旅とメイハネと音楽と

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#104

フィンランド・タンペレ「WOMEX」取材記〈5〉

文と写真・サラーム海上

 

■タンペレの湖畔の公衆サウナ『Rauhaniemi(ラウハニエミ)』へ

 2019年10月27日日曜午前8時、僕はタンペレのホテルで短い睡眠から目を覚ました。前夜、部屋に戻ったのは午前3時半。既に日本を出て一週間近く経つが、時差ボケは治らないまま。それでも四日間、ワールドミュージックの国際見本市「WOMEX」で30数組の生演奏を観て、約50枚のCDを手に入れ、数百人と交流したのだから取材は大成功だ。
 窓の外は冬のどんより曇り空。タンペレの気候はこの四日間で、よく晴れた秋から冷たい雨が降る冬へと変わっていった。日本を出る直前に買ったワークマンの防寒防水パーカー、着いた当初は着ているだけで汗をかいたが、毎日、急激に冷え込んできて、三日目には買ってきて正解と思うようになった。そして、この朝は雪まで降り出しそうな空模様だ。

 

WOMEXで手に入れたCD。これ以降、ラジオで北欧やバルト三国、ロシア連邦など北国の音楽を取り上げる回数が増えたなあ

 

土曜の深夜3時20分、タンペレ国鉄駅前。10月下旬とはいえ、すでに冬!

 

 午前10時にWOMEXの最終ミーティングに顔を出した。期間中は話す機会がなかったインド、エストニア、フランス、ブラジル、オランダ、イギリス、アメリカの同業者たちと挨拶し、近況を知らせ合う。そして、正午からはWOMEX賞の授賞式、閉会コンサートが続き、この年のWOMEXは終了した。

 


2019年のWOMEXの最終ミーティング。「また来年!」と言って別れたが、昨年はコロナ禍でオンラインで開催された。今年は10月末にポルトガルのポルトで開催予定。さてどうなることか?

 多くの友人はこの日のうちに帰路に着いたが、僕はタンペレにさらに一泊することにした。なぜならサウナとフィンランド料理をもっと満喫したかったから!
 というわけで、小雨からみぞれに変わりつつある午後三時、町の中心から2.5km北にあるナシ湖の南湖畔の公衆サウナ『Rauhaniemi(ラウハニエミ)』にタクシーで向かった。
 ナシ湖に着くと、雨天のせいか波が結構高く、飛び込み台や金属の手すりが設けられた岩場には、波がザバーンと打ち付けている。なんか生命の危険すら感じるんですけど……。そんな中、年配のカップルが平然と冷水の中に入っていく!  遠くには泳いでいる若者たちまでいる。ひ~!こちらは見てるだけで心臓麻痺起こしそうデス!
 岩場の右手前に黄土色に塗られた2階建てほどの高さのプレハブの建物が並んで建っていた。奥のプレハブがサウナらしく、前のベンチには身体が真っ赤に火照った十数名の老若男女が水着姿のまま座り、楽しそうに話し込んでいる。ちなみに気温は摂氏2度デスよ~!

 

フィンエアの機内誌に掲載されていたフィンランドのファクトフルネス。湖の数16万8千、人口550万人、サウナの数230万!

 

タンペレの中心から北に2.5km、冬が始まったナシ湖、波が結構高い!

 

湖畔の公衆サウナ「ラウハニエミ」入り口

 

こんなに寒いのに湖に入るなんて、自殺行為だ!(30分後、オレも冷水ダイブの中毒に……)

 

 番台のアニキにガラス窓越しに入場料7ユーロを払い、更衣室へ。扉を開くと、ムワ~と湿った熱気が漏れてきた。この垢抜けない感じが、子供の頃よく通った高崎市の市民プールを思い出す。ここまで来て初めて更衣室にはロッカーもスリッパもタオルもないことに気が付いた。左右両側の壁の高い位置にびっしりとコートが吊るされ、バッグやビニール袋はその下のフックにひっかけてある。公衆サウナは、初日に訪れた最新の都市型サウナ『Kuuma』(連載第101回)とは随分勝手が違うのだ。幸いタオルは持っていたが、一眼レフカメラは袋に入れておくしかないな。治安の良いこの町で盗難はなさそうだ。
 水着に着替えて、外に出ると当然肌を刺すような寒さ。早くサウナに入りた~い! しかし、「郷に入らば郷に従え」だ。まずはシャワールームで全身を洗うことから始まる。ここから先は男女は一緒。3人の地元女性の後ろに並び、10分ほど震えながら待ってから、熱いシャワーを浴び、全身を洗った。そして、二つあるサウナのうち、大きいほうのサウナに入った。

 

 

大きいサウナの入ったプレハブの前には野外ベンチ。ちなみに摂氏2℃。みんな楽しそう!

