旅する&恋する! 韓国ドラマ
#09
韓国ドラマ考察〈6〉わかめスープで恋をする
文・『韓国TVドラマガイド』編集部/高橋尚子
『シグナル』『1%の奇跡』~理想の嫁の道はわかめスープから
男が女に惚れるとき、そこにはどんな理由があるのか? 一目惚れでもないかぎり、心動かした何かがあるはずだが、韓国ドラマにおいて、それはかなりの割合で「わかめスープ」なのである。なんで? 骨の髄まで日本人の自分にはワケわかめ。嫌がうえでも気にならざるを得ないよ「わかめスープ」!
というわけで、『シグナル』です。
個人的に2016年にハマった韓国ドラマBEST5に入るこのドラマ。物語は若き刑事パク・ヘヨン(イ・ジェフン扮)が偶然手にした無線機により過去の刑事イ・ジェハン(チョ・ジヌン扮)とつながるところから始まります。ここに、ヘヨンの上司で、ジェハンの後輩だった女性刑事チャ・スヒョン(キム・ヘス扮)が絡み、現在と過去、時を越えて無線交信しながら未解決事件を解決していくのですが。
ストーリーと主演俳優チョ・ジヌンのビジュアルだけ見れば、恋愛要素皆無の骨太ドラマと思われて当然。が! 実は「Youたち、もう付き合っちゃいなよ!」な不器用な恋物語もあり、そこがとても良かったりします。そして、ここで話題の「わかめスープ」の登場です!
それは、第13話。無骨な仕事人間ジェハンに一途な想いを寄せる後輩スヒョンは、ある事件以来、引きこもってしまったジェハンを案じ、彼の家を訪ねます。そこでひょんなことから、その日がジェハンの父親の誕生日と知ったスヒョンは、ジェハンの顔を見るやこう言うのです。
「今日はお父様の誕生日じゃないですか! わかめスープは作ったんですか? 一度も作ってさしあげたことがないでしょ!」
お前は嫁か?な世話焼きぶりで、市販のもので済ませようとするジェハンに、「誕生日は心が大事だ」と説くスヒョン。いさんで市場に材料を買いに行くも、わかめと海苔の違いもわからず、キッチンに立っても、あやしげな手元。「作り方は合ってるのか?」と不安がるジェハンの予感は的中で、はじめは誕生日のわかめスープに喜んでいたジェハンの父親も、一口食べて以降、口をつけようとせず(笑)。
ここで大事なことは、どんなに不味かろうが、誕生日をわかめスープで祝ってあげたいという気持ちがあることで。調理法も知らないワカメスープ作りに必死で挑むスヒョンに、ジェハンが心動かされるのも至極納得なのです。
『シグナル』は『トキメキ☆成均館スキャンダル』『ミセン−未生−』の演出家による最新作で、クオリティは保証済み!
右端のジェハンと中央のスヒョンのロマンスが泣ける!
2016 STUDIO DRAGON CORPORATION&ASTORY Co.,Ltd.
これに似たシーンが、『1%の奇跡』にあります。それは、チェイン(カン・ドンウォン扮)の家に嫁いだ新妻タヒョン(キム・ジョンファ扮)が、姑の誕生日と知り、キッチンでわかめスープ作りと格闘するエピソードです(第25話)。料理ができないタヒョンは、実家の母親にSOSの電話をするなど、早朝から大騒ぎした末、完成したわかめスープは真っ黒という…(わかめの色でなく、スープの色が)。そんなわかめスープを前に、姑はにこりと笑って一言、「嫁がいると、誕生日にわかめスープが出るわ!
家族でさえ、これまで一度も気遣ってやれなかった母親の誕生日のわかめスープ。不味そうな見た目はさておき、それを作ってくれたタヒョンの心遣いに感動したチェインは「お前と結婚してよかった!」そう言って、彼女を抱きしめるのですよ! もう、手作りわかめスープの威力、どんだけ~!
