アジアは今日も薄曇り

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#31

沖縄の離島、路線バスの旅〈20〉伊江島(2)

文と写真・下川裕治 

伊江港から終点まで

 

 沖縄の離島。そこを走る路線バスを制覇する旅も、そろそろ終盤にさしかかってきた。残るのは沖縄本島周辺の島々。定期運行というかたちで路線バスを運行させているのは、座間味島、伊江島、伊是名島、粟国島の4島である。

 前回、座間味島の路線バスに乗った。続いて伊江島に向かった。

 伊江島の路線バスは単純だった。伊江港と真謝入口の間を単純往復しているだけだった。これはありがたかった。伊江港からバスに乗り、なにも考えずに、ぼんやり座席に座っていれば終点に着く。時刻表を見ると、終点の真謝入口では停車時間がない。すぐに発車するわけだ。つまりただ乗っているだけで伊江港に戻ってくる。

 これまで便によって別の道を走ったり、1日に1便だけが走る盲腸路線があったりと、全路線を乗りつぶす苦労を重ねてきた。バスを運行する会社や行政にしたら、島の人々が利用しやすいようにとの配慮なのだろうが、それはバス路線のラビリンスに入り込んでいる節すらあった。そんな迷路から一気に解放されたのが伊江島だった。

 

フェリーが伊江島に近づいていく。前日まで台風で欠航していた

 

 伊江島のバスの運行スケジュールは、フェリーの到着時刻に合わせられていた。フェリーを降りると、港のバス停にマイクロバス型のバスが停車していた。急いで乗り込むと、すでに10人近い乗客がいて少し戸惑ってしまった。

 これまで離島で乗ってきたバスの多くは、僕らだけを乗せて出発することが多かった。ほかの乗客がいてもひとりかふたり……。そんな寂しいバスだったのだが、伊江島のバスはしっかりと機能していた。港までの船の設備もよかった。伊江島という島は、本島周辺の離島のなかでは格がひとつ上のようにも映った。

 しかし乗客は4つ目のバス停である診療所前、5つ目の役場前でほとんどが降りてしまった。残ったのは僕ら以外に、島の老夫婦がひと組。これまでと同じ離島のバスに戻ってしまった。

 島の中心街を抜けると畑が広がりはじめた。伊江島はほかの離島に比べると平地が多い。それはひとつの悲劇も生んでいたが、どこか恵まれた地形という空気は伝わってくる。紅イモの産地を示す看板も出ていた。

 ほどなくして老夫婦も降り、いつもの貸し切り状態になった。バスは道幅が狭い島の道を進んでいく。

 乗り込む人がいる気配ではなかったが、バスは団結道場前で停まった。おじさん運転手にはこう伝えていた。

「終点まで行って、また港に戻ってきますから」

 運転手はわかったようなわからないような面もちだった。

「このバスは真謝入口まで行って、またここに戻ってきます。その間にここを見学したらどうです? せっかく伊江島まできたんですから」

 同行するカメラマンのことも考えた。バスに乗りっぱなしではなかなか写真も撮れない。

「ここでいったん降りようか」

 と腰を浮かせて、ミッションを思いだした。僕らは島のバス路線を走破するためにきているのだ。ここで降りてしまうと、団結道場前と真謝入口の間が未乗車になってしまう。

「すいません。バス路線を乗りつぶす目的できているもので……。ここで降りてしまうと乗っていない区間が残ってしまうんです」

 なんと酔狂な旅……と運転手は思ったかもしれないが仕方ない。

 バスは再び発車した。

 車窓を見ながら、運転手さんは団結道場を見てほしかったのかもしれないと思った。

 団結道場──。

 伊江島にはアメリカ軍の訓練飛行場がある。それに対し、島の人々は反対運動を続けている。その拠点が団結道場だった。伊江島は沖縄のなかの基地反対闘争の拠点でもあった。

 太平洋戦争が終わり、沖縄を占領したアメリカは、沖縄の土地を次々に接収していった。十分な補償もないまま、土地が奪われていった。伊江島の人々は生活をかけ、琉球政府の前に座り込み、国際通りをデモ行進した。次々に出る逮捕者。しかし畑は次々に演習場に姿を変えていった。

 島の人々の基地反対闘争はまだ終わっていない。島の人々は粘り強く運動を続けている。アメリカ軍との根競べなのだ。

 バスに乗って団結道場を通る僕らの脳裡にその闘いを刻み込んでほしかったのに違いない。

 コロナ禍で島の滞在時間を短くしようとしていた。それが悔やまれた。

 バスは真謝入口で折り返し、再び団結道場の前を通って港に着いた。港は雨交じりの冷たい風が吹いていた。

 

 

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バスに県の職員が3人。保冷バッグをもっていた。新型コロナウイルスの検査キット?

 

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伊江島に向かうフェリーには売店もあった。離島航路のフェリーに何回か乗ったが売店がある船ははじめてだった

 

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(次回に続く)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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