旅とメイハネと音楽と

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#107

ノルウェーの首都、オスロ取材記〈3〉

文と写真・サラーム海上

 

■ワールドミュージックフェス「オスロワールド」レポート

 

「オスロワールド」はワールドミュージックのフェスティバルであると同時に、世界中から集まった音楽関係者(内訳はEU諸国やロシア、イラン、レバノン、インド、中国、日本からのフェスティバルのオーガナイザーやジャーナリスト、アーティスト、DJなど約50名)によるパネルディスカッションやディベート、ワークショップなどもプログラムの一環となっていた。
 そのため、僕たちはライヴが行われる夜間だけでなく、毎朝10時にはオスロワールドの事務所に集まり、様々なプログラムに参加した。

 

ノーベル平和センター前の海の夕暮れ。ムンクの『叫び』と同じ色合いだ

 


毎日午前10時から多国籍な約50名が集まり、知恵を絞ることに

 

 2019年10月30日水曜、オスロ湾に浮かぶサウナボート、コック・オスロから宿へと戻った僕を待っていたのは「ユートピア宣言」と題したプログラムだった。僕たちは国籍も年齢も性別もバラバラに各6人の8つのグループに分けられ、8つのテーマを各15分ずつディベート&ブレインストーミングしてまとめることとなった。
 その8つのテーマとは、以下である。

 1.性別の平等な世界
 2.セクハラのない世界
 3.性別やセクシャリティに基づいた差別のない世界
 4.人種差別のない世界
 5.宗教や文化に基づく差別のない世界
 6.財政状況や階級に関係なく、全ての人が芸術と文化を利用出来る世界
 7.障害に基づく差別のない世界
 8.サイジズムとボディシェイミングのない世界

 要は近年日本でも話題となっているSDGsである。それを音楽フェスティバルでどのように実践出来るか。グループごとに指定されたテーブルに着くと、テーブルの上に敷かれた大きな紙に一つのテーマが書かれている。それに沿って全員でディベート&ブレインストーミングし、15分後にその紙の片隅にまとめて書き、次のテーブルへと移動する。これを8回繰り返すのだ。

 

ユートピア宣言のスタート

 

提示された問題その1〜4

 

 多くの場合、音楽業界の人間が考えることはほぼ一緒だが、参加者は国籍も文化も多岐にわたるため、新たな見識が飛び出すこともある。
 僕たちのグループからは、以下などが挙がった。

*障害者向けのユニバーサルアクセスを会場に用意する
*出演者と雇用者を性別平等に採用する
*性別の曖昧なトイレを用意する
*性的な広告を排除する

 音楽フェスの現場で出演アーティストやマネージャー、ローディー、サウンドエンジニア、更にアーティストのアテンド係、プレス係、そして会場設備に至るまで、男女およびLGBTQバランス(さらに人種バランスまで)が問われるなんて、日本にいるだけではとても考えが至らなかったが、実際にオスロワールドは出演者およびスタッフの性の格差や性バランスの平等化に成功しているように見えた。

 

パネルディスカッションの様子、一番左が総合プロデューサーのアレキサンドラさん

 

 夕方4時前にプログラムは終わり、夕方はオスロ湾に面したノーベル平和センターまで歩き、オスロワールドの総合プロデューサーのアレキサンドラさんと、スペインの俳優兼歌手ロッシ・デ・パルマ、モロッコの先住民ベルベル人のシンガーソングライター、ヒンディー・ザハラによる鼎談「ディストピアにおける子守歌」を楽しみ、そして、夜には複数の会場で行われたライヴをはしごした。

 スペインの天然系シンガーソングライターのシルビア・クルス・ペレスは歌っている一瞬一瞬が楽しくて仕方ないらしく、ギター一本の弾き語りにも関わらず、まるでジェットコースターのようなスリリングなステージを披露してくれた。「スペインの矢野顕子」とでも呼ぼうか?
 90年代にアラビックポップをエレクトロ化し、世界的なベリーダンスのブームを牽引したナターシャ・アトラスのニューアルバムお披露目公演にはヒンディー・ザハラが飛び入りし、妖艶なデュエットを聞かせてくれた。

 

 

右がナターシャ・アトラス、左がヒンディー・ザハラ。古くからの中東音楽好きには夢の共演!