『1%の奇跡』料理ができずとも妻は務まる!の好例
MBC©2003
『天国の階段』『優しい男』~人生を変えた一杯のわかめスープ
誕生日のわかめスープで初めての恋にオチた男もいました。それは、『天国の階段』の少年テファ(子役イ・ワン)です。荒くれ者で、実母からも冷遇を受けるテファが、寒い衣装部屋に閉じ込められていたときのこと。テファの誕生日だと気づいた義妹の少女チョンソ(子役パク・シネ)は、衣裳部屋で凍えるテファのもとに手作りのわかめスープを運んでやるのです!(第2話)
その場ではスプーンを投げ捨てるテファですが、チョンソが去った後の部屋で泣きながらスープを飲んだりして。この「誕生日のわかめスープ」事件を機に、テファのチョンソへの一途愛(ときに暴走愛)が始まるのです。たった一杯のわかめスープで、恋なんて…。
『天国の階段』では、チェ・ジウとシン・ヒョンジュンの子役を演じたパク・シネ&イ・ワンの名演も注目を集めました。懐かしや…
他にも『優しい男』では、主人公のマル(ソン・ジュンギ扮)を殺そうとしていた前科者ジェシク(ヤン・イクジュン扮)が、誕生日にマルの妹チョコ(イ・ユビ扮)がわかめスープを作ってくれたことに感動し、そんなチョコの兄を殺すなんてできない、と変心するエピソードもありました(第20話)。
わかめスープは、人生を変える。そんなエピソードが韓国ドラマでは日常茶飯なのです。
『私の期限は49日』『青い海の伝説』~わかめスープは母の味!
誕生日の朝に、わかめスープで祝ってもらえない人は、ひたすら寂しく、ただただ不憫な人に思われる、この風潮。なぜ、韓国ではそんなに誕生日のわかめスープにこだわるのか?
これは、出産後の女性が回復食としてわかめスープを食べる習慣があることに起因するそう(わかめは母乳の出もよくするらしい)。そこから、誕生日には自分を産んでくれた母親への感謝を忘れないため、お産と切っても切れない関係のわかめスープを「誰かに作ってもらって」食べる慣習が定着しているのだとか。孤児だったり、愛されずに育った子供は、誕生日にわかめスープを食べることもなく、それがとても悲しい思い出として残る、というわけ。
それで思い出したのが、ファンタジーロマンスの感動名作『私の期限は49日』の「わかめスープ」エピソード(第8話)。ワインバーのオーナーであるガン(チョ・ヒョンジェ扮)の誕生日に、バイトのイギョン(イ・ヨウォン扮)がわかめスープを持ってくるシーンです。酒に酔いつぶれて寝ていたガンは、目の前に置かれていたわかめスープに驚きます。なぜなら、それは母との思い出が詰まった貝入りのものだったから。その話を知るのは、自分以外に高校時代の同級生ジヒョン(ナム・ギュリ扮)しかいないのです!
実は、イギョンにはジヒョンの魂が乗り移っていて、このわかめスープをきっかけに、それまで不審に思っていたこと、イギョンこそジヒョンだという事実に確信を抱くのですよガンは!(だって初恋だったし!)
心温まるファンタジー『私の期限は49日』は冬に見返したくなる!
©2011 SBS
韓国で現在放送中のイ・ミンホ主演最新作『青い海の伝説(伝説)』でも、わかめスープは主人公ジュンジェ(イ・ミンホ扮)の心を動かします(第3話)。両親の離婚により、生き別れた母親を捜し続ける彼は、ガールフレンドのシアが持ってきた誕生日のわかめスープ(ウニ入り)を口にし、母の味を感じちゃうのです。
自分が作ったと言い張るシアですが(悪女!)、実は兄の家の家政婦に作ってもらったわかめスープで、その家政婦こそジュンジェの実母なんですね~。
そう、わかめスープは母の味なのです!
『青い海の伝説(伝説)』は衛星劇場にて2017年2月、先行放送決定!
