料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#47
パリのフォアグラと お鮨とホテル朝食
文と写真・山本益博
「ブラッスリー・リップ」のフォアグラ、
素敵な寿司屋「SUSHI-B」のにぎり、
「ホテル・ル・ブリストル」のクロワッサン
今から46年前、1973年10月21日、生まれて初めてヨーロッパへ旅立ち、アムステルダム経由で、パリの地に着きました。25歳の時でした。
その晩、出かけて行った店が、サンジェルマン・デ・プレにある「ブラッスリー・リップ」でした。「ブラッスリー」とはビール醸造所が語源で、アルザス地方の料理が売り物の高級食堂と言ったところです。
なぜ、この店を選んだかというと、当時のわたしは日本からレストランの予約するすべを知らず、もちろんクレジットカードなどは持っておらず、パリに着いた当日は、いわゆる「ミシュラン」の星付きレストランへは出かけられなかったのです。もう一つの理由は、フランスへ出かけて最初に食べるのは「フォアグラ」と決めていて、「ブラッスリー・リップ」ならば、フォアグラの産地として有名なアルザスは「ストラスブールのフォアグラ」があるに違いないと、見当をつけていたからでした。
ホテルからメトロを乗り継いで、サンジェルマン・デ・プレに着くと、大通りに面してある「リップ」はすぐに見つかりました。2階の席に案内され、手渡されたメニューを見ると、「ストラスブール産のフォアグラ」がありました。これを前菜に取り、主菜には「ソール・ムニエル(舌平目のムニエル)」を選び、パリで食べる本物のフランス料理に舌鼓を打ちました。フォアグラの持ち味は、鵞鳥の脂の香りだったのですね。それまで、日本で食べていたフォアグラは缶詰や陶器に詰められていて、酸化したフォアグラだったのでした。
これがどうして「世界の三大珍味」と不思議でしょうがなかったのですが、本物に出会うと、いっぺんに謎が解けるのでした。
「ブラッスリー・リップ」外観
「ブラッスリー・リップ」店内
お刺身
鮪のにぎり
鯵のにぎり
「ル・ブリストル」の朝食
クロワッサン
次回は、上海です。
*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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