 

 照明は最小限で基本真っ暗。室温はちょっとぬるめで、85度くらいだろうか。日本のドライサウナに慣れている身にはスモーク臭とスチームがかなりキツい。スマホやカメラなんて持って入ったら、すぐに蒸気で壊れてしまうはず。
 目が慣れるまでしばらくかかったが、奥に長いプレハブの左右両側に木製ベンチがあり、ベンチは壁に向かって四段になっていた。そこに20人以上の水着姿の男女が無言で腰かけていた。
 一番奥の中央にサウナストーブがあり、お腹がドーンと出たオヤジさんがロウリュを仕切っていた。最初はぬるいと思って最上段に座っていたところ、オヤジさんがロウリュを何度も繰り返すうち、熱気が一気に襲いかかってきた。う~ん、熱くて目を開けていられないほどだ! 鼻の穴もヒリヒリする! 今、95度くらいかな。そこで10分弱、ジーッと我慢の後、耐えきれなくなった瞬間、サウナから飛び出した。ベンチを横切り、岩場の手すりにつかまりながら、みぞれが吹き付ける湖にダイブだ! 水温は外気と同じ摂氏2度。身を切るほど冷たく、何も考えられなくなる! 頭まで三回、冷水に浸かってから湖を出て、外のベンチに腰掛けた。すると今度は全身を刺すような痛みが襲ってきた。血液が急速に戻ってきているのだ。これはイタい、本当に痛い! 外でととのう余裕もなく、急いでサウナに戻る。
 大きいほうのサウナ&冷水ダイブを3セット繰り返した後、今度は小さいほうのサウナへ移った。こちらは定員が12名ほど。ここでも腹の出たオヤジさんがロウリュを仕切っていた。僕は狭いサウナのほうが落ち着けて好きなのだ。
 持ち込んだヴィヒタ(白樺の若い枝葉を束ねたもの)で身体を叩いて血流を上げ、ロウリュによる熱さをギリギリまで耐えた後、湖で冷水浴。それから表のベンチで一休み。この流れを全部で5セット行うと、凝っていた肩や首が軽くなった。四日間の激務による肉体疲労がだいぶ取れた。今夜こそ時差ボケも治るはずだ。
 真冬に湖にダイブなんて、日本にいたら考えたことすらなかったけど、本当に清冽な体験なので、皆さんも機会を作ってやったほうが良いですよ! コロナ禍が収束したら、サウナ巡礼のためだけにタンペレを再訪するのも悪くない。僕はそれほどフィンランドのサウナが好きになってしまった!

 

日本でも最近は知られるようになったヴィヒタ。白樺の若い枝葉の束。乾燥した状態で売られているが、水に漬けたり、そのままサウナストーンの上に置いてふやかすなど、水気を戻してから使う。ヨモギのような香りがする

ついにオレも湖ダイブする時が来た! その後、5セットも繰り返すことに……

 

■再訪したレストラン『ダバル』でラップランド伝統料理

 さて、タンペレはヨーロッパの町らしく、日曜日は基本的にレストランは休業。それでも初日に訪れた店『Dabbal(ダバル)』(連載第101回)が奇跡的に開いていたので、再訪することにした。しかし、訪れると、日曜はシェフが休日のためコースメニューはやっておらず、出来合いの総菜を使った簡単なビストロメニューだけを供していた。それでも、普段は華やかなフュージョン料理の影で目立たない、素朴なラップランドの伝統料理を食べればいいのだ。
 前菜には「北国の美味いもの盛り合わせ」。木の幹の輪切りのトレーに乗った四種類の冷菜の盛り合わせだ。一番手前から、エディブルフラワーが乗った灰色はマッシュルームのペースト、オレンジ色は人参のペースト。この2つがごま入りのフラットブレッドにのっている。濃厚なキノコダシと爽やかに甘い人参がよく合う。初日にもポルチーニ茸の料理をいただいたが、北国の秋には森のキノコが旬の食材なんだろう。
 トレー左側には人参と玉葱のみじん切りのピクルスとハードチーズ。これは日本でも簡単に再現出来る。
 トレー奥には、薄切りライ麦パンの上に茹でた蟹の身のマヨネーズ和えが乗り、鮎の卵の塩漬けが散らしてある。鮎の卵の塩漬けは日本の「うるか」と同じもの
 トレー右には、小麦粉生地の上に茶色いのはキノコのピクルス、濃いピンク色はベリーのムース。こうした酸っぱいもの、甘いもの、塩っぱいもの、濃厚なものの組み合わせは、どこか日本のナマスや酢物や、もっと言えば、なれ寿司まで思い出した。

 

レストラン・ダバルの日曜ビストロメニューから「北国の美味いもの盛り合わせ」。四種類の冷菜

 

 この後はフィンランドらしい料理を三皿注文した。まずはトナカイ。狩猟の歴史が長いフィンランドでは鹿やうさぎ、そしてトナカイも日常的に食べられている。メニューにトナカイのレバーのグリルとトナカイの煮込みがあったので、両方を頼んでみた。
 トナカイのレバーのグリルは新鮮なレバーを薄切りにし、焼色が付くまでグリルしてある。付け合せには大量のマッシュポテトと人参のピュレ。赤いコケモモの実とリンゴのジャムが添えられている。うん、これは北海道で食べた鹿のレバーとよく似ている。臭みなどなく、ほろ苦く、甘いソースがよく合う!
 続いてはトナカイの煮込み。こちらもマッシュポテトとコケモモの実、そしてキュウリのピクルスが添えられている。ラップランドの伝統料理らしい。ベルギー料理やアイルランド料理にある、牛肉のビール煮を鹿肉で置き換えて作ったような味。素朴だが、肉の煮込み、シチュー系が好きならたまらない料理だ。

