料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
34 湘南・藤沢
文と写真・山本益博
神奈川県藤沢までドライブ小旅行
今回は東京から藤沢への小さな旅です。東海道本線に乗れば、50分足らずで着いてしまいます。
一昔前、新幹線がない時代、熱海まで確か2時間ほどかかりました。横浜駅でシウマイ弁当を買い、車中でそれを広げながら、楽しい列車の旅ができました。ところが、新幹線ですとわずか40分、お酒を飲んでも、すぐに下車する用意を始めなくてはなりません。それもあって、熱海はかつての人気がなくなってしまったのですね。
ですから、今回は車で出かけることにしました。ナビを使えば、藤沢までのルートはすぐに出ますし、目指すホテルもすぐにわかります。道中、慌てることなく、心配することもなく、楽しくドライブすることができました。
ホテルは市内にあるできたばかりの「FUJISAWA HOTEL EN」。都市型リゾートホテルと言えばよいでしょうか。「安全・清潔・静寂」の3拍子揃ったコンパクトな宿です。ただし、ダイニングがありません。そこで、フロントでお薦めの店を聞き、藤沢駅近くの「臥薪」へ夕食を食べに出かけました。「臥薪」は料理屋ではなく、肴の美味い酒場と言えばいいでしょうか。イワシの塩焼き、カサゴの唐揚げなど、文句なしに美味かった!こういう店は、地元の方に伺わないと、絶対に見つけられない食べ物屋さんですね。
新鮮なカサゴの唐揚げ
「EN」には夕食のダイニングはないのですが、朝食は1階のフロント前のフロアで、セルフの食事がいただけます。
スープとサラダがとても健康的で美味しいものが揃っていました。
私たちが出かけた時のスープは「かぼちゃのスープ蜂蜜とシナモンの風味」「お豆と野菜のミネストローネ」。
サラダは「しらすと水菜のサラダ」「彩り野菜とピーナッツのサラダ・ミントの香り」「おかひじきと豆腐のサラダ」。
食材の質が良いばかりでなく、「しらすと水菜」「おかひじきと豆腐」のように組み合わせがお見事でした。天気が良かったので、テラスに出て、そよ風に吹かれながらの朝食は一瞬、都会を忘れる爽やかさでした。
質の良い食材の「EN」の朝食
妻の美穂子とテラスで朝食
2018年7月オープン。ヴァケーションホテル「FUJISAWA HOTEL EN」
朝食時にお友達になった方たちと、一緒にお昼をいただきましょう、ということになり、今度は、かつて出版された「ミシュラン」の湘南篇を開き、藤沢の店を探しました。この「ミシュラン」の湘南篇には、3つ星の日本料理店が1軒載っていて、出版されて間もなく出かけたことがあるのですが、昼食ということもあって、そばの「ひら井」に決めました。
これが、大当たりでした!
そば味噌、卵焼きなどをつまんだ後、もりそばを手繰りました。そばは夏にもかかわらず香りが高く、つゆはきりっとしまって、失礼ながら、とても藤沢のそば屋に思えません。さらに、「冷やかけ蕎麦」を注文すると、これがもり以上の逸品でした。最近、東京でも見かけないような真っ当な職人仕事を堪能して、家路につきました。
卵焼き
イチジクの酢味噌和え、豆腐の雲丹のせ、カツオの刺身の3種
香り高い「もりそば」
職人仕事の逸品「冷やかけ蕎麦」
上品な佇まいの「蕎麦ひら井」
次回は上海です。
*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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