ブーツの国の街角で

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#88

番外編:イタリアの秋の5大味覚と家庭料理 

文と写真・田島麻美

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秋も本番、美味しい季節がやってきた。欧州では新型コロナウイルスの感染が再爆発中で、夏の間はなんとか押さえ込んできたイタリアにも第二波が押し寄せてきている。春の教訓を肝に命じて慎重に生活しつつ、なんとか大惨事に至らずにこの冬が過ぎれくれますように、と祈るばかりだ。マスク着用と対人距離をしっかり守りつつ日常生活を続けているイタリアではあるが、各家庭の食卓は世の中のコロナ騒ぎとは無縁で、市場やスーパーにも旬の食材が続々と登場してきている。豊穣の秋は今年もちゃんとやってきて、それに釣られるように食欲の秋もちゃんとやってきた。一年で一番美味しいこの季節、みんなはどんなものを食べているのだろうと興味をそそられ、料理自慢の友達に「オタクの今夜のご飯の写真を送って!」と声をかけてみた。すると、レストランも顔負けの美味しそうな料理写真がいくつも送られてきた。食欲の秋満開の今、イタリアの食卓に頻繁に登場する旬の食材の特徴と、それを使った家庭料理の数々をご紹介しよう。
 

 

1・ズッカ(かぼちゃ)
 

秋の味覚の代表格であるかぼちゃは、抗酸化、抗炎症作用を持つカロチンを豊富に含んでいる。また、ビタミンAの生成を助けてくれる食材としても知られる。さらにカルシウム、カリウム、ナトリウムなど多くのミネラルやビタミンC、Eも含んでいるため、寒くなる前にこれらの豊富な栄養素を摂取することで風邪やインフルエンザなどに対抗できる強い体を作ることができるのだそうだ。日本でも秋の味覚としてお馴染みの野菜だが、イタリアのかぼちゃは種類がとても多い。スーパーでも最低4、5種類はおいてあるのが常で、それぞれ味や食感に大きな違いがある。かぼちゃは、そのままオーブンで焼いたりペースト状にしたり、リゾットやニョッキなどに入れて調理する。ケーキなどお菓子の材料としても重宝されているほか、かぼちゃの種も健康食材として人気だ。種をそのままスナックがわりに食べたり、パン生地に練り込んだりして使われている。
 

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細長いものは「バターナッツ」と呼ばれるかぼちゃ。水分が多いのでリゾットなどに使われる。緑のものは「マントヴァーナ」と呼ばれ、甘味が多く身がしまっていて日本のかぼちゃに一番近い。スライスして焼いたり揚げたり、ラヴィオリの具としても使われる。

 

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「モスカータ・ディ・プロヴァンス」別名「トンダ・ディ・ナポリ」とも呼ばれる大きなオレンジ色のかぼちゃ。一般的にイタリアで「かぼちゃ」というとこれが思い浮かぶ。身が柔らかく水分が多いので、リゾットやスープ、ポタージュなどに適している。

 

 

<ズッカを使った家庭料理>

 

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上から、「かぼちゃのリゾット」、「かぼちゃのニョッキとラディッキオ、サルヴィア風味」、「かぼちゃのラヴィオリ」
 

 

 

2・フンギ(きのこ)

 

森からもたらされる秋の恵みといえば「きのこ」。きのこも種類が非常に豊富な食材の一つで、この時期になるとマッシュルームやポルチーニ以外にも珍しいきのこがたくさん市場に出回る。イタリア人はきのこ好きが多いのだが、中でもフンギ・ポルチーニ(ポルチーニ茸)は乾燥物や瓶漬めの商品も多く、一年中食べられているほど愛されている食材である。日本で言われる「香り松茸、味しめじ」に相当するのがトリュフとポルチーニで、香りのトリュフに対して味はポルチーニが一番と言われ、別名「秋の王様」とも呼ばれている。きのこは一般的にビタミン含有量が多く、免疫システムを強化し、新陳代謝を良くすると同時に循環器系にも良い影響を与えると言われている。ポルチーニ茸はさらに良質なビタミンB3, C, B5を含み、ビタミンDも多いことからベジタリアンが不足しがちなタンパク質を補える食材としても定評がある。フレッシュなポルチーニ茸はとろっとした食感が病みつきになる美味しさで、採りたてを生で食べられるこの時期はイタリア各地で「ポルチーニ祭り」も開催されている。
 

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イタリアの秋の味覚の王様「ポルチーニ茸」。新鮮なものはそのままオリーヴオイルやバターで軽くソテーして食べるのが正解。
 

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イタリアの家庭で最も人気があるきのこ「ガレッティ(別名ガッリナッキオ)」。ビタミンB2,B3,B5,B6など、ビタミン類や鉄分も豊富。新陳代謝や免疫力を上げるのに非常に有効な食材として知られている。ニンニク、西洋パセリと合わせてパスタソースやソテーにして食べる。
 

 

<フンギ・ポルチーニを使った家庭料理>

 

 

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上から「生ポルチーニ茸のソテー」、「フェットゥチーネ・アイ・フンギ・ポルチーニ」、「ポルチーニ茸のリゾット」
 

 

 

 

3・カーヴォロ・ネーロ(黒キャベツ)

 

