日本のジビエ【GIBIER】
#07
「石巻・牡鹿のジビエ」山本益博
これまで石巻と言えば港町のイメージしかなかった。2011年3月11日の「東日本大震災」のあと、ボランティアで2度ほど石巻を訪れているのだが、海ばかり眺めていて、森は見ていなかった。考えてみるまでもなく、リアス式海岸が続く「牡鹿半島」、その名前に「牡鹿」(おしか)とついているではないか。その石巻で鹿の料理、つまり、「ジビエ」が食べられるのだという。これは、季節になったら出かけなくてはならない。
大震災後しばらくは、鉄道が不通で、仙台からバスで2時間以上かかった記憶がある。今回は、すでに復旧なって久しい「仙石線」で、仙台から石巻まで、ちょうど1時間の旅である。
「ジビエ」は近年まで辞書には「野禽獣」と訳されていた。「獣」には違いないが、この字がつくと、「獣臭い」に直結する人が多かったのではなかろうか。私は、今から45年も前からフランスへ出かけて、秋も深まった季節になると、鴫、野兎、雉をはじめ、小猪、鹿などの「ジビエ」料理に舌鼓を打ってきた。ローヌで食べた「ベキャス(山鴫)」アルザスで食べた「マルカッサン(子猪)」パリで食べた「フェザン(雉)」の味は今でも思いだすほど、「家禽」の鳥や豚とは一味違う野味があふれていた。
いま、日本では「ジビエ」と言えば、「鹿」「猪」くらいしか思い浮かばない人が多い。鹿など「害獣」などと呼ばれて、駆逐されるために捕獲されているとも聞く。ここはひとつ、「自然・天然」の美味として、「ジビエ」という言葉が人口に膾炙してゆくことを望むばかりである。
アントラークラフツ
今回、石巻の市内から1時間ほど車を走らせた小積浜にある「アントラークラフツ」に、鹿を仕留める名人を訪ねた。
名人小野寺望さんは、鹿を一発で仕留め、素早く解体し、その自然の命を、自分たちの命をつなぐものとして、敬意を払う。
ジビエの思いを熱く語る小野寺さん
温度管理された清潔な保存倉庫。保存倉庫には鹿だけでなく牡鹿の天然鴨も
脂がのった最高級の鹿肉。見事な熟成ぶり
調理する仙台のレストラン「ヒヒヒ」の伊藤シェフ。
慣れないテストキッチンでじっくり低温ロースト。最高のコンデションに
食べごろになった鹿を、解体小屋に作られたテストキッチンで、「鹿肉のロースト」をいただいた。
赤身の肉ならではの酸味と優しい油脂の香りで、しかも、とても柔らかな肉質。くせのない牛肉などより、「肉を食べる」醍醐味と「自然の命をいただく」尊厳がある。
食べながら、ジビエは「野禽獣」ではなく「山野禽」とでも訳すべきと思った。
牡鹿の鹿肉ローストばかりでなく、牡鹿の鴨肉とセリを使った鴨鍋も堪能した。編集部
Antler Crafts
―宮城県・石巻市小積浜―
Antler Crafts [Ishinomaki Miyagi]
小野寺望(アントラークラフツ)
1967年、宮城県気仙沼市生まれ。宮城県石巻市在住。
石巻猟友会所属。牡鹿半島でニホンジカの有害獣駆除を担い、狩猟や野生食材などを採取しながら、食材とともに食材の育つ背景を伝える食猟師。四季折々の石巻の気候風土に育まれた自然の恵みと、野生食材が持つ食材本来の味と姿を食と自然体験のプロジェクトを通して発信し続けている。2017年よりリボーンアート・フェスティバルとニホンジカの解体処理と牡鹿半島の自然の恵みを伝える拠点「アントラークラフツ」を作る。
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Antler Crafts 【住所】宮城県石巻市小積浜字谷川道44 |
★スペシャルシェフ:伊藤久之(Vin et cuisine ヒヒヒ)
「Vin et Cuisine "ヒヒヒ"」
【住所】宮城県仙台市青葉区北目町3-10 ベルソーレ北目町101
*山本益博さんの情報はコチラから。
『夫婦で行く1泊2食の旅』(「TABILISTA」連載コラム)
※山本益博さんには、「TABILISTA」の『石巻/牡鹿半島~絶景・美食・縄文~』において、「石巻で小さな復興の芽が育む」というコラムを寄稿していただいたので、こちらもチェックしていただきたい。
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山本益博(やまもと ますひろ) 1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。 |
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