旅とメイハネと音楽と

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フィンランド・タンペレ「WOMEX」取材記〈2〉

文と写真・サラーム海上

世界のサウナの首都、タンペレの最新鋭サウナ『Kuuma』

 2019年10月22日夕方、僕はフィンランドが誇る「世界のサウナ首都」ことタンペレに到着した。その晩に訪れたフィンランド料理のファインダイニングレストラン『Dabbal(ダバル)』を紹介する前に、時間は前後してしまうが、翌23日の午前11時の開店とともに訪れた町の中心にある最新鋭サウナ『Kuuma(クーマ』から話を始めよう。
 フィンランドには18万以上の湖が存在し、その多くがタンペレが属する湖水地方にある。タンペレは北のナシ湖と南のピュハ湖の間に位置し、2つの湖をつなぐタンメルコスキ川が町を東西に分けている。
 宿からタンペレ駅を西側にくぐり抜け、そのま10分ほど西に歩くと、煉瓦造りの古い工場の建物を改装したホテルやショッピングセンターが並ぶ一角に出た。その建物の間の細い通路を通り抜けるとタンメルコスキ川にかかる橋があり、そこを渡り、南西へと蛇行している川岸を数分進むと、クーマに到着した。

 

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タンペレの町を東西に分けるタンメルコスキ川にかかる吊り橋

 

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吊り橋の脇にクーマを発見!

 

 このサウナはヘルシンキにある人気サウナ『Loÿly(ロウリュ)』の系列店で、最新設備のサウナとお洒落なレストランバーからなる。川に面しているため、冷水浴には川に直接飛び込めるのが特徴で、入浴料は平日の昼間なら10ユーロ、約1240円とお手頃。
 11時の開店とともに到着したので、僕はこの日最初のお客だった。温泉や銭湯から発展した日本のサウナとは異なり、フィンランドではサウナは男女共用で、水着を着用して入る。まず更衣室で持参した水着に着替えたが、着替えた後になって、そこが女性用更衣室だと気づき、慌てて荷物を持って男性用更衣室に移動した。ははは、誰もいなくて本当に良かった。いや、誰かいたら「アンタ、何やってるの? ここは女性用よ!」と教えてくれたはず。言い訳を言わせてもらうと、フィンランドではトイレのサインも女性男性ともに水色だし、木彫りで彩色されていないことも多く、日本のようなビカビカな色彩のサインだらけの国から来た外国人には判別が難しいのだ。

 

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シャワーの壁に貼られた木彫りのユニバーサルサインによるサウナ道作法

 

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クーマに併設されたレストランバー

 

 サウナは更衣室の奥にあり、通常のドライサウナと煙突がなく、室内の壁やベンチが煤で真っ黒に燻されたスモークサウナの二箇所だけ。どちらも川を一望出来る大きなガラス窓はあるものの、各部屋に30人ずつ入れば満員になりそうなので、夜や週末はかなり混みそうだ。朝イチで来て良かった!
 しかし、僕が最初のお客だけに、サウナ内はまだ全然温まっていなかった。日本のサウナにはどこにでもある温度計も12分時計もないので、正確な温度も時間もわからないが、室温は摂氏70度前後くらいだろうか? 普段から摂氏89度に慣れている僕には温度が低すぎる。

 

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スモークサウナに入ると、朝一番なので貸し切りだった

 

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開店して一年ほどの新しいお店だが、スモークサウナのサウナストーンや壁は煤で真っ黒になっていた

 

 そこで室内に置かれた小さなバケツに水を汲み、柄杓(ひしゃく)ですくって、ガンガンに熱されているサウナストーンにジャバっとかけると、ザザっと音がして水が瞬時に蒸発する。これが噂に聞いていたフィンランドサウナの醍醐味の一つ、ロウリュか!
 いい気になってバケツ一杯分くらいロウリュを繰り返したら、猛烈に熱い水蒸気が室内上部に対流し始めた。ヤバイ、アチ~い! 湿度モウモウの熱風を浴びて一気に体中から汗が吹き出してくる。これはすごい刺激だ! 摂氏90度を確実に超えている! たったの数分で完全に汗だくだくになった。

 

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ロウリュ用のバケツと柄杓

 

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ロウリュをたっぷりすると、室内はたちまち熱々の蒸気で曇ってきた

 

 そこでサウナを出て、川に面した屋外テラスに出る。テラスにはイスもテーブルもソファも、なぜかブランコまで用意されているが、僕は当然川にダイブ! というのは嘘で、本当は川の水面にかかったハシゴに沿ってそ~っと足から水に浸かる。すると、痛~イほど冷タ~イ!
 川の水温は7度前後。無理して頭まで浸かると、あんまり冷たくて、全身の体力が急激に奪われていくのがわかる。川の水は東京の温泉のような暗褐色で、水の底から川の主が出てきて、足を噛まれて引き込まれても誰も気がついてくれないかも? そんなパニック気分になるほど、冷たい水が一気に体力を奪っていく~。
 ハシゴをつたって川から出ると、今度は冷たい外気に触れて、さらに血流が戻るにつれて、体中がさらにもう一度痛み始めた。ヒイ~!イタすぎる~! 一体全体どうすりゃいいの! それでも血流が戻るにつれて、頭がシャキーンとして、体には力が満ちてくるんだよ。この外気浴、クセになりそうだ! 