秋から冬にかけて食卓に登場する濃い緑の葉野菜「カーヴォロ・ネーロ」は、しばしば「ケール」と同類のスーパーフードとしてレシピ本などに紹介されている。トスカーナ地方を中心に、主に中央イタリアで食されている野菜で、黒に近い濃い緑色の大きな葉が特徴。非常に優れた抗酸化作用があり、ビタミンA、C、E、B、Kを多く含んでいる。また、カルシウムや鉄分も非常に豊富で、循環器系や心臓病などにも効果があると言われている。イタリアを始めポルトガル、スペイン、ブラジル、インドなどで栽培されていて、近年はその高い栄養素が注目され年々出荷量が増えている野菜だ。トスカーナ地方の郷土料理である「リボッリータ」という野菜と豆のスープに欠かせない食材として知られている。苦味が強いが、トマトなど酸味のある食材や塩味が強いサルシッチャなどと合わせると、相互作用でそれぞれの食材の味に深みがまして一層美味しくなる。
 

 

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スーパーフードとして年々人気が上がっているカーヴォロ・ネーロ。芯の部分は非常に硬いので、この部分は取って葉の部分を食べる。唐辛子や香辛料がたっぷり入った味の強いサルシッチャ(生ソーセージ)との相性は抜群。
 

 

<カーヴォロ・ネーロを使った家庭料理>

 

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トスカーナ地方の代表的な郷土料理「リボッリータ」は栄養価も美味しさもたっぷりのスープ(上)。我が家の秋の定番メニュー「カーヴォロ・ネーロとサルシッチャ炒め」。風味豊かなサルシッチャの肉汁が苦味のあるキャベツの葉にたっぷり浸み込み絶妙の美味しさ(下)。

 

 

 

 

4・ラディッキオ(イタリアンチコリ)

 

イタリア原産のチコリの一種である赤紫色の野菜ラディッキオ。別名イタリアンチコリとも呼ばれ、現在ではアメリカや日本など世界各地で入手できるようになった。ラディッキオは15世紀以降、北イタリアのヴェネト、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア、トレントなどを中心に本格的に栽培されるようになった野菜で、特にトレヴィーゾは産地として名高い。イタリアでは一年中食卓でお目にかかれる食材だが、旬の秋には珍しい種類のラディッキオも出回る。高血圧や便秘などを予防する健康食材として愛用され、またブルーベリーを超える抗酸化物質を含むためアンチエイジングの野菜としても名高い。血液の浄化や不眠、鎮静、鎮痛にも効果があると言われている。ビタミンB、C、E、K、カリウム、ナトリウム含有量が豊富。淡い苦味と微かな酸味が特徴で、サラダに入れて生で食べたり、グリルやリゾット、パスタと合わせたりと用途も豊富な食材だ。
 

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10種類以上のタイプがあるラディッキオだが、最も一般的で一年中手に入るのはキャベツのような丸い形をした「キオッジア」と呼ばれるもの。サラダの他様々な料理に使える。
 

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細長いラディッキオは「ラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾ」と呼ばれ、キオッジアと共にポピュラーな野菜。苦味が特に強いため生で食べるよりはオーブンやプライパンで焼いたり、黒オリーヴと一緒に炒めたりして食べるのが一般的。
 

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カールした穂先が特徴の「ラディッキオ・タルディーヴォ」はしゃりしゃりした歯応えとほのかな甘さが特徴で、ラディッキオの中でも高級品として知られる。軽くグリルすると美味しさが引き立つ。この他、赤い斑点の入ったものや淡い緑色のものなどたくさんの種類がある。
 

 

<ラディッキオを使った家庭料理>

 

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「ラディッキオ・トレヴィーゾとスペックのペンネ」。ラディッキオとスペックを炒めて赤ワインで軽く煮込んだソースはショート・パスタによく合う(上)。「ラディッキオ・キオッジアとスカモルツァのキッシュ」(下)。苦味の強いタイプのラディッキオは黒オリーヴ、クルミ、ゴルゴンゾーラ・チーズと相性が良い。これらの材料を合わせたキッシュやリゾットもラディッキオの定番レシピだ。
 

 

 

 

5・レンティッキエ(レンズ豆)

 

イタリア料理をはじめフランス料理、インド料理でも頻繁に使われている「レンズ豆(ヒラ豆)」。旧約聖書創世記にも登場するこの豆の歴史はとても古く、古代エジプトの遺跡からもレンズ豆が発見されている。小粒で平たい形をしているレンズ豆は栄養価が非常に高く、プロテインや炭水化物、鉄分、ビタミンB群を豊富に含んでいる。抗酸化作用があり、集中力、記憶力を助ける効果も大きいと言われている。プロテインが豊富に取れるため、ベジタリアンやビーガンにも愛用されている一方、グルテンフリーのためアレルギーがある人でも安心して食べられるというマルチな食材である。イタリアでは新年を迎えるための縁起担ぎとして大晦日にこの豆を食べる習慣があるが、これは古代ローマ時代、豆がお金になることを願って新年にレンズ豆が詰まったポーチを贈るという伝統があったことに由来する。オレンジ色、緑色、茶色など様々な色と大きさのレンズ豆があり、火の通りが早いため煮込み料理やスープなどの材料として使われている。
 

 

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イタリア各地で栽培されているレンティッキエだが、中でもカステルッチョ・ディ・ノルチアとヴィッラルバのレンティッキエは特に有名。緑がかった薄茶色が特徴。この他、鮮やかなオレンジ色や黄色、緑のレンティッキエもポピュラーな食材でどこのスーパーでも手に入る。
 

 

<レンティッキエを使った家庭料理>

 

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ベジタリアンの友人は挽肉の代わりにレンティッキエを使って「レンティッキエのラグー」を作りパスタに合わせている(上)。野菜をたっぷり入れてトマトソースと一緒に煮込んだ「レンティッキエ・イン・ウミド」は古くから庶民の間で食べられてきた伝統の家庭料理(下)
 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2020年11月12日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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