 

 深夜過ぎにはオスロワールド事務局の一階にあるバーで北極圏の先住民サーミ人の女性DJユニット、サーミ・コレクティヴによるサーミ伝統音楽を元としたエレクトロニック音楽のDJパーティーも開かれた。サーミの詠唱ヨイクは日本のアイヌの詠唱ウポポと似て、北国の厳しい自然や動物を模している。
 今回、僕が一番注目していたのは、11月1日木曜夜に登場した日本のグループ、民謡クルセイダーズだった。オスロワールドは彼らにとってヨーロッパでの初ライヴだった。
 会場のジャズクラブ「ナショナルジャズシーン」に到着するとすでに200人ほどの観客が入っていた。現地在住と思しき日本人もちらほら。10人のメンバーがステージに登場し、ラテンのリズムがスタートした瞬間から、オスロ子たちはガンガンに踊り始めた。すると、少々緊張気味に見えたメンバーの顔に笑顔が浮かび、演奏はどんどんグルーヴィーに弾けていく。アルバムがリリースされてからしばらく経っていたせいか、串本節やおてもやん、炭坑節、会津磐梯山、どの曲でもイントロが始まった瞬間に歓声が上がり、印象的なブラスのリフや「アラヨ〜イ」、「ヨイサ〜」などの掛け声、そして盆踊りの振り付けを真似る人までいた。メロディーは遠い日本の民謡であろうと、クンビアやブーガルー、レゲエなど、ラテンのリズムは世界共通言語なんだなあと改めて実感した。
 民謡クルセイダーズはオスロの後、ドイツやデンマーク、オランダ、イギリス、スペインなど、2週間弱で8箇所を回ることになっていた。この晩のステージを観て、彼らの初ヨーロッパツアーの成功は確信できた。

 

民謡クルセイダーズ、オスロに参上! みんな長時間のフライトの後なのに元気だなあ

 


民謡クルセイダーズを観るためにナショナルジャズシーンに集まっていたサーミ人のアーティストたち、右から二番目はサーミのロックンローラー、トルゲイル・ヴァスヴィク

 

民謡クルセイダーズ始まりました!

 

終了後の民謡クルセイダーズとスタッフたちを記念撮影。ボーカルのフレディさんが他のアーティストたちを見て、「世界中どこにも僕たちと同じことを考えてる人がいるんだなあ……」と。ええ、世界中、民謡を現代の音にするために楽しくもがいているアーティストばかりですよ!

 

■港町の魚介レストラン『Fiskeriet Youngstorget』

 

 さて、忙しいオスロワールドの隙間を見つけて、地元料理を食べに抜け出そう! 僕は初日の晩から、宿とフォルケティーテレト(人民劇場)と同じ建物の北側、ヨングストリゲ(青年市場)側の出口脇にあるお店『Fiskeriet Youngstorget(フィスケリエト・ヨングストリゲ=フィッシャー・ヤングスクエア)』に目をつけていた。

 というのもお店はガラス張りで、美味そうな牡蠣や蟹や海老や帆立貝、鮭の切り身などが巨大な冷蔵ケースに入って陳列されているのが外からも目に入ってきたのだ。ノルウェーの主要産業は水産業だし、北海道の釧路を思い出す北の港町オスロに来て、魚介を食べずに帰るわけにいかない!

 

 

宿から出る度に見かけていたフィッシャー・ヤングスクエアの立て看板

 

同店の冷蔵ケースに並ぶスモークサーモンやスモーク鱈、手前は鱈のハンバーグか?

 


茹で海老に帆立貝、そして泥蟹の爪!

 

泥蟹の本体は鋏とは別々に陳列されていた!

