究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#53

「日本の中にある外国」を旅する〈3〉大泉

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 海外旅行が難しいいま、少しでも旅気分を楽しもうと、日本国内の外国人コミュニティに出かける人が増えている。とくに群馬県の大泉町はブラジルからの移民が多く、街はラテンの雰囲気で、まさしく異国気分。本格グルメを味わい、中南米の食材店を巡ってみよう。

 

ローカル線の終着駅はブラジルだった

 東武鉄道・館林駅のすみっこにある小泉線のホームに、2両編成の列車が入ってきた。都心から離れて、こうした短編成のローカル線を見ると、少し和む。旅に出てきたんだなあという気分になってくる。
 しかしその車内は、群馬県の片田舎とは思えない雰囲気なのであった。ぱらぱらと座っているマスク姿の乗客のほとんどが、若い外国人だ。中南米の人々だろうか。南アジアの顔立ちも見るし、ベトナム語らしき会話も聞こえる。日本人はむしろ少ない。
 昼どきは1時間にわずか1~2本の列車が館林駅を出発すると、すぐに市街地を抜けて、のどかな田畑と住宅の中を走っていく。のんびりとした空気だった。
 20分ほどの旅で終点の西小泉駅に着くと、駅舎はイエローとグリーンを基調にしたド派手なブラジル・カラーなのであった。あちこちにポルトガル語の表記もある。ここ大泉町はブラジル人を中心とした外国人が人口の約2割を占める街なのだ。

 

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とても駅には見えない西小泉駅のカラーリング

 

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駅内の表示も多言語で、デザインもブラジルを意識している

 

日本の街並みにラテンが溶け込んでいる

 駅前では列車から降りて来た友達を「オラ~」なんて挨拶しながら陽気に出迎える人たちもいて、さっそくラテンな感じだ。自転車に乗っている浅黒い肌の子供たちが行きかう。そこにポルトガル語と日本語混じりで声をかけている母親。
 駅頭にまず立っているのはコンビニでも日本の商店でもなく、中南米食材のスーパーマーケットだ。大通り沿いには、ポルトガル語を掲げた中古車屋、送金会社、ビザ関連の会社……そんな店が立ち並ぶ。異国感というか、どこの国にいるのかわからなくなってくるが、住宅街の中に入っていけばさらに面白い。ベビーカーを押した外国人の家族連れが楽しそうに歩き、「入居者募集」の貼り紙も多言語だ。コインランドリーもなんだか明るい南国チックなデザインになっていた。
 もちろん日本のごく普通の住居、役所や店などもたくさんあるのだが、そんな日本の街並みの中に、外国の文化がうまいこと風景の中に溶け込み、すっかり融和している。そういう印象を受けた。
 というのも大泉町は、およそ30年に渡って外国人を受け入れてきた長い歴史を持っているのだ。

 

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駅前にある年季の入った感じのブラジル食材店

 

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ドラマ『孤独のグルメ Season2』に登場したレストランも発見

 

労働力として日系人を受け入れてきた歴史

 大泉は、ここ西小泉駅から北に歩けばすぐスバルの工場が、南にはパナソニックの工場があるなど製造業の街として栄えてきた。こうした工業地帯はバブルの頃、どこも人手不足に悩み、外国人の労働力に頼る動きが広がったことがある。北関東ではパキスタンやイランなど、中東・南アジアの人々が目立つようになっていくが、大泉では「日系人」に着目した。
 1990年に出入国管理法が改正され、国外に住む日系人が日本に定住できるようになったのだ。そこで地元企業が協力し、日系人が多く住むブラジルで求人活動を行ったところ、おおぜいの人々がはるか南米からやってきたというわけだ。
 そんな歴史を、駅からも近いブラジリアン・プラザの「日本定住資料館」で見学することができる。街では日本の祭りだけでなくブラジルのフェスタも催されるし(今年はコロナのため中止)、観光協会では「インターナショナルタウン」を売りにしてさまざまな取り組みも行われている。
 いまや日本の各地に、外国人コミュニティが点在する時代になっているが、自治体が国際性を観光資産として売り出し、アピールしているのはなかなか珍しいように思う。

 

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集会場などとして使われるブラジリアン・プラザの中「日本定住資料館」がある

 

