料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
#41
ベルギー・ゲント
文と写真・山本益博
魅力的なベルギー料理を展開している
ゲントの「シャンブル・セパレ」へ
じつは、ベルギーの料理、といってもフランス料理ですが、そのレベルは非常に高く、1980年代のブリュッセルの「コム・シェ・ソワ」90年代のブルージュの「カルメリアート」近年の同じくブルージュの「ヘルトン・ヤン」ゲント近郊の「ホフ・ヴァン・クレーヴ」はフランスの最上級の料理に引けを取りません。
ブリュッセルのグランプラス大広場
そんな中にあって、フランス料理をベースに魅力的な料理を展開しているのが、ゲントの「シャンブル・セパレ」です。
数年前まで、フランス国境近くの田舎で「イン・デ・ウルフ」というレストランを開いていたのですが、ある事情で店を閉めざるをえなくなり、都会のゲントに店を移転しました。
ゲントは、ベルギー首都ブリュッセルと名勝地ブルージュのほぼ中間に位置する街です。
店は大きなビルの1階角にあって、「別れた部屋」を意味する店名は、天上の高い大きな1部屋をカーテンで仕切ったところからつけられています。まずは、アペリティフをいただくスペースで店の空気を感じ取ったところで、オープンキッチンのコの字型のカウンター席に案内されます。
厨房の様子
キッチン内には薪のくべられた釜があり、正面の壁面は炭火焼きの上下可動できる鉄の網台が5つ並んでいます。食材のほとんどの火入りをこれで行い調理します。カウンター席から料理人たちが調理する姿の一挙手一投足が目の当たりにでき、これが食事の楽しさを倍増してくれるんですね。
シェフのKobeDesramaultsさんは寡黙でほとんど指示を出しませんが、スタッフたちがチームワークよろしく、実に有機的に動きます。その彼らが、料理を運び、カウンターの目の前で料理の説明をしてくれます。牡蠣や帆立、マテ貝、ポロ葱、牛蒡、ほうれん草など地元の野菜、鮮度の高い平目、野鴨等々。すべてが野味にあふれ、それでいて味わいは洗練されていて、不思議な調和のとれた料理です。
オマールエビとチェリートマト
デザートになると、洋梨とベルガモット、ブラッドオレンジとアンディーブといった具合に、一見奇妙な組み合わせが、口の中で新世界に変わる面白さがあります。現在、ミシュランで1つ星ですが、2つ星が射程距離にある食べどきのレストランと言ってよいでしょう。
メロン
私は、すでに、2回もこの店に出かけているのですが、宿泊はホテル「カステルヌー」が安価で快適です。また、昼はブリュッセルまで足を延ばし、かのヴィクトル・ユーゴーが世界で最も美しい広場と絶賛したグラン・プラスへ出て、その後ブリュッセル名物のムール貝を山ほど食べるのもよし、同じくベルギー名物ワッフルが食べたかったら、広場近くの「ダンドワ」がお薦めです。この「ダンドワ」本店の近くに「小便小僧」の像があります。あまりに小さいので、皆さん拍子抜けするようです。コペンハーゲンの「人魚姫」と並んで、世界三大「ガッカリ」像だそうですが、あとの一つはどこの何でしょうか?
「ダンドワ」のワッフル
ブリュッセルでなく、ブルージュへ出かけるのも楽しいです。わが家族はブルージュが大好きです。オードリーヘップバーンの映画「尼僧物語」の舞台になったベギン会修道院ほか、見どころ満載ですが、ミケランジェロの「聖母子像」は必見です。
そして、お土産はレースの編み物が有名ですが、それに負けじとチョコレート屋さんが並んでいます。日本にも進出している「ピエール・マルコリーニ」がお薦めです。
「ピエール・マルコリーニ」
次回は、中国・杭州です。
<インフォメーション>
「Masuhiro Juk」-未来への教室-案内
料理人、職人さんから「料理哲学」を学ぶ小さな塾です。
VOL.0「傳」長谷川在佑 x 山本益博
開催日:2019年5月5日(日)14:00 (開場13:30)-16:00
会場 :ENEKO Tokyo https://eneko.tokyo/
会費: 5000円 (茶菓子付き)
※詳細は以下
*この連載は毎月25日に更新です。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。
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