 


北の鮮魚、マス、鱸、赤カレイ、鰊など

 

 まず生牡蠣を半ダース注文した。240クローネ=約3100円。ノルウェーでは外洋のノルウェー海に面した町ベルゲンで牡蠣の養殖が行われているが、生牡蠣は地元ではあまり食卓には上らないと聞いた。日本でも生牡蠣よりも火を通した牡蠣フライのほうが主流だしね。

 この日の生牡蠣は丸く小さいもので、レモンの切れ端と刻みタマネギを入れた赤ワインビネガーが付いてきた。味は小さいながらもミルキーで、半ダースはチチュルっとあっという間に食べてしまった。

 

ベルゲンのフィヨルドで養殖した小ぶりな牡蠣。大好物!

 

 続いては蟹をいこう! 冷蔵ケースには茹でて甲羅が赤くなった直径18cmほどの泥蟹の種類が鋏と胴体を切り離されて並んでいた。当然、頼むなら肉の詰まった鋏部分だ。蟹の鋏を6本、黒胡椒と豆鼓炒めにしてもらった。値段は280クローネ=約3600円。オスロは世界で最も物価の高い都市だが、6本で1kg近い蟹の鋏の料理がこの値段で食べられるなら、蟹に関してはかえって安いかも? 

 赤唐辛子と豆鼓、オイスターソースで甘辛く味付けた蟹の鋏をバキバキと割りながら、噛み付くと、蟹の濃厚な甘さが口の中で広がった。しかし、豆鼓炒めは中華料理では? 本来のノルウェー料理ではどんな味付けなのだろうか?

 


蟹の鋏の黒胡椒と豆鼓炒め。これは中華でしょう!?

 

 そして、メインにはフィスクシュッペ=フィッシュスープと呼ばれるノルウェーの名物料理を頼んだ。要は鮭とムール貝のクリームシチューだ。これは200クローネ=2600円。これは確かに鮭もクリームも上等で美味しいが、たいがい味の想像は付くでしょう。

 


地元名物のフィスクシュッペ=フィッシュスープ。鮭とムール貝のクリームシチュー

 

 結局のところノルウェーの今どきの料理ってどんななの? そこで次回はオスロの人気フュージョンレストランに行き、テイスティングメニューにチャレンジしよう。

 

■筍のペペロンチーノ、山椒若葉風味

 

 さて、今回の料理は今が旬の筍と山椒若葉を使って和風イタリアン。筍のペペロンチーノ、山椒若葉風味。一年のうち、ほんの短い期間しか作れないので、緊急事態宣言でステイホームの今こそ何度でも作ろう!

●筍のペペロンチーノ、山椒若葉風味
【材料:2人分】
茹で筍:120g
舞茸:80g
にんにく:2片
山椒若葉:カップ1/2
鷹の爪:2~3本
EXVオリーブオイル:100cc
ナンプラー:小さじ1〜2
スパゲッティーニ:180g

【作り方】
1.筍は穂先から8cmで切り、5~8mm厚に縦薄切り。根元の部分は5cmで輪切りにし、5~8mm厚にいちょう切り。舞茸は食べやすい大きさにちぎる。にんにくは皮をむき、薄切り。
2.大きな鍋にお湯(分量外)を沸かし、塩一つかみとEXVオリーブオイル大さじ1(ともに分量外)を加え、沸騰したら、スパゲッティーニを入れ、5分弱茹でる。
3.その間にフライパンにEXVオリーブオイルと鷹の爪を入れ、火にかけ、鷹の爪から香りが出てきたら、にんにくを足し、にんにくが透明になってきたら、茹で筍を入れる。筍の表面に油が回り、軽く焼色が付いたら、舞茸を足す。舞茸に火が通り、油を吸ったら、山椒若、の2/3を加え、ナンプラーで調味し、水分が足りないようなら、スパゲッティーニの茹で汁を適宜加える。
4.スパゲッティーニが茹で上がったら、汁気を切らずにフライパンに入れ、火を付けたまま、具とよく混ぜ合わせ、汁を乳化させる。
5.筍の穂先の形の良いものは数枚、取り分けておき、残りをお皿に盛り付けてから、筍の穂先と残りの山椒若葉で色形良く飾り付ける。

 

筍のペペロンチーノ、山椒若葉風味。一年のうちほんの短い期間だけしか味わえない、まさに旬の味! ステイホームでやけにならずに短期集中で飽きるほど作っちゃおう!

 

(オスロ編、次回に続きます。お楽しみに!)    

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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