ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#60

おちゃらか第3章始めました 古き良きまち人形町から

ステファン・ダントン 

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オフィス街の地下店舗から下町の路面店へ

 

 

 

 2020年のコロナ禍は、おちゃらかのような弱小小売店にとんでもない打撃を与えた。春から夏にかけて、私はこの災厄を乗り越え、新たな物語をスタートさせようと奮闘していた。

 

 「ずっと練り続けていた『東京の下町の路地から日本茶のよさを発信する』というプランの実現が少々早まるだけだ」と自分にいい聞かせながら資金繰りに奔走し、旧店舗からの退去交渉や新店舗の物件契約を着々と進めていった。

 

 旧店舗のあったCOREDO室町は、周辺の大企業に勤めるビジネスマンやホテルに宿泊する外国人観光客の来店が多く、吉祥寺とは違う客層にアプローチできた。面積も広く、茶農家を招いてイベントをするのにも便利だった。ただ、店はオフィス街の地下にあったから、生活の匂いもその日の天気も空気の匂いも感じられない。商店街で育った私の気持ちを窮屈にさせていたのも事実だ。早く地上に出たかった。商店街のお茶屋さんに戻りたかった。

 

 古き良きまち人形町に理想的な物件が見つかったのは5月中旬。住宅と商店が混在する小さな社に守られた昔ながらのコミュニティ。大通りから1本入った路地に面する手ごろな広さの物件は、私の思い描く「おちゃらか」らしい店作りにぴったりだった。

 

 大家さんも「おちゃらかのコンセプト」に共感してくれて、契約は意外なほどスムーズにまとまった。早速「6月中旬を目処に日本橋人形町二丁目に路面店をオープンする」と発表したのだが……。

 

 

_MG_1886細い路地を入ると居酒屋などの飲食店がひしめき合う人形町。

 

_MG_1834着物姿の人が行き交う下町情緒漂う一角に店(写真の左側)を構えた。外装は看板を出しただけで、まだ途中段階。

 

 

 新店舗オープンは自らの手で 

 

 

 旧店舗の退去・移転費用や新店舗の保証金、そして内装費用などを捻出するには、ぎりぎりの予算を組んでいた。ところが、あてにしていた入金が滞り、保証金の支払いができない。

 

 大家さんは「先に鍵を渡すから内装を始めてもいいのよ。保証金はこのご時世だから気長に待つわ」といってくれた。でも、そうはいかない。金策に走り回った。「おちゃらかの再開を期待している」と助けてくれる人が現れた。ありがたかった。おかげさまで6月末には正式契約を済ませられた。次は新店舗の内装だ。

 

 空っぽのオフィス用物件を店舗に改装する。店舗の図面を初めて見たときから内装のプランを練り、頭の中でイメージをふくらませ、すでにラフな設計図はでき上がっていた。

 

 普通は内装業者に工事を依頼するところだろう。だが、そんな時間はなかった。業者に私のイメージを伝え、形にするには最短でも2カ月はかかる。それ以前に、私の手元には数十万円しかない。

 

 それなら自分の手で内装工事をやればいい。お仕着せではなく、自らの愛情が込もった店を作るんだ。オープンの日付は縁起をかついで「一粒万倍日」の7月26日に決めた。予算は20万円。

 

 自分で描いた設計図に従って、床材や壁の下地板、塗料、和紙などを最低コストで買い揃える。実際に工事を始めたのは7月10日。工期は2週間。大急ぎだ。毎日店に通い(時には泊まり込んで)ほぼ1人で作業を進めた。

 

 朝から晩まで作業をしていると、路地を行き交う人の流れがよくわかる。朝、近所の人が出かけていく。ビジネスマンがオフィスに通ってくる。日が暮れると近所の居酒屋から料理の匂いと賑やかな声が聞こえてくる。

 

 「このまちに似合う店、ここにずっとあったような店を作るんだ」

 

 そんなふうに思いながら工事を進める一方で、行き交う人に「こんにちは。今度ここでお茶屋さんをやるから、でき上がったら見にきてね」と声をかける。徐々に顔なじみが増えてくる。休憩中に近所の人が町内会のことやまちの年中行事、ごみの出し方などを教えてくれる。心強く思いながら手を動かす。楽しい2週間だった。

 

工事中の店の様子
工事中の店の様子。 

 

壁に漆喰を塗る私
壁に漆喰を自分で塗る。

 

まちに溶け込んでいく「おちゃらか」
 

 

  7月26日、まだ完全とはいえないが、なんとか形になった店に、ずっと一緒にがんばってきたスタッフを迎える。新しい店のシャッターを開け「新生おちゃらかの誕生だ。この歴史あるすてきなまちで腰を落ち着けて、これから20年続く店を作っていく」と心の中でつぶやいた。

 

お店の前オープン1カ月後の店頭でまちの匂いをかぐ。

 

_MG_1792まだ雑然とした店内でお茶の支度をする。

 

 再オープンからはや3カ月余りたった現在も、少しずつ店内を整え、外観もまちの風景になじむよう進化させている。

 

 朝、店の前の路地に出て大きく息を吸う。カモメの声が聞こえる。海が近い。近所の人が行き交う。「おはよう!今日もがんばってるね」と声を掛け合う。今日も古き良きまち人形町の「個性的な日本茶店」の1日が始まる。幸せだ。

 

 第3章をスタートしたおちゃらかが進化していく様子をみなさんにも見てほしい。どんな物語が展開していくかは乞うご期待。よかったら人形町に足を運んでみてください。とても素敵なまちだから。

 

 

おちゃらかHP(オンラインションップ併設)はこちら

https://www.ocharaka.co.jp/

 

【新店舗】

東京都中央区日本橋人形町2-7-16 関根ビル1F

(東京メトロ日比谷線、都営浅草線「人形町」駅 A3出口)

 

 

おちゃらかチャンネル(YouTube)はじめました。

https://www.youtube.com/channel/UCG4PQoefB5qCe_1lQTKM6Tg

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。お楽しみに! 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。2020年人形町に新店舗オープン。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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