 


トナカイのレバーのグリル。付け合せは大量のマッシュポテトと人参のピュレ。赤いコケモモの実とリンゴのジャム

 

翌日月曜の朝に訪れたタンペレ・マーケットホール(総合市場)の一角にトナカイ肉専門店発見! わかりやすいww

 

そこで売られていたトナカイ肉のスモーク。旅の途中だったので買えずじまい。次回は必ず買う!

 

こちらはトナカイのロースト。マッシュポテトとコケモモ、キュウリのピクルス。素朴で美味いが量が多過ぎる!

 

 そしてメイン三品目はスモークサーモンのサラダ。これは僕たちが普段食べている冷燻された半生のスモークサーモンの薄切りではなく、じっくり高温で燻した(というか、焼いた)サーモンのフィレまるごとをほぐして、ちぎったレタスとフライドポテトに合わせたものだった。サラダというよりはこれもメインディッシュだね。

 

スモークサーモンと言ったら、いわゆる薄切りの冷燻スモークサーモンを思い浮かべるが、フィンランドのスモークサーモンは中まで火を通した温燻サーモンだった!

 


翌日のマーケットホールで温燻スモークサーモン発見! これはデカイ!

 

 三品とも北海道の居酒屋で出てきそうな食材勝負の素朴な料理で美味いのだが、なんせ量が多いのだ! 3人でたったの四品が食べきれなかったほどだ。
 結局フィンランド・タンペレ取材は6日だけで、そのうち5日はWOMEXに参加していた。なので、料理もサウナも心残りばかりだ。まあ心残りがあるほうが再訪のチャンスがきっと増えるはず。
 さて、次回からはタンペレの後に訪れたノルウェー・オスロ編です。

 

■自家製のアンチョビーレシピ

 そして、今回のレシピは自家製のアンチョビー。僕はスーパーや魚屋さんでカタクチイワシを見つけたら、迷わず全パック買い占める! できれば一度に1kgくらい作りたいが、そこまでの量がなかなか売られていないのが残念だ。

 時間こそかかるが、作るのは簡単。背開きして、重さを測ったら、その30~40%の重さの塩で漬け込み、冷蔵庫保存する。そして、ひと月後に塩を洗い流し、風通しの良い場所で数時間乾かしてから、後は煮沸消毒したガラス瓶に入れ、たっぷりのオリーブオイルで浸し、冷蔵庫や冷暗所で2ヶ月発酵させるだけ。今から作れば、夏前には自家製の美味いアンチョビーが出来上がるのだ!

■アンチョビー
【作りやすい分量】
カタクチイワシ:300g
塩:80g
オリーブオイル:適宜(瓶の大きさにもよるが300gほど)
黒胡椒:小さじ1
ローリエ:2枚
【作り方】
1.カタクチイワシは頭を落とし、はらわたを抜き、背骨沿いに人差し指をすべらせて手開きにし、背骨を取り、開いておく。
2.カタクチイワシの重量を測り、その30~40%の重量の甘塩を用意する。
3.そこが平らなプラスティック容器に塩を軽く敷き詰め、カタクチイワシが重ならないように並べる。上に塩を振りかけ、さらにカタクチイワシを並べ、塩を振りかける。全量を何層かに重ね、カタクチイワシの上にラップをかけてから、容器の蓋をする。冷蔵庫にて1ヶ月置く。
4.1月後、たまった汁を取り、カタクチイワシはボウルに入れ、流水で塩をしっかり洗い流す。たまった汁は魚醤なので、他の料理に使える。
5.洗ったカタクチイワシの水気をペーパータオルなどで拭いてから、ザルに並べ、風通しの良い場所で数時間乾かす。
6.煮沸消毒したガラス瓶を横にして、軽く乾いたカタクチイワシを瓶の側面に沿って平らに詰めていく。全部を詰め終えたら、瓶を立てて、隙間に黒胡椒、ローリエを入れ、全体が浸るまでオリーブオイルを入れ、瓶の蓋をする。冷蔵庫または冷暗所で2ヶ月以上発酵させたら出来上がり。
*お好みで鷹の爪やにんにくを入れても美味しい。

 


手開きしたカタクチイワシを保存容器に並べ、塩をふりかけ、ラップして、冷蔵保存

 


ひと月後、水洗いしたカタクチイワシを金属の網に並べ、数時間乾かす

 


半乾きになったカタクチイワシはガラス容器に立てて入れ、オリーブオイルを注ぐ。食べられるのは二ヶ月後!

 

(次回はノルウェー、オスロ編です。お楽しみに!)    

 

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*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉    

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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