日本全国 相撲めしツアー!
#08
『ちゃんこ重ノ海』
文・武田葉月
九州場所でにぎわう福岡の人気ちゃんこ店
「1年納め」の大相撲九州場所は、横綱・白鵬の43回目の優勝で幕を閉じました。
12年に渡り、角界の第一人者であり続けている白鵬もすでに34歳。同じ横綱の鶴竜や大関陣が途中休場する中、土俵をしっかり引き締めてくれたという印象です。
さて、九州場所がおこなわれる博多といえば、プロ野球・ソフトバンクホークスのホームタウン。今年は、シーズン成績が2位だったものの、クライマックスシリーズで優勝。そして進んだ日本シリーズでは、巨人を4タテし、3年連続の日本一を果たしました。
大相撲九州場所千秋楽の11月24日は、奇しくも博多の中心地でホークスの選手たちの優勝パレードがとりおこなわれました。
相撲の王者とプロ野球の王者がセッションした博多の街は、いつも以上の盛り上がりを見せていました。
さて、地元・ホークスの選手やコーチ、関係者らが頻繁に顔を見せるのが、福岡市春吉にある『ちゃんこ重ノ海』です。
この店のオーナーは、奄美王島出身で元十両力士だった重ノ海こと、重村博久さん。
中学卒業後の昭和58年春場所、武蔵川部屋に入門した重村さんの同期生は、元関脇の貴闘力さんら。ちなみに相撲協会を退職した貴闘力さんは、現在、焼肉店のオーナーとして、第二の人生を歩んでいます。
比較的小柄な体格だった重村さんは、幕下の土俵で奮闘。平成5年九州場所で、新十両に昇進します。ちょうどその頃、所属していた武蔵川部屋は「新しい風」が吹いていました
ハワイ出身の武蔵丸(のち横綱=現・武蔵川親方)が関脇に昇進、大学相撲出身の武双山(のち大関=現・藤島親方)が幕内力士になるなど、新鋭力士の活躍に湧いていたのです。
そうした中で、部屋の「鬼軍曹」的な役割を務めていた重村さんは、決意します。
「30歳になったら、現役を引退して、ちゃんこ店を始めよう」
平成9年に引退した重村さんは、博多出身の奥様と結婚。翌年には、市内・古門戸町に、『ちゃんこ重ノ海』をオープンさせます。
2階建ての店は、いつも満員。それは、当時は珍しかった塩味のちゃんこ鍋に的を絞ったからでした。
看板メニューの塩ちゃんこ
鶏だんご、豚スライス、豆腐、油揚げ、エノキ、シメジ、エビ、ホタテ、しいたけなどが入った塩ちゃんこ。
スープは鶏ガラベースで、野菜を加えて丸みを持たせ、塩、薄口しょうゆで味を調えています。
「スープの風味を壊さないように、クセのある具材は使わないんです。スープが具材を選んでいるという感じでしょうか?」とは、重村さん。
繁盛を極めた前店舗から、リバーサイドのオシャレな店舗に移転したのは、5年前のこと。
「私の体が動けるうちに、新しい場所で挑戦したいと思って…」
と語る重村さんの思惑は、ズバリ当たります。
「夜景を見ながらチャンコを食べられる」と、女性同士のお客さまも激増。ゲーム終わりのホークス以外の球団の選手も、気軽に立ち寄るスペースとなりました。
店内には力士の手形や、プロ野球選手のサインも
夜景も楽しめる
こうした中から生まれたメニューが、「宗揚げ」。ホークスとメジャーリーグで活躍したムネリンこと川崎宗則さんと一緒にメニューを開発したこの一品は、ほとんどのお客さまがオーダーする人気ぶりです。
人気の宗揚げ
また、19年からホークスの一軍内野守備走塁コーチに就任した「ポンちゃん」こと本多雄一さんのために作られた「ぽんすじ煮」は、馬すじを煮込んだもの。重村さんの愛が感じられます。
ぽんすじ煮も人気
その他、熊本産馬刺しなど、サイドメニューも充実している「重ノ海」。
レディースコース(5品=2800円=デザート付き)、ちゃんこ重ノ海コース(6品=3000円)と、コースもあります。
焼酎、日本酒も揃っている。オリジナル焼酎「重ノ海」(右)
ちなみに、オリジナル焼酎「重ノ海」はボトル2600円、黒霧島が2300円(ボトル)と、かなりリーズナブル。
今年の九州場所中にも、武蔵川親方や、今ブレーク中の関脇・朝乃山なども店を訪れ、連日、満員御礼が続きました。
「かつて、相撲会場に閑古鳥が鳴いていたこともあったことを考えれば、今は夢のようです。後輩たちの活躍をチェックしながら、これからもいろいろなジャンルのお客様と交流していきたいですね」(重村さん)
「島人」で人懐っこい重村さんの人柄も、同店の人気の理由なのでしょう。
オーナーの重村さん(中央)
*今回訪れた相撲めしの店
『ちゃんこ重ノ海』
住所:福岡県福岡市春吉2-4-11 リヴィエールシャン1F 105号
電話:092-722-3700
営業時間:17:00~24:00
*本連載は月1回配信予定です。次回もお楽しみに!
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武田葉月(たけだ はづき) ノンフィクションライター。山形県山形市出身。出版社勤務を経て、現職。おもに、相撲の世界を中心に、取材、執筆活動をおこなっている。近著に『大相撲 想い出の名力士たち』(双葉文庫)、『横綱』(講談社)など。文芸誌『小説推理』(双葉社)で「ザ・大関 ~綱に手をかけた男たち~」連載中。 |