 

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川に浮かぶクーマのお客専用の浮き台とプール。正午近いのに太陽が低いのにお気づきか?

 

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ここにダイレクトに飛び込む勇気はなかったな。とりあえず心臓麻痺に注意しな!

 

 スモークサウナでロウリュ→耐えきれなくなるまで大汗かいて→川にソロリソロリと浸かる→体力を奪われ、命からがらでハシゴを登る→外気浴で涅槃……を3セット繰り返す。3回目が終わる頃には、疲れ以上に、体内の気力が強くなっている。前日の10時間のフライト疲れや時差ボケさえも吹き飛んでしまったようだ。

 フィンランドのサウナは本当に素晴らしい! 一週間の滞在中、あと何回サウナに入れるだろう?

 

ファインダイニングレストラン『Dabbal』でフィンランド料理初体験

 さて、続いてはフィンランド料理初体験! ファインダイニングレストラン『Dabbal(ダバル)』へ行こう。
 ダバルとはフィン語ではなく、主に北極圏に暮らす先住民サーミ人の話すサーミ語で「急流の流れの速い水の間にある穏やかな流れがたまる場所」を意味するそう。湖と湖の間に位置するタンペレの町で、地元の食材を現代的なプレゼンテーションで表現するレストランに相応しい名前だ。

 ガラス張りで昼は明るい 国鉄駅から東に五分ほど歩いたラップランドホテル・タンペレの一階にあるお店に到着し、僕が頼んだのはお店の名前のついた3品で48ユーロ(約6000円)のコースメニュー「ダバルメニュー 北の自然の最もおいしい味」と、料理に合わせたワインのペアリングだ。

 

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ラップランドホテル・タンペレの一階にあるダバルの店内


 最初にアミューズとパンとバター。アミューズは日本の湯呑そっくりの器に注がれたカリフラワーのスープ。マスタードがガツンと効いている。お店のウェブサイトにアップされた短い動画によると、食器も地元の陶器業者に頼み、一から作らせているようだ。ミニマルなデザインと彩色が日本の陶器と相通じる。
 パンは北ヨーロッパらしく、通常のものとアニスシード入りのライ麦パンが二種類。ガーリックとタイムを混ぜこんだバターは地中海料理の影響だろう。

 

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ライ麦パン二種とバター

 

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アミューズのカリフラワーのスープ

 

 さて前菜はトナカイのタルタルステーキ。生のトナカイ肉のたたきに、薬味としてドライカシスと森の苔がふりかけてある。付け合わせには人参のスライスとトウヒの若芽のピクルス、さらに瞬間燻製したアイオリ・ソース。
 タルタルとは初っ端から飛ばしている~! トナカイの肉自体、僕は初めて食べるのにいきなり生肉だ。味は鹿のような牛のような濃い赤肉。トナカイも地元食材だが、カシスも苔も湖水地方の森で採れる地元食材だ。ひょっとしてトナカイは普段からカシスや苔を食べているのかもしれない。
 何よりも驚いたのはトウヒの若芽のピクルス。トウヒは日本ではクリスマスツリーの木として知られるが、その若芽はまさに森の松の木のような鮮烈な青苦さがあり、口に入れるとビカ~!シャキ~!と目が覚めるほどだ。初めての味わいだが、どこか懐かしい。せっかくなのでトウヒの若芽のピクルスだけお代わりをいただいた。生肉と一緒に食べると、まさに北国の生命を食べているような気分になった。
 お店のウェブサイトにあるもう一つの動画には、二人のシェフが食材を求めて近くの森に分け入る姿も映っている。樹木の表面の苔を剥がし、トウヒの若芽を採集し、お店の厨房に持ち帰り、それらでピクルスやソースを作るのだ。まさに動画で観たとおりの料理が僕の目の前にあった。いやはや絶品だ!

 

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トナカイのタルタルステーキ。渋い色合いからして今までこの連載で取り上げてきたどの地域の料理とも違う!

 

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トウヒの若芽のピクルスをお代わりした。クリスマスツリーや松の葉の匂いをさらに強烈にしたような青臭さ。日本でも作ってみようかな

 

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トナカイのタルタルステーキをトウヒの若芽のピクルスとともにフォークにのせて。鮮烈な味と感覚!