ブラジルだけじゃない、多国籍な街

 観光協会のサイトからダウンロードした街歩きマップを手に、散歩してみる。街を東西に貫く国道142号線と、そこから北に伸びるグリーンロード商店街は、まさにリトルブラジルだ。食材店、美容室、中南米の作品を売っているDVDショップ、カトリックの教会もふたつ見た。ドラマ『孤独のグルメ』に登場したブラジル料理店も通りがかる。タトゥーの店がいくつもあるのはお国柄だろうが、年配の日本人には抵抗感があるかもしれない。
 そして意外だったのは、ブラジル以外の国々も存在感を放っているということだ。ネパールの食材店やレストラン、タイマッサージ、ハラルショップ、ケバブ屋、さらにカンボジアのレストランまである。
 街はブラジル人たちが住むことで外国人が暮らしやすく商売のしやすい環境が整えられていったが、彼らが作ってきた土台の上に、ほかの国の人々も生活するようになってきているのだ。とくにネパール人、ベトナム人、フィリピン人が多いという。
 これは東京・新大久保とよく似ている。新大久保の場合は韓国人たちが住むようになって、外国人を受け入れる素地が形成されていった。そこを活用する形で、いま東南アジアや南アジア、中近東の人々も急増している。同じ現象が起きている大泉は、北関東屈指の多民族集住都市になりつつある。

 

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カンボジア料理店、タイマッサージ、ケバブ屋がひとつの建物に。これが大泉だ

 

スーパーマーケットが最高に面白い!

 駅から歩ける範囲に、ブラジル系の大型スーパーが3軒。これが格好の「観光地」なのだ。
 広々とした店内でとにかく目立つのは中南米の人々の主食のマメだ。ブラジル産だけでなく、ペルー産、アメリカ産、カナダ産……日本人には区別がつかない多種多様な豆が並ぶ。
 そして必ずあるのは精肉コーナーで、商店街の肉屋のように客と店員がなにやら笑い合って、こだわりの部位を好きな量、買い求めていく。骨付き、煮込み用のスジや内臓など日本人があまり使わない部位も豊富だし、ソーセージやベーコン、サラミといった加工肉も実に多彩。肉に対する南米人の情熱を見る思いだ。ソーセージあたりはお土産にちょうどいいかもしれない。
 ほかにもしっかりしたベーカリーからおいしそうな匂いが漂ってくるし、現地のお菓子や調味料、ドリンク、野菜や果物などもたくさんある。まさにメルカド(市場)なのだ。
 そしてどの店でも、店員がやたらにフレンドリーで、満面の笑みを見せてくれる。お客が抱いている赤ちゃんを全力であやしているパン屋のおじさん、荷物カゴいっぱいに買い物している人にさっと駆け寄ってレジまで持っていく女性の店員、目が合うととりあえず笑顔を見せる人々。奥ゆかしい日本人と違って、ストレートに気持ちを表現する文化が、大泉にはある。

 

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こうした大型スーパーが3軒ほど近接していて巡り歩くのが楽しい

 

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異国の市場にいる気分になってくるブラジルスーパー

 

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太モモくらいある巨大ハムも売られているなど肉類はとにかく種類豊富

 

ペルー料理もおいしい

 大泉ではもちろんブラジル料理を、と思っていたのだが、街歩きマップを見ていたら数軒あるペルーの店も気になった。ペルーから来た日系人もたくさん住んでいるのだ。
「タクタク」という店に入ると、もとはラーメン屋で居抜きで借りたと思しき佇まい。カウンターに置かれたドリンクサーバーにはなにやら黒い液体が入っているが、
「チチャモラーダだよ、飲んでみる?」
 と店主のおじさん。紫トウモロコシからつくったアンデス名物のジュースだ。ほかにおすすめだという「フレホン・コン・セコ」を注文。やがて運ばれてきた料理には、
「ペルーの豆がたっぷり使われているんだ。この豆はペルーでしか使われていないんだけど、いまじゃブラジル人にも大人気」
 なのだという。その豆の煮込みと、ごろごろ大きな牛肉の煮込みにサラダがつく。山盛りのライスに、肉も豆もよく合う。
「カレーソースちょっとかけると辛くていいよ」
 と差し出してくれた特製の調味料で味を変えつつ楽しんだ。

 

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「フレホン・コン・セコ」1400円。ちょっと高いが味はばっちり、ボリュームたっぷり

 

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ペルー名物のインカコーラも大泉のスーパーで手に入る

 

Go Toを使って泊りがけで行っても?

 都内から半日ほどの小旅行で、ブラジルのみならず海外気分が楽しめる大泉だが、街には「エンペラー」というビジネスホテルがあり、予約サイトにもよるが1泊5000円前後で「Go To トラベル」にも対応。泊まりで行ってみるのも楽しそうだと思った。というのも街にはバーがいくつもあり、フィリピンのパブもちらほら見かけるのだ。夜に飲み歩くのも面白そうだ。

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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