アジアは今日も薄曇り

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#27

沖縄の離島、路線バスの旅〈16〉石垣島(3)

文と写真・下川裕治 

路線バスで島内案内

 石垣島にはまだ未乗車路線は残っていたが、与那国島に向かった。石垣島と与那国島を結ぶフェリーは、週に2往復しかなかった。日程的に乗らざるをえなかった。

 与那国島に1泊し、フェリーで戻ると、すぐに石垣島のバスに乗りはじめた。

 1番と路線番号が振られた川原線に乗った。バスターミナル発が、朝の7時20分と17時40分の2本という、通勤・通学用の路線だった。日曜や休日は運休になる。路線は途中まで空港に向かう道を走り、途中から於茂登岳の山麓に広がる農村地帯に入っていく。

 17時40分発のバスに乗った。通勤・通学の客に合わせたスケジュールを組んでいたが、乗客は僕と中田浩資カメラマンだけだった。

 僕らの存在は、東運輸の運転手の間で知れ渡っているようだった。バスが発車すると、運転手さんはすぐに、マイクを使って島やバスの案内をしてくれた。

「川原線はわが社のバス路線のなかでもかなりの赤字路線です」

 訊きもしないのに、そんな説明もしてくれた。これまで石垣島のバスの8路線を乗っていた。赤字であることは素人目にもわかる。ほかの島より乗客数は若干多い気がするが、それはあまりに安いフリーパスの効果のようにも映る。そのなかでも川原線は……。

 折り返しの川原周辺にはパイナップル畑が広がっていた。歩道にはパイナップル販売所があった。1個50円。安すぎる価格にパイナップル農家のいまが伝わってくる。

 バスターミナルに戻るバスには、ぽつり、ぽつりと客が乗り込んできた。フリーパスではなく料金を払っている。

「市街地の飲み会にいく人たちです」

 運転手はマイクを使って解説してくれる。これから飲み会にいく人にはいらぬお節介にも聞こえる島内案内である。

 沖縄でも飲酒運転のとり締まりは厳しい。飲み会に出ると、自分の車を運転して帰ることができないのだ。夕方の通勤・通学バスはそんなふうに使われていた。

 

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バスターミナル。最後にフリーパスを追加で買った

 

 翌日は平野線に乗った。空港に寄り、伊原間を通り、さらに北上していく。石垣島の最北端に近い平野まで1時間20分近く走り続ける。伊原間までは乗っていたが、その先の30分ほどの路線は未乗車だった。

 伊原間をすぎると家も減り、牧場が多くなってくる。そこに牛が放牧されていた。35年前、はじめての沖縄で伊原間に滞在したことは前回触れている。そのときは石垣島からフェリーで那覇に向かった。甲板は200~300頭の牛で埋まっていた。牛たちには折り重なるように乗せられていた。夜になってもフェリーのなかは牛の鳴き声が響いていた。

 あの頃、沖縄は牛を育てる場所だった。ある程度まで育つと本土に送られ、松坂牛や神戸牛に変身していった。それをなんとか沖縄の牛として売り出したい。畜産農家や県の模索は続いたという。そうしなくては、沖縄の畜産農家は貧困から脱却できなかったのだ。

 そこで生まれたブランドが石垣牛だった。

 今回、石垣島に滞在し、焼き肉屋の多さに圧倒されていた。繁華街はまるで焼き肉通りだった。60歳をすぎると、焼き肉というものになかなか食指が動かない。しかし若者たちは次々に焼き肉店に吸い込まれていく。

「1回ぐらい食べないとなぁ」

 一軒の沖縄料理店に入ると、魚のマース煮やオータニワタリの天ぷらに並んで石垣牛の寿司があった。マースというのは塩のこと。醤油があまり普及しなかった沖縄では、魚を塩と出しで煮る調理法が一般的だった。オータニワタリはシダに似た植物でその食感が石垣島では知られていた。

 石垣牛の寿司を頼んでみた。1貫250円。この安さは魅力だった。

 地産地消……。石垣牛というブランドをたちあげた後は、この努力が待っていた。そして石垣島に焼き肉屋通りが出現していく。その作戦は成功しているようにも見える。沖縄はそれなりに進化しているわけだ。

 バスが終点の平野に着いた。ちょうど昼どきだった。近くの売店で弁当でも……と思い、周囲を歩いてみたが、店というものが1軒もなかった。移動販売のメロディーが耳に届き、その方向に行ってみたが、次の集落に向かった後だった。

 することもなく、バス停でぼんやりする。なぜか知らないが、平野のバス停にはソファーセットまで置かれていた。きっと涼しくなった夕方、集落の人がここに集まり、ゆんたくと沖縄でいわれる世間話をはじめるのかもしれない。平野には皆が気楽に集まる場所はバス停しかないということか。

 1日2往復のバスにはそんな役割があった。

 

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石垣島の北端に近い平野のバス停付近。なにもありません

 

(次回に続く)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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