©STUDIO DRAGON CORPORATION
衛星劇場HP http://www.eigeki.com/topics?action=detail&topic_id=1419
ちなみに、韓国では昔、わかめは貴重な食材だったため、わかめスープは”ご馳走”という意味もあるとのこと。味は、日本のわかめスープの味とはまるで異なり、作り方も、韓国ではわかめをごま油で炒め、米の研ぎ汁で煮込む作り方が一般的と、かなりの相違。
ポピュラーなのは、牛肉とわかめを煮込んだものですが、貝や魚を使って出汁をとったわかめスープもあり、さらに上品な味わいになるとか。済州島では、ウニやアマダイをいれたわかめスープもあり、出身地により具や出汁が変わってくるのは、日本の雑煮と同じようなものか。
そうそう、大ヒットシリーズ『応答せよ1997』では、両親のいないユンジェ(ソ・イングク)の誕生日に、家族のような付き合いであるシウォン(チョン・ウンジ扮)の母親がわかめスープ(魚入り)を作って食べさせるシーンがあります(第1話)。
同じ誕生日であるシウォンの父親は全羅道出身で、わかめスープといえば牛肉入りが定番。肉が入っていないことに散々文句を言いますが、「釜山ではこれがふつうだ」と妻は言い張り、あげく「ユンジェと同じ誕生日じゃなければ、わかめスープなんて作らないわ!」と、ばっさり。母の味か、妻の味か、ときにわかめスープは夫婦論争にもつながるものなのです。
『応答せよ1997』では釜山風魚入りわかめスープが登場
©CJ E&M CORPORATION
『私の名前はキム・サムスン』他~わかめスープで口説け!
他にも、『美男〈イケメン〉ですね』では、テギョン(チャン・グンソク扮)の誕生日だと知ったミナム(パク・シネ扮)が、まずはわかめスープだ!と思い、コンビニに買いに行くも、ゴマアレルギーのテギョンはわかめスープが食べられないというオチがつき(第9話)。
『私の名前はキム・サムスン』では、ようやくサムスン(キム・ソナ扮)に対する自分の気持ちに気づいたジノン(ヒョンビン扮)が、ハルラ山に登りに行った彼女を追いかけ、水筒に入れて持っていったわかめスープ(ウニ入り)で、口説く場面も(第13話)。
「誕生日だろ、ウニ入りわかめスープだ」「感動しただろ?」
誕生日のわかめスープひとつで、えらそうなジノンがツボですが。まぁとにかく、わかめスープで感動させることができるのです韓国では!
そんなわかめスープの話をしていたら、メーカー担当のM君がこんなネタを提供してくれました。
「映画『建築学概論』で、大人になったスンミン(オム・テウン扮)がソヨン(ハン・ガイン扮)の家を建築中に、彼女をごはんに誘い、“わかめスープ食べよう”と言うシーンが良かったです! 15年ぶりにあった初恋の人の誕生日を憶えていたことがわかり、とても好きなシーンなんです!!」
味はどうでも、人の心を動かす誕生日のわかめスープ、いやぁ深いわ!
●DVD情報
『1%の奇跡』
〈シンプルBOX 5,000円シリーズ〉DVD-BOX1&2 各5,000円
発売・販売元:エスピーオー
[2003/全26話]出演:カン・ドンウォン、キム・ジョンファ、ハン・ヘジン
『私の期限は49日』
コンパクトDVD-BOX[期間限定スペシャルプライス版] 5,000円
発売元:フジテレビジョン/ポニーキャニオン 販売元:ポニーキャニオン
[2011/全20話] 出演:イ・ヨウォン、チョ・ヒョンジェ、チョン・イル
『応答せよ1997』
〈シンプルBOX 5,000円シリーズ〉DVD-BOX1&2 各5,000円
発売元:応答せよ1997製作委員会 販売元:エスピーオー
[2012/全16話]出演:ソ・イングク、チョン・ウンジ(A Pink)、ホヤ(INFINITE)
●『韓国TVドラマガイド』vol.68好評発売中!
本誌最新号、68号が2016年12月19日に発売されました。表紙はイ・ミンホ。最新作「青い海の伝説」のほか、過去作のミンホ的見どころを一挙解説!! 年末番組表も一挙掲載! そのほかの特集は、下の目次をご覧下さい。
●『韓国ドラマガイド別冊 保存版最新ドラマFILE』好評発売中!
『韓国TVドラマガイド』保存版。巻頭特集にはイ・ジョンソク、ソ・イングク、イ・ジュンギなど豪華スターが勢ぞろい。人気作の全話解説をはじめ、ハマる話題作、最新時代劇、長編ロマンスなど、220タイトル一挙紹介!
*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)予定です。次回もお楽しみに!
『韓国TVドラマガイド』編集部 韓国のTVドラマ、映画、K-POP総合情報誌『韓国TVドラマガイド』(双葉社スーパームック・偶数月22日発売)編集部。本誌では人気スターのインタビューやドラマの詳しい解説、DVDリリース情報、テレビ番組表、現地エンタメの最新情報も掲載。編集部公式ツイッターはこちら→https://twitter.com/kankoku_tvguide |