くとまってはいないのだが、どこか品のある鹽埕の商店街
そんな高雄にも人のにおいのする下町はある。
台北の艋舺(万華)に匹敵する歴史を持つ町並み、鹽埕だ。艋舺に比べるとあか抜けして、どこか横浜や神戸を思わせるのは、やはり高雄が台湾一の港町だからだろう。かつて高雄には舶来品があふれ、アメリカ兵たちが台湾女性と腕を組んで歩き、バーを賑わせた時代もあった。鹽埕にズラリと並ぶ看板やネオンを見ながら、当時の街の賑わいを想像するのはとても楽しい。
鹽埕のカフェ『松藝』で
レトロな町並みが可愛らしい鹽埕には、おしゃれなカフェも似合う。打ちっぱなしのコンクリートに真っ白な壁と木目調のカウンターを合わせたシンプルな店内でいただくのはタピオカティー。
ただのミルクティーではなく、プーアール茶や烏龍茶など、深みのある茶葉を使った、鹽埕にぴったりの大人な風味で、タピオカティーの新境地を体験できる。
鹽埕の五福四路沿いにあるバー『藍世界啤酒屋』
一杯やりながら7泊8日の旅の余韻に浸りたいとショットバーを訪れた。長いカウンターの後ろには、大柄なマスターがひとり。高雄では古株のバーだ。あちこち傷のあるカウンターやクッションのハイチェアがこの町に似つかわしい。オーセンティックバーのような凛とした雰囲気も残しつつ、地元のスナックのようなゆるさもある。マスターと他愛ないおしゃべりをしたり、カウンターの隅で小説でも読んだりしながらウィスキーをすするのが似合う大人になりたいなあと思う。人生も折り返し地点を過ぎたのに、その境地にはなかなか到達できないのだが。
油條は台湾朝ごはんの定番
高雄から出発した台湾一周の旅を終え、日本に帰国する朝、朝ごはんを求めて街を歩いた。高雄で人気の豆漿(豆乳)店にはもうチラホラと客がいる。
シュッと背筋を伸ばして整列しているように見えるのが油條(ヨウテャオ)だ。豆漿にも、焼餅にも、そしてもち米のおにぎりにも合う不思議な揚げパン。甘いピーナッツ汁粉との相性も抜群だ。賞味期限が短いので、どの豆漿店でも手作りしており、それが店の顔となる。
この朝ごはんを最後に、しばらく台湾グルメとはお別れになるとは夢にも思わなかった。この旅の友だった時刻表を眺めながら、鉄路で台湾一周旅行の第2弾を夢想する日が続いている。
*7月18日(土)、朝日カルチャーセンター新宿教室で行われた講座「台湾一周 途中下車の旅」は、シニア層を中心に30名さまにご参加いただき、無事終了しました。ありがとうございました。
朝日カルチャーセンター新宿教室での講座は、安全面に配慮して行われた
著者の新刊が双葉文庫より好評発売中。『台湾一周‼ 途中下車、美味しい旅』、全国の書店、インターネット書店でぜひお買い求めください。
*本連載は月2回(第2週&第4週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |