究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本
#15
ロシア・ウラジオストク旅行術〈1〉事前準備について
文と写真・来生杏太郎
宮殿を思わせる駅舎の待合室を通り抜け、石造りの階段を下ると切符売り場にたどり着く。窓口は六つあるが人はまばらだ。壁に掲げられた路線図には、キリル文字ではるか西のモスクワ、サンクトペテルブルクまでもが記されている。その気になれば新大阪に向かうような手軽さで、氷原を駆け抜け、ウラル山脈を越えたシベリアの彼方、9,288キロ先モスクワへの切符を手にできる。
バックパッカーなら一度は夢見るシベリア鉄道の終着点がこの街なのだ。
だが、長旅をしていたころならともかく、堅気に戻った今それはかなわない。想いを押しとどめ、駅をあとにした。
ウラジオストク旅行が熱い。「2時間でいけるヨーロッパ」への注目が高まりつつある。極東ロシア訪問の電子ビザ申請が可能になったことを受け、あの『地球の歩き方』もウラジオストク単独のガイドブックをリリースしている。
ウラジオストクへは2016年の11月に中国の延辺朝鮮族自治州から陸路で、2018年の10月にはハバロフスク、ユジノサハリンスクと併せて旅をしてきた。私の2度の訪問をもとにウラジオストク個人旅行をレポートする。
ビザ電子ビザか、通常の観光ビザか
ウラジオストク訪問での電子ビザが申請が可能になったとはいえ、いくつか注意すべきことがある。この電子ビザは沿海州のみ有効なので、併せてハバロフスクなども行くなら通常の観光ビザ申請が必要だ。
2018年8月からはハバロフスク、ユジノサハリンスク訪問も電子ビザ申請の対象になったが、これらの州をまたぐ旅でも同様に観光ビザを用意しておかなければならない。有効期限は、入国日を起算日として8日目の23時59分。
電子ビザについては、導入から間もないためか、トラブルが発生しているようだ。日本大使館が注意喚起をしているので目を通しておきたい。
https://www.vladivostok.ru.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000260.html
少しでも不安があるのなら、観光ビザを用意しておくほうが賢明だ。幸い、日本ではロシアビザが取りやすい。平日が休みになる仕事をしているならば自力での手配をお勧めしたい。用意するものは、ロシアの旅行代理店が発行するバウチャー。
このバウチャーを取得してから、ロシア外務省領事局の専用サイト https://visa.kdmid.ru で必要事項入力を行い、申請書を印刷して広尾のロシア大使館に持っていく。1日の受付件数に上限があるとの情報もある。ハイシーズンである夏は窓口が大変混み合うのであさイチでの申請をおすすめする。
バウチャーの手配を受けつけるロシアの代理店は複数あるが、私が過去2回のロシア訪問で利用したのはこのサイトだ。
https://www.travelrussia.su/en/
TOPページから、TOURIST INVITATION→ORDER AN INVITATIONとたどると申請ページに入れる。シングルエントリーが14.05ドル。申請フォームを記入して、クレジットカードで代金を支払うと数分でバウチャーがダウンロードできる。
申請と受け取りの2度、大使館に足を運ぶ必要があるため、平日休みが取れない場合はバウチャーだけ取得してビザ代行業者にまかせる方法もある。
ヨーロッパ調の街並みと日本からたったの2時間で出会える
航空券は3~4万円程度で見つかる
スカイスキャナーで成田-ウラジオストク直行便を検索するとS7航空がヒットすることが多いが、予約クラスによっては預け荷物が有料となる。私が予約した航空券はアエロフロート発券のコードシェア便だったので、無料で預けられた。決済前に手荷物条件を十分に確認しておきたい。
なお、極東へのフライトを探していたらウラジオストク単純往復が4万5000円なのに、成田-ハバロフスク-ユジノサハリンスク-ウラジオストク-成田の周遊ルートで検索したところ、なぜか3万9500円と割安だった。今回はこの極東周遊コースでウラジオ入りした。先に述べたとおり、この場合は観光ビザの事前取得は必須である。
格安ホテルは3000円ほど
ウラジオストクのホテルはコストパフォーマンスが今ひとつだが、ホステルのほうはここ数年で急激に増えて選択肢が広がった。その多くがウラジオストク駅から徒歩圏内にあり、交通の便もよい。
2016年は、駅近辺にあるジェムチュジナホテルに泊まった。中級ホテルだが、冬は1泊3000円ほどで泊まれる日もありおすすめできる宿だ。
今回利用したのは、駅から徒歩10分ほどで、急坂を登った高台にあるCapsule Hotel Zodiac。いわゆる「インスタ映え」する宿で、宇宙船を模したカプセルは日本のものよりもスペースに余裕がある。カプセルの入口とロッカーはカードキーで施錠でき、セキュリティーは万全。共用のシャワールーム(タオルあり)やトイレも清掃が行き届いていた。
