旅とメイハネと音楽と

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#108

ノルウェーの首都、オスロ取材記〈4〉

文と写真・サラーム海上

 

■人気レストラン『コロニーハーゲン・フログネル』の「新北欧料理」

 

 2019年11月2日土曜、オスロに着いて5日が経ったが、毎日、朝から深夜までワールドミュージックのフェス「オスロワールド」の取材で忙しく、本格的なレストランには行けていなかった。宿泊していた宿の朝食ブッフェがあまりに充実していたので(連載#105)、昼食や夕食はサンドイッチや宿の軽食ブッフェで十分だったせいもある。しかし、一度くらいはイケてるレストランに行って、今どきの「新北欧料理」を食べたい!
 幸いこの日は午後と深夜に外せないライブがあるものの、夕方は予定が空いていた。そこでインターネットでオスロのグルメ情報を調べ、午後5時に人気レストラン『Kolonihagen Frogner(コロニーハーゲン・フログネル)』を予約した。ネットによると、ここはグルメサイト「The World’s 50 Best Restaurants」で現在世界第55位に輝き、ノルウェーではNo.1の店「Maaemo」の元スタッフが新たに始めたお店で、デンマーク・コペンハーゲンの「Noma」(同サイトで世界第2位!)が提唱する「新北欧料理」をお手頃価格で提供しているという。
「新北欧料理」は北欧におけるフードマイレージの少ない食材、オーガニックな食材に、現代のヘルシー志向に見合ったグローバルな食材や調理法を組み合わせた料理を指す。ベリーやキノコやトウヒ、鮭や鱒、トナカイなど北欧のローカルな食材と、例えばオリーブオイルや麹、ナンプラーやガラムマサラなどのヘルシーな多国籍食材を組み合わせるのが特徴だ。要は「北欧の地産地消フュージョン料理」と言おうか。さて、夕方まで外出してお腹を空かせておこう!

 

前週にタンペレでライブを観たモロッコの女性グナワ奏者アスマ・ハムザウィー、オスロワールドにも出演

 


オスロ市内の食品市場とフードコートが一体化した人気スポット、マートハーレン。寿司、イタリア食材、熟成肉や和牛、チーズ、加工肉、オーガニック野菜などが美しく並んでいる

 

 午後は宿の近くの停留所から市バスに乗り、西に10km行ったフィヨルドに面したヘニーオンスタッド美術館を訪れた。ここは4000点以上の現代美術を収蔵し、草間彌生の作品も常設展示されていたが、僕の目当てはあくまで音楽。西アフリカ・ニジェールのサハラ砂漠地域に暮らすトゥアレグ人のギタリスト、オマーラ・ボンビーノ率いる「砂漠のブルース」バンド、Bombino(ボンビーノ)のアコースティックコンサートだった。
 午後2時前に到着すると、床も壁も真っ白な写真展示室の床に中東のカーペットが十数枚敷かれ、その奥に4つのパイプ椅子と簡単な音響セットが組まれていた。カーペットの上に腰を下ろし、しばらく待っていると、いつのまにかお客が150人ほど集まった。開始時間になるとアナウンスもなく、ボンビーノと3人のメンバーがするっとステージに現れた。そして、2人のパーカッショニストがリズムを叩き、ギタリストが生ギターを爪弾き、ボンビーノがボソボソ声で歌い始めた。
 実は彼らは前年もオスロワールドに出演したが、コンサートの途中で会場の電気が止まってしまい、その後はしかたなく、電気を使わずに演奏を続け、コンサートを終わらせた。そのときのアコースティック演奏が予想外に素晴らしかったため、翌年はあえてアコースティック・コンサートでの再出演を依頼したのだそうだ。
 確かに週末の午後、フィヨルドと現代美術に囲まれた環境で聴くアコースティック版砂漠のブルースは音のぬるま湯に浸かっているようで、実に気持ち良かった。床のカーペットに寝そべりながらうたた寝を始めたお客さんも目立った。

 


オスロの西のフィヨルドに面したヘニーオンスタッド美術館

 

ヘニーオンスタッド美術館の室内で砂漠のブルースバンド、ボンビーノのアコースティックコンサート。「普段なら昼間は寝てるよ。夜に演奏するのが僕たちの仕事だから」とのこと。客席もうたた寝率高し

 


中央がリーダーのオマーラ・ボンビーノ

 

 午後4時前、再びバスに乗って宿まで戻り、今度はトラムに乗り換えて、市内西部のフログネル地区へ。5時ちょうどに『コロニーハーゲン・フログネル』に到着した。細い路地に低層階建ての古い建物が並び、その隙間が中庭のように奥まった所に『コロニーハーゲン・フログネル』を見つけた。白い壁、黒い窓枠と柱がいかにも北欧デザインの木造2階建てで、広いガラス窓からオレンジ色の灯りが漏れている。入り口で名前を告げると、一階のキッチンカウンター横の2人席に通された。
 メニューは月替りでパンや前菜、魚、肉料理、チーズ、デザートなど全9種類のみ。そこから4品のコース、または、全品のテイスティングメニューを選ぶ。
 ちなみに4品のコースは500NOK(ノルウェー・クローネ)=約6,500円、テイスティングメニューは600NOK=7,800円。そして料理に合わせた5杯のペアリングワインは600NOK=7,800円。もちろんテイスティングメニューとワインを行くでしょう!