 続いてのメインディッシュは北極イワナのムニエル。人参のピュレとムール貝のソース、縮緬キャベツのグリルが魚とソースの間に挟まっている。青いお皿にクリーム色のムール貝のソースとオレンジ色の人参のピュレが敷かれ、きつね色に焼かれた北極イワナの皮、さらにオカヒジキとエディブルフラワーがそれぞれ緑と白を添えている。
 北極イワナは北欧に生息する鮭の一種で、パリパリに焼かれた皮もオレンジ色の身も鮭にそっくり。それをムール貝の濃厚な磯ダシが強調し、人参のピュレが甘みと爽やかさを足している。シャキシャキの食感で甘い縮緬キャベツも、モソモソして塩っぱい魚の身とよく合う。
 おっとペアリングのワインだが、前菜にはドイツ南西部ラインヘッセンのピノ・ノワール。そして、メインにはフランス・アルザス地方のリースリング。どちらも産地がライン川沿いで、前菜に赤でメインが白というのも面白い。北国の料理にはやはり北国であるドイツっぽいワインが合うのだろう。

 

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北極イワナのムニエル、人参のピュレとムール貝のソース。こちらも色彩、異なる味わい、食感のコントラストが素晴らしい!


 デザートの前のお口直しには、溶岩のお皿に盛り付けられたカシスの葉のシャーベット。カシスの葉なんて口にするのは初めてだが、これまた深くて冷たい森の味がして、シャキっと目が覚めた。
 そして最後にまたまた驚いた。デザートには上からコケモモのメレンゲ、コケモモのアイスクリーム、ポルチーニのアイスクリーム、ポルチーニのメレンゲが重なっていて、コケモモの実が散らしてある。
 ベリー系のフルーツとポルチーニを合わせるなんて、ポーランド料理あたりにも探せばあるかもしれないけど、普通、ポルチーニをアイスクリームにするか?メレンゲにするか? 日本で言えばイチゴと松茸でアイスとメレンゲを作るようなものだろう? しかし、この奇妙な組み合わせが実に美味いんだ! ポルチーニの濃密な森の幸のダシがコケモモにまったりと絡み合い、これまた止められなくなる。
 このデザートにペアリングしてもらったのはオーストリアのデザートワイン。いつもトルコやイスラエルやスペインやイタリア、南仏などの暑い国や地域のワインばかり飲んでいる僕にはこの寒い国や地域のワインのセレクトも新鮮だった。
 お腹に丁度良いコースで、合計86ユーロ(約10700円)。フィンランド料理初体験の僕にとって、現代的なダバルは大満足。ここも滞在中また来たいなあ。

 

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カシスの葉のシャーベット。こちらも森の幸! カシスの葉が美味いなら、イチゴやブルーベリーの葉も美味しいのでは?

 

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コケモモとポルチーニのメレンゲとアイスクリームの四層重ね。ポルチーニを使ったデザートなんて!?

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 Nittnaus Beerenausleseというオーストリアのデザートワイン。フィンランドは物価が高いのでワインは一杯、最低でも12ユーロ=約1500円するが、デザートワインは別として、普通のグラスは一杯の量が150ccほどとかなり多め

 

冬の間、何度でも作りたい! 野菜のピクルス

 さて今回のレシピは野菜のピクルス。中東でも北欧でもピクルスは大人気。12月の日本はちょうどキャベツやカリフラワーが旬。安いのでまるごと一株買ってみたものの、食べきれないうちに悪くしてしまうこともよくある。そんな時、ピクルスにすれば一気に使い切れるし、しかも、塩と酢と水とお好みのスパイスやハーブと一緒に大きめのジップロックに入れて空気を抜いて一日放置するだけだから超簡単!
 大量に作ったつもりでも、意外とすぐに食べ終えてしまうので、冬の間、何度も何度も作ることになりそう。しかも乳酸発酵が進めば、整腸作用があるのも最高! 皆さんもこのコラムを読み終えたら、冷蔵庫の野菜室の残りものでぜひトライして!

 

■野菜のピクルス
【材料:作りやすい分量】
キャベツ:400g
カリフラワー(またはロマネスコ):400g
玉ねぎ(または紫玉ねぎ):小1個(100g)
パプリカ(黄色、オレンジ、赤、何色でも):1個
国産レモン(または柚子):1個
にんにく:2かけ
イタリアンパセリ:2枝
月桂樹の葉:2枚
粒胡椒:小さじ2
鷹の爪:2本
水:150cc
穀物酢(またはお好みの酢):150cc
塩:30g
【作り方】
1.キャベツ、カリフラワーは食べやすい大きさに切り分ける。玉ねぎは皮とヘタを取り、薄切り。パプリカは種とヘタを取り、食べやすい大きさに切る。レモンも薄切りにする。2.ボウルに水、穀物酢、塩を入れ、塩をよく溶かす。
3.大きなジップロックに1の野菜、にんにく、イタリアンパセリ、月桂樹の葉、粒胡椒、鷹の爪を入れ、2のマリネ液を流し込む。野菜を押さえつけて、袋から余分な空気を出しながらジップロックで封をする。大きなボウルやタッパウェアなどにジップロックごと入れ、時々上下を返しながら、室温で一日置く。一日後から食べられる。日に日に乳酸発酵が進み、味が変わってくる。冷蔵庫にて一週間ほど保存出来る。

 

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野菜をマリネ液とスパイス、ハーブとともにジップロックで漬け込んだところ

 

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 室温で一日置いて野菜のピクルスの完成! 中東料理のメゼにも、その他、大抵の洋食にも合うのでぜひ!
 

(フィンランド編、次回に続きます。お楽しみに!)

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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