韓国の旅と酒場とグルメ横丁
#121
「韓国ロス」のみなさんへ〈15〉先日のオンライン講演補足
11月23日、「食生活ジャーナリストの会」が主催したオンライン・シンポジウム「コロナ禍の〈食〉とメディア 海外と日本それぞれの現場から」で、ソウルからコロナ時代の韓国の食文化について講演をさせていただいた。
今回は、そのときに話し切れなかったことや、伝わりづらかったと思える点について補足的に書くことにする。
※以下、太字部分が講演で話したこと。並字部分が補足。
2020年、コロナ同様にショックだったのは、地元(江東区千戸洞)の生活市場が撤去されてしまったこと。写真は上が更地になった千戸市場、下が在りし日の千戸市場
辛いものを食べてスッキリするという感覚
写真上が映画『パラサイト 半地下の家族』で話題となったチャパグリの激辛バージョン。左下が激辛スジェビ(すいとん)、右下が激辛の麺類
この写真はコンビニやスーパーで撮ったものです。
パッケージの色でなんとなくわかると思いますが、最近、辛さを強調した商品が目立っています。
私たち韓国人はもともと辛いものをよく食べますが、コロナ以降、より辛いものが求められています。日本のみなさんにはピンとこないかもしれませんが、韓国人には「辛いものを食べるとスッキリする」という感覚があるのです。
「あ~、むしゃくしゃするから、今晩辛いものでも食べよう」
なんて言う人が多いんですね。
季節に関係なく、辛いものを食べて汗をかくと、ストレスが解消されるんです。
先月、ソウル市が、
「コロナ時代のストレスを癒してくれる食べものは何ですか?」
という質問を1万人にしたところ、
1位がトッポッキ。これはお餅に甘辛のタレをからめて炒めたもの。
2位が韓国ドラマにもよく出てくるフライドチキン。ビールの友です。
3位がキムチ鍋。
ベストスリーのうち、2つが辛いものだったんです。
韓国人にとって辛いものを食べることは一種のスポーツなのかもしれません。
辛さは「味覚」ではなく「痛覚」だという説がありますが、辛いものを食べてスッキリするという感覚は、言い換えれば、より強い痛みと向き合うことで他の痛み(憂い)を忘れるということなのかもしれません。
最近の日本のYoutubeでは、激辛焼きそばにチャレンジしている映像をよく見かけます。日本の人たちは辛いものを食べることをイベントとして楽しむことで、ストレスを解消しているのかもしれませんね。
2020年は大変な年でしたが、今月は辛いものを美味しく食べて「忘年」したいものです。
写真上がトッポッキ、左下が出前したフライドチキン、右下がキムチチゲ
コロナ後、韓国の食はどうなると思いますか? という質問に対する回答
外出を避ける傾向にあるため、家で過ごす時間が増えました。その結果、家族で食事する機会も増えたんですね。この20年間、PCやスマホが普及したり、一人世帯が増加したりしたことによって、急激に個人主義が発達してきたといわれる我が国ですが、ともに食事することで再び家族の絆が深まることが期待されています。
韓国語では、食べる口(食口)と書いてシックと読むのですが、食口は家族と同義語なんです。ともに食べてこそ家族というわけですね。
肉親や我が家を意味する「ウリ シック」という言葉は、韓国ドラマや映画にもよく出てきますので、チェックしてみてください。
また、コロナ禍によって会食の機会が減り、一人メシ、一人酒に対する抵抗感がさらに少なくなっていくでしょう。
それでもやはり、家族や仲間とみんなで楽しく飲み食いするのが我が国の美風だと私は思っています。
韓国旅行にハマる日本の人の多くが、その楽しみとして韓国人との飲み食いを挙げています。私の読者さんには特にそういう人が多いですね。
日本は韓国よりもずっと早く個食化が進んでいます。食べたいものを、食べたいときに、好きなだけ食べられる個食は確かに気楽ですが、反面、それを寂しいと感じている人も多いのかもしれませんね。
私は今後も、ともに飲み、ともに食べる楽しさを伝える仕事をしていきたいです。
2019年の夏に行われた、映画『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』の撮影地巡りに参加した日本人とマッコリを楽しむ筆者
*ソウル発オンラインイベントのお知らせ
12月18日(金)夜、鍾路3街の大衆酒場(予定)から金曜夜のソウルの空気を伝えながら、2020年の韓国を振り返ります。また、アフターコロナに行きたい地方の町についてもお話します。お申し込みは、下記のA PEOPLE SHOPで受け付け中。
※第1部(19時30分~20時30分)はお席があります。第2部(20時45分~)の忘年会は満席となりました。
*ソウル発オンライン講座のお知らせ
2月7日(日)夕方、日本のみなさんが約1年間訪問できなかったソウルの街の変化についてお話します。お申し込みは、下記の栄中日文化センターで受け付け中。
https://www.chunichi-culture.com/center/sakae/
本連載を収録した新刊『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』が、双葉文庫より発売中です。韓国各地の街の食文化や人の魅力にふれながら、旅とグルメの魅力を紹介していきます。飲食店ガイド&巻末付録『私が選んだ韓国大衆文化遺産100』も掲載。ぜひご予約ください。
双葉文庫 定価:本体700円+税
*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でご覧いただけます。
*本連載は月2回配信(第1週&第3週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!
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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7 |
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