 

夕方5時前にコロニーハーゲン・フログネルの看板発見!

 


路地の隙間から奥まった場所にコロニーハーゲン・フログネルがある

 

店内は暗褐色の木製のテーブル、照明は暗め

 

 一杯目、アルザスのリースリングとともに最初に運ばれてきたのはアミューズの牛タンとホースラディッシュ、そして発酵バターがたっぷりのったサワードゥブレッド。牛タンはハーブとともに煮てから、冷やしてあり、1cmほどの厚切りにしたものが2切れ、そこにホースラディッシュのペーストとカイワレ菜がのっている。サワードゥブレッドに牛タンの冷菜をのせたオープンサンドイッチは北欧料理の定番でもある。

 

アミューズは牛タンの冷菜とホースラディッシュのディップ

 

サワードゥブレッドはホームメイドでフカフカ、その上に発酵バターがたっぷり!

 

 続いて前菜が二種類。ビーツと山羊のチーズ、トマト、スプラウトのサラダ。そして軽くスモークしたオヒョウのサシミ、ジャガイモのワッフル、サワークリーム、紫玉ねぎのピクルス添え。これは美味い! 泥臭さと甘さが特徴のビーツに、少し酸っぱくて独特の臭みのある山羊のチーズの組み合わせはまさにカウンターパンチのようにお互いの欠点を打ち消し合い、お互いの強い旨味を引き出している! そしてトマトとスプラウト、薄切りのマーブルビーツがシャキシャキの食感と味の逃げ場を足している。
 オヒョウは伝統的には甘酸っぱい酢漬けにするはずだが、ここでは生のまま(メニューには「サシミ」と書かれていた)ほんの少しだけスモークして、酸っぱいピクルスやハーブのディルを添え、すりおろしたじゃがいもをカリカリに焼いたワッフルにのせている。オヒョウはカレイ科の巨大な魚で、日本では回転寿司で回っているエンガワとして一般的。カレイやヒラメ同様に旨味が強いので、刺し身にしてピクルスと合わせて不味いわけがない!

 

ビーツと山羊のチーズ、トマト、スプラウトのサラダ

 

軽くスモークしたオヒョウをカリカリのジャガイモのワッフルにのせて、ピクルスやディルを添えて。伝統的な魚の酢漬けを現代的にアップデートしてる

 

 サヴニエールというフランス西部ロワール川沿いのミネラルの強い白ワインとともに温かい野菜料理が二種類。ローストしたブロッコリーにジャガイモのムースと松の実添え、フライドカリフラワーのホースラディッシュと香菜添えだ。ブロッコリーもカリフラワーは元々、中東や地中海地域の野菜、北欧では比較的新しい食材ではないだろうか。どちらも今ではローカーボダイエットにおいてお米の代用品にされるほど人気が高い。
 フライドカリフラワーはクリスピーな衣にホクホク熱々のカリフラワーが隠れていて、見た目も味も日本の洋食屋で出てくるフライにそっくり。レモンをしぼって、ホースラディッシュの効いたタルタルソースに付けていただくのだから、なんとなくミックスフライ定食を食べている気分になった。

 

ブロッコリーのロースト、ジャガイモのムースかけ。店内が暗すぎて、ブロッコリーがきれいに写らず。次回行くなら昼間だなあ……

 


フライドカリフラワー。パン粉の衣の食感が日本の洋食フライにそっくり

 

 3杯目のワインはまたまたフランスから、ブルゴーニュのオート・コート・ド・ボーヌの白。メインの魚料理は鱈の切り身を薄切りのジャガイモにのせ、クランブルをふりかけてオリーブオイルでコンフィーのように煮て、そこにサワークリーム、ベビーリーフ、仕上げに鮮やかな色のグリーンハーブオイルをかけてある。クリーム色と鮮やかな緑がいかにも新北欧料理らしい。柔らかく火を通した鱈の味がジャガイモにも浸透し、ハーブオイルが爽やかさと苦味というコントラストを足している。
 そう言えば、味付けこそ異なるが、鱈とグリーンハーブオイルという組み合わせの料理を南インド・チェンナイの人気フュージョンレストラン『Avartana』で食べたことがある。今の時代、世界のどこに行っても優秀な料理人は同じような料理の風景を夢見ているということか。

 

 鱈のオイル煮。ジャガイモのクランブル、サワークリーム、グリーンハーブオイル

 


こちらは南インド・チェンナイのレストラン「アーヴァルタナ」の鱈のソテー、グリーンハーブオイル。ほら、ノルウェーでもインドでも、イケてるシェフが考えていることは同じでしょう!

