台湾の人情食堂
#118
「台湾ロス」の皆さんへ〈9〉忘れられない旅 馬祖編(2)
文・光瀬憲子
かつての旅を思い返し、次の台湾旅行への期待をふくらませる「忘れられない旅」シリーズ。前回から、台湾の離島であり、もっとも中国大陸に近い馬祖(まそ)の旅をご紹介している。軍事基地だった馬祖は今、観光地として人気を集めつつある。
名物、継光餅(ジーグァンビン)はいわば馬祖バーガー。ホテルの朝食に出てくることも
媽祖巨神像を仰ぎ見る
馬祖という名は、海の女神「媽祖(まそ)」に由来している。
媽祖様は、台湾でもっとも親しまれている神様で、台湾全土、ほぼすべての町に媽祖廟(媽祖を祀るお寺)があると言っていい。そんな台湾人の心のよりどころである媽祖様の故郷と言えるのがこの島なのだ。
何百年も前、中国本土から台湾に移り住んだ人々は、海を渡る際、船に海の女神像を船に乗せて航海の無事を祈った。
そして航海を終えると、自分たちを守ってくれた媽祖様を祀る廟を建てた。馬祖には、人の数よりも多い媽祖像があると言われる。
馬祖にある媽祖廟。古く味のある廟には地元の人々が気軽に訪れている
2009年に完成した全長30メートル近い媽祖巨神像。足元まで階段が続いており、登れば絶景が待っている
媽祖巨神像の足元から望む台湾海峡
その一番立派なものが南竿島にある「媽祖巨神像」だ。心臓破りの階段を延々と登ると、その頂きにそびえ立つ30メートルの巨大な像。まるで自由の女神が台湾海峡の平和を見守っているかのようだ。
巨大な媽祖様もさることながら、丘のてっぺんから見渡す馬祖の海には言葉を失う。360度の巨大な海のパノラマが旅人の心を包んでくれる。
馬祖バーガーはベーグル風
馬祖バーガーとも呼ばれる継光餅。かつて将軍が、穴に紐を通して携帯したと言われる
中国本土に近い馬祖には、台湾本島では味わえない独特の料理がある。有名なのはベーグルのように、真ん中に穴の空いた継光餅と呼ばれるパンだ。
ベーグルよりもサクサクしていて、上にゴマがたっぷり。パン自体にあまり味はなく、これに馬祖名物の牡蠣の卵とじを挟んでいただく。具がかなり塩辛いので、周りのパンとほどよく調和して美味だ。もちろん、ハムとチーズを挟めばおしゃれな洋風の朝ごはんにもなる。
馬祖うどんは噛み味が決めて
馬祖の手作り麺。水の清い馬祖は麺が美味しい。肉ダレや野菜をトッピングした乾麺が一般的
もうひとつ、馬祖でよく食べられているのが手作り麺。「うどん」と呼びたくなるような太さで、しっかりとコシがある。
馬祖の飲食店はいい意味でルーズだ。食堂を営んでいる家庭が多く、営業時間やメニューは特に定まっていない。外食するというより近所のおばちゃんの家に食べに行く、といった雰囲気だ。もちろん、きちんとした食堂もあるが、自宅の一部を食堂にしている店が多い。
私が台所の一角のようなところで麺をすすっていると、近所の子供がやってきて、
「おばちゃん、私も麺食べたい。まだある?」
「あと1玉残ってるよ、今作るね」といった具合。
島の人々のおおらかさは、本島から遠く離れた島で、時の流れがゆっくりと進んでいるせいだろうか? 軍事基地であったとは思えないほど、馬祖の人々はおおらかだ。
大きく5つの島から成る馬祖。島から島への移動は船なので、帰りの便に気をつけないと宿まで帰れなくなる
島から島へ。馬祖列島の旅は続く
(つづく)
著者の新刊が双葉文庫より好評発売中です。『台湾一周‼ 途中下車、美味しい旅』、全国の書店、インターネット書店でぜひお買い求めください。
*本連載は月2回(第2週&第4週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
![]() |
著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |