料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#60
第58回 東京・味の旅 新名所編編
文と写真・山本益博
東京、2020新たにオープンした料理店へ
コロナ禍にあって、東京で新たにお店をオープンした飲食店に足を運んでみました。
まずは、虎ノ門ヒルズの森ビルビジネスタワー3階に「虎ノ門横丁」が2か月遅れで、6月にオープンしました。3階のワンフロワに26店舗がひしめき合うという、「3密」?がテーマの飲食店街。
この中にあって、一番人気が、醤油を使わず、塩とオリーブオイルで鮨をいただく「イル・フリージオ」です。山形・鶴岡のイタリア料理店「アルケッチャーノ」のオーナーシェフ奥田政行さんが考案した全く新しいスタイルの握り鮨です。「イル・フリージオ」はユーモアのセンス抜群の奥田シェフが、「振り塩」をもじって名付けた店名です。
振り塩とオリーブオイルの握り鮨
虎ノ門ヒルズ「虎ノ門横丁」に
このビルの地下1階にも飲食店街があり、そのなかに「てんせんめん」という、担々麺専門店があります。「点・線・面」は、抽象絵画の祖ワシリー・カンディンスキーからヒントを得た店名です。いま、虎ノ門ヒルズは、コロナ禍にあっても連日、東京の新名所として賑わっています。
同じ時期に、奥田シェフは、銀座にも新店をオープンさせました。こちらも、寿司屋で、その名を「織音(おりおん)寿し」。オリーブオイルばかりか、ナッツや柑橘のオイルまで総動員して、鮨を握ります。すし種は、豊洲からの魚もありますが、奥田さんの地元庄内浜に上がった魚を存分に使います。太平洋の魚に比べ、日本海の魚は脂が少ないところから、オイルを使うことを思いついたのだそうです。
「織音寿し」のさば
ネタに合わせて様々なオイルが使われる
握り鮨のお供に、野菜のバーニャカウダが出てきたり、途中でアクアパッツァが出てきたり、何とも楽しいカウンター席の寿司屋です。
野菜のバーニャカウダ
奥田シェフと妻の美穂子と一緒に
もう1軒、6月初めに寿司屋が表参道に誕生しました。銀座「すきやばし次郎」で修業した岡崎亮さんが出した「鮨あお」です。
わずか6席のカウンター席で、夜のみ2回転、本格の江戸前握り鮨が堪能できます。「おまかせ」の最後に出てくるたまご、酢めしが伊達巻のように巻かれて出てきます。「次郎」では、見たことがない鮨です。これが、とても美味しい。
食べながら、小野二郎さんの「独立しても、習ったことだけしていては、見習いと同じ」という言葉を思い出しました。
「鮨あお」のしんいか
「鮨あお」のまぐろ
「鮨あお」のしんこ
ちょっと変わったところで、市ヶ谷の「とんかつ河むら」。
市ヶ谷は「とんかつ」の不毛地帯だったのですが、5月に開店したばかりの「河むら」は、ラードで揚げる本格派です。
ロースの脂身の溶けるような美味しさ、香り高いヒレ、どちらもお薦めです。じつは、とんかつ定食は、とんかつと同じくらいにご飯、味噌汁、お新香が大切です。これにもとても気を遣っているところが素晴らしい。
最後は、8月に日本橋室町の三井2号館にオープンしたスペイン料理の「aca」。京都・三条で予約が取れない店と評判だったレストランが、京都の店を閉めて、東京へ進出してきました。東海道五十三次は、日本橋で始まり、京都三条が終点です。その「上り」篇とでもいえばよろしいでしょうか。店は、なんと日本銀行の向かいのビルの1階にあります。
スペイン名物の料理がおまかせで並び、最後は、炭火焼きのヒレか薪焼きのサーロインのステーキで締めくくり。私が出かけた晩のご飯は、毛蟹のパエリャでした。これが、うまいの、なんの!
パンコントマテいわし
山形牛ヒレ炭火焼き
毛蟹のパエリャ
次回は「東京・スナック軽食篇」です。
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*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。山本益博さんの公式HPが新しくなりました! https://www.masuhiroyamamoto.com |