 

 やっとメインの肉料理までたどり着いた。イタリアのトスカーナの赤ワイン、ロッソ・ディ・モンタルチーノとともに運ばれてきたのは豚首肉、人参とマッシュルーム煮込み。しかし、これは中華料理の豚の角煮そのままだった。地元産の豚肉を醤油と八角で煮込むのはノルウェー人にとっては非常にエキゾチックなアイディアかもしれないが、日本人の僕にとっては醤油の味がキツかったのも含めて、全然ありがたみはないなあ。まあ外国人の勝手な思いこみかもしれないけど、メインくらいはもう少し北欧らしい伝統料理側に寄せてもいいのでは?

 

これが僕には残念だった豚肉の煮込み。味が中華の豚角煮をしょっぱくしたものだったのだ……あ、食材は全てオーガニック系なので質は高いです

 

 さて、最後にポートワインとともに運ばれてきたのは、地元産ブルーチーズと山羊のチーズにイチジクのジャム添え、そして、黒スグリの葉のアイスクリームにアップルクランブル。朝食ブッフェの回でも書いたが、ノルウェーはチーズ大国だ。ブルーチーズや山羊のチーズ、そしてノルウェーにしか存在しないブラウンチーズもジャムを付けてクラッカーに付けて頬張れば、デザートにもスナックにもなる。チーズ好きの僕にはノルウェーのチーズの美味さはうれしい発見だった。

 

ブルーチーズと山羊のチーズ。左はイチジクのジャムとフラットブローと呼ばれる薄焼きクラッカー。チーズ好きはノルウェー行くべし!

 


デザートの黒スグリの葉のアイスクリーム、アップルクランブル。黒スグリの葉っぱなんて初めて食べたけど、ハーバルなさっぱり系

 

 さて、時計を見ると既に午後8時、お腹はちょうど良く満腹だ。新北欧料理研究はここまでにして、そろそろ夜の会場に向かい、オスロワールドの最終公演となるティナリウェンのライヴを観なければ! 

 

夜はオスロワールドの最終公演、活動40周年を迎えたトゥアレグ人の砂漠のブルースバンド、ティナリウェン! サイケデリックな砂漠の音を北欧まで運んでくれた。まさに王者の風格!

 

 

■チュニジアの焼き野菜サラダ「サラダ・メシュイヤ」

 

 今回はチュニジア料理の焼き野菜のサラダ「サラダ・メシュイヤ」を作ろう。
赤パプリカと黄パプリカ、ピーマン、玉ねぎ、にんにくはオーブンで焼いても良いが、ガスコンロに焼き網を置いて直火で焼けばもっと美味い! 手間はかかるが、冷蔵庫でキンキンに冷やしていただけば、そのかいがある美味さだ!

 

●サラダ・メシュイヤ
【材料】
赤、黄パプリカ:各1個
ピーマン:2袋(10個)
新玉ねぎ:1個(200g)
にんにく:2かけ
ハリッサ:大さじ1
レモン汁:1/2個分(大さじ2)
カイエンヌペッパー:小さじ1/2
塩:少々
EXVオリーブオイル:大さじ3
茹で卵:2個
イタリアンパセリのみじん切り:少々
ツナ缶:小1個
黒オリーブ:10粒
ケッパー:10粒
【作り方】
1.ガスコンロに焼き網を敷き、赤、黄パプリカ、ピーマン、新玉ねぎ、にんにくを置き、強火で全面が焦げるまでひっくり返しながら焼く。オーブンの場合は200度で30分焼く。皮が真っ黒になるまで焼けたら、紙袋に入れ、ふたをして20分ほど置いておく。
2.焼いた野菜の皮をむき、種やヘタを取り、汚れを水で洗い流してから、まな板に置き、包丁で細かく叩く。
3.ボウルに2の野菜を入れ、ハリッサ、レモン汁、カイエンヌペッパー、塩を加え、よく混ぜ合わせ、最後にオリーブオイルを足し、混ぜ合わせ、冷蔵庫で冷やす。
4.3を皿に盛り付け、中央に油を切ったツナをのせ、周りに縦4切りにした茹で卵を放射状に飾り、黒オリーブとケッパー、イタリアンパセリを散らす。

 

サラダ・メシュイヤ。赤緑黄白オレンジの色のコントラストが美しい!

 

 

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 *著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/  

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉    

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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