台湾の人情食堂

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#120

「台湾ロス」の皆さんへ〈11〉忘れられない旅 馬祖編(4)

文・光瀬憲子

 年末年始には台湾に行けるのでは? などと、のんきに考えていたが、どうやら一般旅行者の渡航はまだ先のようだ。だが、ワクチン開発など明るいニュースも出始めている。自由に台湾の地を踏めるまであと少しの我慢かも。今回も忘れられない馬祖の思い出に浸りつつ、次の旅への期待を盛り上げたい。

 

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南竿エリアのカフェ「夫人咖啡館」から馬祖の海を望む

 

美酒の島 

 馬祖には、台湾本島ではあまりお目にかかれない珍しい食べ物がいくつかあるのだが、酒に関してもちょっと特別だ。馬祖は水がきれいなため、美味しいお酒ができる。

 日本で中華料理と言えば、思い浮かぶのは紹興酒。少し甘みのある茶褐色の醸造酒で、「黄酒」(ホァンジョウ)に分類される。この黄酒を熟成させたものを「老酒」と呼ぶ。老師、老街など、「老」の字が付くものには品格があり、深みがある。老酒も例にもれず、味わい深い濃厚な酒の代名詞だ。馬祖で作られる老酒はとりわけ高級品として扱われる。

 もうひとつ、馬祖は「白酒」(バイジョウ)でも有名だ。高粱酒とも呼ばれる透明な蒸留酒で、アルコール度数は50パーセント前後と極めて高い。ショットグラスで飲まれるため、メキシコのテキーラを連想させる。特に水が綺麗で気温が低い馬祖の東引には銘酒が多い。アルコール度数が高いので敬遠されがちだが、とても香りが良く、翌日に残らない良酒だ。

 

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馬祖の「八八坑道」で熟成するのを待つ老酒の酒甕。近くにはお土産を買える店もあり、試飲もできる

 

 馬祖の南竿エリアにはこの黄酒と白酒を熟成させる「八八坑道」という洞窟がある。暗い洞窟に大きな酒甕が整然と並ぶ様子はなかなか迫力がある。

 旅行中、馬祖でレストランを経営している地元男性と知り合い、彼の店にお邪魔した。馬祖の男性たちは皆お酒が強いのか、それとも白酒を飲み慣れているのか、客にもアルコール度数50パーセントの酒をどんどんすすめてくる。フルーティーな香りに誘われてつい飲みすぎてしまうが、翌朝は二日酔いもなく、爽やかな朝を迎えることができた。

 

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土産物店でも黄酒や白酒は主役級の扱い

 

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高粱酒または白酒と呼ばれる蒸留酒。ウォッカのようにクセがなく、さわやかな香り

 

カフェで出合ったフルーティーな老酒 

 バイクで南竿を巡っていると、「夫人村」という不思議な名前の村で、「夫人咖啡館」という喫茶店に遭遇した。

 馬祖は台湾の最北地点だが、それでも沖縄とほぼ同緯度だ。温かい南国の海には赤い花が咲き誇る。「夫人咖啡館」は海を見渡せる最高の立地にある、知られざる楽園のようなカフェだ。もちろんコーヒーもあるのだが、この店の手作りの老酒が忘れられない。

 

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南竿の海に面したところにある「夫人咖啡館」。デカンタに入れられた老酒はフルーティーでほどよい酸味と甘味がある

 

 馬祖の老酒は紹興酒よりも軽やかでフルーティーだ。ほのかな甘味とさっぱりとした香りがあり、一般的な紹興酒よりずいぶん飲みやすい。南国の風景にマッチする、清々しい味わいだ。

 老酒は馬祖料理でも一役買っている。老酒を作るときに使われる紅麹。酒を作ったあとにできる紅麹の酒粕に肉を漬け込むと、栄養価が増してやわらかくなる。馬祖名物の老酒麺線は、スープにもかなりの老酒が入っており、そこに紅麹に漬け込んだ赤い肉がトッピングされている。スープを飲むと酔っ払ってしまいそうだ。

 

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馬祖名物の老酒麺線。紅麹の酒粕で漬け込んだ赤い肉と卵焼きが入っているのが特徴

 

 台北など都市部では、若者があまりお酒を飲まなくなった。日本でもそうだが、部活や接待で否応なく飲まされたのは過去のことかもしれない。

 でも、台湾の地方を旅すると、初対面でもお酒を通して盛り上がり、地元の人と心を通わせることができる。馬祖の白酒が美味しく感じたのは、彼らの清々しい飲みっぷりに惚れたからかもしれない。

 

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夜になると飲兵衛が三々五々集まってくる島の大衆酒場

 

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大きく5つの島から成る馬祖。島から島への移動は船なので、帰りの便に気をつけないと宿まで帰れなくなる

 

(つづく)

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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