なお、ウラジオストクのホテルはExpediaよりもBooking.comの方が強いようで、掲載件数が3倍ほど多かった。
宇宙船のような内観がおもしろいCapsule Hotel Zodiac
キリル文字を覚えると旅はぐっと簡単に
外国人が泊まるような宿泊施設では英語が通じるが、一般の店ではロシア語のみと思っておくほうがよい。キリル文字とラテン文字の相互変換をできると旅行中の精神的負担が少なくなる。
一見、意味不明なキリル文字も、ラテンアルファベットに変換すると英語のスペルに近く意味が推測できることも多い。33文字しかないのでこの際暗記してしまおう。
加えて、簡単なあいさつ言葉、数字ぐらいを押さえておけば初ロシア旅行の準備としては十分と言える。今はGoogle翻訳を駆使すれば大抵のことはどうにかなるが、キリル文字を読めるにこしたことはない。
かつては隠された軍港だったウラジオストクもいまではオープンになった
SIMカードは格安で変える
ウラジオストクの空港でSIMカードが買える。ただし、到着が夜になった場合はウラジオ市内で購入することになる。大手キャリアであるBeelineやMTCのショップは簡単に見つかる。
携帯ショップの店員さんに英語での会話は期待してはいけない。出発前に自分のスマホ言語をロシア語にする方法を確認しておこう。こうすれば渡すだけで設定まで済ませてくれるのでスマートだ。
今回私が購入したのはBeelineのSIMで、店頭で200ルーブル(約330円)を支払うとそこから1日ごとに13ルーブル(約20円)課金され、1か月で17GBを上限に使えるというものだった。短期旅行なら適当なプランを選んでも構わないぐらいほど、ロシアのSIMは格安だ。
今回に限らず、入国後すぐにはSIMが買えない場合に備えて、私はAIRSIMを常備している。
https://www.airsim.com.hk/index.php?route=common/home
香港の通信会社が提供しているサービスで、ほぼ全世界でローミングが可能なSIMだ。ロシアでのローミングは1GB48時間有効のものが68香港ドル(約950円)と、現地SIMと比べて割高だが非常用としては使える。私は香港で購入したが、今はAmazonでも販売されている。
ちなみに、ロシアではLINEが規制されている。新着通知は来るが、本文を読むことができなかった。ただ中国レベルのがちがちなブロックではないので、VPNを使っての突破は難しくない。今回のウラジオストクではWindcsribeというVPNアプリを使いLINE接続ができた。
お金はクレジットカードで
ウラジオストク空港にも両替所はあるが、レートはよくない上に1か所しかなく混み合うこともある。クレジットカードでのキャッシングがベスト。ATMとの相性があるので複数のクレジットカードを持っていこう。
私が愛用しているのは三菱UFJ銀行VISA(DC)カード。キャッシングの金利は18%のものが多いが、これは14.5%と低い。また、帰国後にコールセンター(フリーダイヤル)に電話すると平日14時までであれば即時に三菱UFJ銀行の口座から引き落としてくれるので、振り込む手間も要らない。三菱UFJ銀行に口座があるのなら持っておいて損はない。
最低300円あれば1食が食べられる
そこそこよいレストランで1500~3000円。スタローバヤ(セルフ式大衆食堂)であれば500~1000円程度。サンドイッチ、シャワルマ(ケバブ)などのファストフードは300円ほど。節約が必要な旅行でも、1日の食費を1000円程度に抑えることは可能だ。宿代と食事代をクレジットカードで支払い、徒歩と公共交通機関で観光すると現金を使う機会は少ないかもしれない。スーパーや後述するスタローバヤなどでもクレジットカード支払いに対応している。
あまりイメージがないかもしれないがロシア料理はおいしい
*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春
『バックパッカーズ読本』編集部 格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。
来生杏太郎(きすぎ・きょうたろう) 1972年福島県生まれ。外国人向けゲストハウスのマネージャーを経て現在はホテル勤務。都内大学を卒業後、Uターン就職した地方銀行を26歳で辞めて長旅に出る。ワーキングホリデーでパースとメルボルンに滞在したあと、念願だったユーラシア横断を果たす。転職の合間に1ヶ月から半年ほどの旅を重ね、バックパッカー旅行歴は初海外の1995年以来通算で3年半余り。故向井通浩氏運営の「バックパッカー新聞」に不定期連載。「第2回yomyom短編小説コンテスト」(新潮社)入賞。「私が見た中国 SNSフォトコンテスト」(中国駐東京観光代表処)特別賞。 |